モンスターを配置しよう
誤字報告ありがとうございました
「モンスターってどうやって手に入れるの?」と私は当然の疑問をアバドゥンにぶつける。
この世界には、捕獲するボールどころか、モンスターそのものがいないのだから。
「無ければ生み出すのだよ、お嬢さん」とアバドゥンが答える。
「じゃあダンジョンみたいに思い浮かべてみれば良いの?」
「我が輩は、穴や迷宮は作り出せるが、モンスターは管轄外である。作り出せんぞ」
「じゃあ誰が生み出すの?」
「お嬢さん、君だよ」
「無理だよ、人間だもん」
○○○
アバドゥンに詳しく話を聞くと、モンスターとは人間の想像力の産物なのだそうだ。
強く数多くの人間の思考が重なり、生み出されるらしい。
その際に、神話の残滓や神様のカケラなんかも使われることがある、とも言われた。
土着信仰の神様をモンスターにするやり方は、昔から人間がよくやるやり方だ、とアバドゥンが教えてくれた。
「それとな。縁もゆかりもないものはダンジョンには持ち込めないぞ」
「どういうこと?」
「うーむ。黄門さまがピンチだからって、江戸時代に自衛隊は出て来ないであろう?」
「なるほど」
だいぶ俗っぽい例えだけど理解出来た。
舞台にあった登場人物を出さなくていけないのか。
「夢だからってなんでもありってわけじゃないのね」
「現実とリンクさせ、ルールを定めた時点で、なんでもありではなくなっているのだよ」
「現実とリンクさせるって時点でなんでもありを使い果たした、ってことね。わかったわ」
翻って、モンスターを生み出さなくては。今のままでは、ただの不気味な通学路だ。
「お地蔵様とか協力してくれないかしら。首を取られたりして、いい感情は持っていないと思うし」
「誰に対しても慈愛を注ぎ、救済するから地蔵菩薩なのだと、我が輩は思うがね。モンスターにするのならば、むしろ」
「むしろ?」
「首無し殿に縋っていた者たちは、自分たちの信仰を穢されたと怒っているかもしれない。彼らはどうだろうか」
「縋っていた者たち?」
「うむ。見えるようにしてしんぜよう」
アバドゥンがそういうと、首無し邪神像の周りに人に似た人でない何かが集まっているのが見えるようになった。
「きっかけとゆかりが出来たので、生み出すことが出来たようだな。本来の姿とはだいぶ違うようだが、アレは地獄の亡者のようである」
「口から火を吐いているようだけれども」
「うむ。どうやら首無し殿は、餓鬼道の守護菩薩をされていたようであるな。餓鬼どもが群がっておる」
おばあちゃんが言っていた。
食べ物を粗末にした人は地獄に行く。
そこでは食べ物が火になってしまうから、何も食べれず常に空腹で、お地蔵様に縋っているのだ、と。
その心の支えの首を刎ねるとなると。
「アバドゥン、餓鬼ってモンスターになる?」
「生み出したのはお嬢さんだよ。言い方は悪いが、君の妄想の産物であり、本来の餓鬼とは異なる者たちだ。ダンジョンマスターたる君が使役するモンスター以外の何者でもない」
「なるほど」
妄想の産物とは酷い言い草だが、きっかけ(いじめられエピソード)とゆかり(関連するエピソード)があれば、生み出せるらしい。
似たようなエピソードでモンスターを生み出していこう。
○○○
“邪神を崇める火喰いグール”
信仰する邪神像を壊されたことで集結したアンデット系モンスター。背丈はバラバラだが、おおよそ人間の成人程度である。姿を見せると集団で襲いかかる。素早く迫り、まとわりつき、口から吐く火を顔に浴びせかけてくる。
“グールに倒されるペナルティ”
現実世界では口内炎として影響が出る。最初は小さな口内炎程度だが、夢の中で倒される回数が増える毎に、口内炎が悪化する。最終的に口の中が焼け爛れる程まで重症化し、口から食事が出来なくなる。
“グールの攻略法”
食べ物で誘導し、その隙に逃げる。もしくは、彼らが信仰する邪神像の頭部を探し、渡すことで敵対関係そのものを回避する。
「邪神像の頭部は、教室の私の机の中に入れておきましょう。お地蔵様の首を入れられた時と同じように」
「入れた人間が一番最初に攻略法に気づくことになるぞ?」
「そしたら、『お前がこんなことしなければ、こんな目に合わなかった』って仲違いしてくれるでしょ」
「ふむ。犯人も分かり、犯人を孤立させる。一石二鳥であるな」
「ね」
○○○
「グールだけでは、簡単に攻略されてしまうぞ」
「そうね。それにグールを配置出来るのは邪神像の近くだけだったわ。他にモンスターになってくれそうなモノっていないかしら」
私とアバドゥンがダンジョン内を歩いていると、朽ち果てたお堂に辿り着いた。
「現実のお堂には、何かを祀ってたわ。1度隠れさせてもらったし、縁はあるはずよ」
「ふむ。では見えるようにしてみるか」
アバドゥンがそう言い、お堂へ指を向ける。
すると、黒いモヤのようなモノが崩れたお堂から這い出てきた。
「確かにいるにはいるが。名前も姿も与えられていないモノだな。これでは何も出来んぞ」とアバドゥンが私に言う。
黒いモヤが私に近寄ってくる。
まるで、名前を思い出して欲しそうに。
姿を想像して欲しそうに。
必死にお堂の看板にあった説明文を思い出す。
「テナガアシナガサマって書いてあったような」
「ほう。それはそれは。れっきとした土着神殿であられるな」
アバドゥンが黒いモヤに敬意のこもった目を向ける。
「どんな神様なの?」
「手長足長殿はな、その名の通り、手と足が長く、泥に塗れ、田に入っては米を奪い、家に入れば人々から物を奪い、人をも喰らう悪食の神であったな」
「手足が長いのね、たくさんあるの?」
「いや、手足合わせ8本であるが、あっ」
アバドゥンが途中で何か気づいたようだが、すでに黒いモヤが晴れ、そこにはヘドロで出来たタコのようなモンスターが生まれていた。
「手長足長殿は2柱の神だったのだが」とアバドゥンが何か小さな声で言っていた。
「テナガアシナガさま、よろしくね」
○○○
“テナガアシナガサマ”
強酸性の汚水で構成されたスライム。海底に佇むタコのようにも見える。触手で掴み、体内へ獲物を取り込み溶解する。壁や天井に貼り付くことも出来、巨体の割に素早い。
“テナガアシナガサマに倒されるペナルティ”
現実世界では溶かされた場所に皮疹が出現する。最初は少し赤くなるくらいだが、最終的には溶かされた場所に一致して、とびひの様な皮膚病を患う。服が擦れただけでも悲鳴をあげる程の痛みを呈するようになる。
“テナガアシナガサマの攻略法”
大量の水で薄める。チョークや重曹などのアルカリ物質を投げ込むと怯むため、その隙に逃げる。
「ちゃんと掃除をしていたら、ヌメヌメ汚れには重曹って分かるはずですからね。ノーヒントじゃないですわ」
「穢れと汚れは違うものだぞ」
「そう」
「それに。手長足長殿は、正確に言えば、手長殿と足長殿である」
「えっ、そうなの?なら」
大きなスライムだったテナガアシナガサマは中くらいの大きさの2体のテナガアシナガサマに分けられた。
「それじゃあテナガサマはこのままお堂に。アシナガサマは、そうね!真っ暗な2階の踊り場に行ってもらいましょう」
こうして初見殺しが誕生したのであった。
○○○
「お堂で思い出したのだけれども、私、ここで青虫を投げつけられたの。青虫ってモンスターになる?なんなら1番強くしても大丈夫よ。モスラ的なのがいいわ」
「怨みの強さで想像力を欠かなければ、いくらかは強くなるだろうが。モスラ程になるかは自分次第であるな」
そう言うとアバドゥンは沼地の方へ手を差し向ける。すると
立っていられない程の揺れが起こり、その後、校舎よりも遥かに大きなピンク色の青虫が土煙とともに姿を現した。




