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いじめられっ子ダンジョン  作者: センチメンタルアスパラガス
初めてのダンジョンマスター
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ダンジョンを作ろう


「“いじめられっ子ダンジョン”であるか。誰がダンジョンマスターであるか一目瞭然ではないか?」


「現実味がないから、逆にわからないと思うわ。『夢で仕返ししてきた』なんて言ったところで、誰が信用するものですか。真に受けるより先に、気づいていなかった良心の呵責が見せる夢、ってミスリードされる可能性の方が高いと踏んだわ」


「ふむ。そこまで考えてのことであるのならば問題ない」



〇〇〇



アバドゥンに、ダンジョンの作り方について教えてもらった。


遊びである以上、クリア出来ることを前提に作る必要があること。

出来上がったダンジョンは、私がテストプレイでゴールしなくてはいけないのだそうだ。アバドゥンのいうところの公平性だ。


なので、自分もクリア出来ないような理不尽なダンジョンは作れない。


自分はクリア出来て、他の人間はクリア出来ない、そんな難易度調整をする必要がある。



夢の中で怪我をしても、本来現実の肉体には影響はない。


だが、それでは真面目にダンジョンに向き合ってくれなくなるだろうと、ゲームオーバーに応じた肉体への影響も今回は加えることにした。


もちろん、クリアするまで寝るたびに強制コンティニューだ。

真面目に取り組まず、夢の中で死にすぎると、現実で取り返しがつかない目にあってもらうことにした。


テストプレイの時も同様のため、自分は怪我一つせずクリア出来て、なおかつ他者を痛ぶれる難易度にしなくてはいけない。


そんな非常にシビアな調整をしなくてはいけないのだ。



ゲームのクリア方法、つまりは繰り返す迷宮の悪夢からの脱出方法であるが、2つある。


1つはダンジョンのゴールに辿りつくこと。もう1つは、ダンジョンマスターの解呪の呪文だ。


「解呪の呪文は何とするかね?」


「そうね。『アナタノシャザイヲウケイレマス』にするわ」


本当に反省し、謝ってくれるなら、私は許すつもりだ。なあなあで終わらせるつもりはない。


「その呪文を使える日が来ることを、我が輩は切に願っておるぞ」



〇〇〇



ダンジョンの構成は3つ。

“舞台となる迷宮”、“登場するモンスター”、そして目的となる“宝物”。


今回、別に宝物は必要ないので、前の2つを整えば良い。


普通に言うが、どちらも人間の私には難しい。


「迷宮の作成は我が輩がやる。頭の中に思い浮かべたものを創り出してやろう。ピラミッドでもカタコンベでも、好きなように迷宮を思い浮かべるが良い。まずは、大雑把で良い。後から細かく変えていけば良いのだ」とアバドゥンが言う。


そうは言われても。


そこで私は、自分の登下校のルートを思い浮かべた。


すると先程までいた教室が目の前に現れる。少し物が足りない気もするが、だいたいは同じ感じだ。


「現実世界をモデルに作ってみるのも良いであろう。慣れ親しんでいる世界が突如牙を剥く、心理的安全が崩壊する、というのはホラーの典型である」



6年生の教室の後は、廊下、階段、下駄箱、運動場、裏門、ウサギ小屋などを作ってもらった。


何故裏門か。


みんなからいじめられる様になってから正門は使っておらず、裏門からこっそり登下校していた。

私にとっての正門はこっちなのだ。



「では、これを我が輩なりにアレンジしてしんぜよう」

アバドゥンが張り切りながら、そう言うと、窓の外が夕方になった。かなり夜に近い夕方だ。


「“逢魔時”という時間帯だ。恐怖を煽るにはうってつけであろう。更に」

教室の時計がとんでもないスピードで回り出した。それに応じ、壁にヒビが入り、窓枠は歪み、木材は朽ち始めた。金属の錆が目立ち、一部は壊れ、崩れてしまった。

100年の時を経たような姿に変わってしまった。


廊下に出てみると、防火シャッターが降りていて、作った場所以外にいけないようになっていた。


下層に降りる階段を見ると、外の光が入らず真っ暗だ。

そんな暗い道を、わざと切れかけの電球で灯らさせ、明滅する頼りない灯りで進行ルートを示している。


「超怖いね、アバドゥン」


「であろう?」



2階は登下校の時は階段しか使わないから、何も作っていない。なので、防火シャッターで封鎖した。

窓もないので階段の踊り場の消えかけの電灯だけが光源だ。超怖い。


そのまま1階へ降りてもらう。


少し廊下を歩くと、下駄箱に出る。

下駄箱には身だしなみを整えるようにと姿見がある。そして何よりようやく外が見える。運動場側と裏門側の扉が開いている。

ここに来てようやく、外の光で明るく感じれるようになった。


だが、それでも仄暗い。


つまり、夕暮れ時の廃校舎って、超怖い。

そりゃあ、ホラーの舞台になるわ、と思った。



〇〇〇



裏門側の扉から校舎の外に出てみると、霧が出ていた。

霧も相まり、視野は非常に悪い。


それでも、通い慣れた通学路だ。


ウサギ小屋の前を通り、裏門から学校を出た。

ウサギ小屋はぼろぼろになっており、崩壊していたのは、少し悲しかった。



本来は裏門から出たら、たくさん家やアパートが見えるのだが、背丈の高い草の生えた沼地しか見えなかった。


霧で遠くの方はぼやけている。


それでも少しは建物の輪郭くらいは見えそうなものなのだが、教室の窓から建物が全然見えなかったのは、そんなものが無いからだったのだ。


見える範囲の沼地の中に、電信柱が不規則に立っていたり、倒れていたりした。

電信柱の切れかけの電灯が明滅して、進むべきルートを示していた。


その霧に包まれた沼地の中に、学校だけが建っており、かえって不気味な存在になっていた。



沼地に朽ちかけたアスファルトの道路があり、そこを私とアバドゥンは歩く。


一部泥が染み出るマンホールなんかもあり、靴が汚れないように気をつけて歩いた。



歩いていると、私の登下校の時に見る六地蔵が姿を見せた。


こんな不気味な世界でお地蔵さまを見たら、拝みたくなる。



「これ、ここではきちんとしているけど、現実だと、このお地蔵さん、首が取れちゃってるのよ。クラスの誰かがいたずらをしたみたいで。罰当たりよね」とアバドゥンに話しかけた。


「他宗教の感覚はわからんが、我が輩の知っている宗教では、信仰する偶像の破壊など考えられんことだぞ」


「アバドゥンの像がいたずらされたらどうする?」


「程度に寄るが、それなりの罰を下すであろうな」



その後、朽ちかけたお堂の前を通り、錆びてぼろぼろの歩道橋を渡り、私の家に辿りついた。


何故か私の家は綺麗なままだった。



〇〇〇



「時間操作だけでも、ずいぶんと雰囲気が異なるであろう?」とアバドゥンが私に言う。


「沼の中に道路と歩道橋と電信柱だけがあるのは、違和感があって、かなりくるものがあったわ。五里霧中をリアルで経験してみるとわかるわね。超怖い。異界感もある。でも」


「うむ。ダンジョン感がまだ足りないのであろう。なので、学校に戻りながら、アレンジを加えていこうではないか」



学校への帰り道、歩道橋をかなり拡張した。そして、歩道橋の下を奈落に変えた。


反対側に渡るルートは歩道橋を渡るしかないし、それが正解だ。


だが、わざと奈落側へ降る階段も用意した。

罠、としてだ。

永遠に底に辿りつかない無限階段の罠だ。降りた分、登らなくていけない。普通はそんな罠には引っかからないはずだが


「奈落の底にほんの少しだけ灯りとか灯せる?アバドゥン」


「なかなかに性格の悪いな」


これまで光が導いていた、というのを逆手にとったのだ。


奈落の底の薄灯りは、いわばチョウチンアンコウの誘引突起だ。自ら口の中に餌を飛び込ませるのだ。



学校への帰り道、もう一度六地蔵のところで立ち止まった。

なんとなく、こんな地獄みたいなところにお地蔵さんを置くのは、やっぱりどうなのかしら?と思ったからだ。


なので、アバドゥンにお地蔵さんを謎の邪神像に変えてもらった。1柱だけ首なしの邪神像だ。


これはこれでかなり怖かった。


それと意味もなく、カーブミラーやたまに作動する信号機、遊具の残っている公園なんかも設置した。


本当に意味はないのだが、勝手に想像が膨らみ、何かあるのではないか、と疑心暗鬼になることを期待して設定してみたのだ。


後、沼地に砂嵐音を鳴り響かせるラジオや笑う人形やなんかを置いといた。近くを通った時に急に音がしてびっくりするように、だ。


後、公園のサイレンなんかもびっくりポイントとして無意味に鳴り響くようにしてみた。


何かのホラーゲームで、そういうのが1番精神的にくる、と特集されていたのを思い出したからだ。



〇〇〇



「どうかしら、いじめられっ子ダンジョンは?」


「なかなかに良い迷宮になりそうである、と我が輩は思うぞ」

アバドゥンからも評価が高そうだ。



「さて最後の仕上げだ。ダンジョンのキモ、モンスターの配置、である」

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