4.
「おう。怪我人さんよ〜大丈夫か?」
少々間の抜けた声で男の声が響く。
見ると無精髭を蓄えた男が俺の方に近づいてくるところだった。
「美人がつきっきりで世話してくれてるその様子じゃ、大丈夫か」
男の言葉を聞いてシエルがやや俯いた。俺の方が顔の位置が下なのでシエルの頬が若干赤くなってるのが分かった。
(どうしたんだろう。シエルも具合悪いのかな?)
男は“マグナ・ザクロフ”と名乗った。そして王国軍軍団長の身分も明かした。
男の雰囲気とその役職のミスマッチぶりに苦笑を禁じ得なかったが、続く真剣な話の態度は役職に見合う表情だった。
「俺が闘った奴は“ゼノ・レーク”と名乗っていた」
俺は先ほどの言葉の主を伝えた。どこで名前を聞いたのか聞きたげな顔のシエルだが、マグナは当然のように話を進める。
「そうか、そいつは三武将の一人だな」
「三武将?」
俺とマグナ軍団長の会話を、シエルやアイゼンたちは固唾を飲んで見守る。
「敵軍。ネザー教団が保有する最高戦力だ。密剣のローグル・レイ。瞬剣のユシウス・アールター。そしてお前さんが闘った、龍剣のゼノ・レーク。確認出来たのは剣士だけだ。魔法術士の方は、俺らが保有する最高位の魔法術士でも調べられんかった」
底が見えない。俺は敵の力の底が見えない事に例えようの無い不安と恐怖を感じた。
「現状、今の王国軍に奴らに対抗できうる剣士、術師はいない。お前らならどうにかなる、と思ったんだがその様子じゃな……」
マグナの言葉の後、俺の体が軽くなった。見ると、全身のアザや傷が消えてる。
俺は先ず、シエルを見た(俺が知る中で彼女だけが治癒術を使えるからだ)しかし彼女はマグナから視線をはずしていない。
(一体誰が?)
俺は周りを見回す。
そして俺は見つけた。鎧で全身を固めた兵士たちとは違う、布系の服装を着て、金髪の髪を流し、小枝|(のような物)を構えるその人を。
「リーフ?」
小枝は淡く青い光を放っていた。恐らく彼が傷を癒してくれたのだろう。
リーフは目を開き、言った。
「こうしてる場合じゃないんだ。リアンさん」
「え?」
リーフは小枝をベルトに差した。そこには歴戦の剣士を思わせる風格があった。
リーフはまるで諭すように告げた。
「帝国領には“シルフの里”という村があります。そこには武術に秀でた民族が暮らしているという話を聞いたことがあります」
リーフのその言葉だけで伝えようとしている意図は分かった。
俺はコクリと頷く。
リーフは優しい笑顔を浮かべる。
それだけで十分だった。
がたん、がたん。
馬車は揺れる。最高速度の馬が引く馬車なのでこの程度の揺れで済むのは、この馬車がやはり軍の物品だからだろう。
今まで乗っていた馬車の三倍以上の速度で馬車は走る。軍の物らしく、内装は前の馬車のような調達は無く、木の材質だけの質素な物だ。
そして馬車に乗るのは、俺とシエルとアイゼン。リーフとマグナと、マグナの側近の兵士が二人。そして運用手だ。
八人乗っても大丈夫な馬車はやはり頑丈だ。
天井は無い、それに人を覆う壁も無い。小さい壁があるだけだ。椅子など座ったらバランスを崩すので馬車の床に座っている。
会話は無かった。久しぶりに会ったリーフとの会話が少しあったが、最初だけだ。
俺は考えを重ねる。ゼノ・レークや、まだ会った事も無いユシウス・アールターとローグル・レイを思い浮かべる。
(俺はまだ、奴らに勝てない。次に会ったら確実に殺されるだろう)
俺は右手の平を見つめた。
(俺は誓ったんだ、この手で仲間を守ると。そのためならどんな苦難も背負う)
リーフ・トロンベの小枝はハリポタの杖を思い浮かべてください。




