if もしも彼らが現世に生まれていたならば
もしも彼らが現世に生まれていたらどんな関係になったのか
違った育ち方をし、違った出会いをし、違った関係を築いている彼らの話
思いつきなのでそれ以上でもそれ以下でもありません
リッカ&セツナ編。
六花は父親と同じ会社に勤める会社員である。
六つの花と書いてりっかと読む。
昼休みに社員食堂で昼食をとっていると、スマートフォンからメールの着信音がした。
メールを開いてみると、そこにはびっしりと詰まった文字があった。
「また彼から?」
同僚が、やや呆れたような表情で言う。
「うん、彼から~」
六花は苦笑する。
「内容は十数行だけど、要するにデートのお誘いらしいね~」
「ながっ」
同僚が呆れたような表情になる。
「メール短くするように言ったんじゃなかったっけ」
「言ったよ~。心なしか短くなった。お姉さんは彼に友達がいるか心配です」
「長文メール打つってことは暇ってことだもんねえ」
「いや、それが打つの異様に早いんだあの子」
「あの子って……今院生だっけ」
「私としては早く就職して欲しいんだけどね~。他人の人生に口出しもできないしさ」
苦笑混じりに言って、六花はスマートフォンを指で操作してメールを返信する。
「返事、もう終わったの?」
「うん、デートの誘いだからね。いけませんの五文字でオッケーだった」
「うわっ、適当。あんた達噛み合ってんの?」
「文章が短い時は面倒臭がられてるって察してくれるからね~。大丈夫大丈夫」
「ふーん、わかりあってるっていうか、なんていうか。何処が良かったの?」
「顔」
同僚が、箸を勧める手を止める。
「身も蓋もねーなおい」
「あと負けず嫌いで生真面目な性格が面白くてね~。お姉さん苛めたくなっちゃう」
「……まああんたが幸せなら良いんだけどね」
「結構幸せだよ~。大事にしてくれるし」
「そりゃ、大事に思ってなきゃ十数行もメール送ってこないよね。なんで誘いを断ったのよ」
「その日は同人のイベントがあるからね!」
六花が胸を張って言う。
同僚の反応がどうでも良さげになる。
「ああ……理解のある彼で良かったね」
「そうでしょ~」
「長文メールぐらい我慢しようね」
「忙しい時にのほほんと送られてくると~キレたくなるけどね」
「ああ、それは……しかし、結局一種ののろけだよーこれ」
「そう?」
「うん、のろけ」
「嫌?」
「ううん。こういうカップルもいるんだなーって思うだけ。上手く噛み合ってるんなら良いんじゃない? その刹那君とさ」
「けどあんまり上手く噛み合ってない時もあるって言うか~。刹那君マイペースなんだよね。半年前に進めたアニメの感想今更送って来るし」
「十数行の内容ってそれかい……まあ、オタク趣味に理解あるだけ良いんじゃないかな」
「良いのかな~」
「結構レアだよー」
「いるところにはいるよ~」
「まあ、私には関係ないけどさ。ただ思うことは、あんたはこの時代に生まれて良かったなってことかね。同好の士が沢山いるからね」
冗談めかして、同僚は言った。
六花の趣味は、男同士の恋愛を描く本を読み漁ることである。
クロウ&ハクア編
彼女のメールは、いつもどうでも良い書き出しから始まる。
前回は、アイロンはきちんとかけてますか。
前々回は、自炊ちゃんとしてますか。
今回は、きちんと髭を剃ってますか、だった。
「母親かよ」
九朗は思わず呟いた。
メールの内容は、職場で大きな仕事を任されるようになったというものだった。
九朗は二十三歳、彼女は二十六歳。社会人としての経験には大きな差がある。
その差が縮まることはあるのだろうか、と新人社員九朗はしばし不安になる。
会社の格も、彼女のほうが幾分か上だ。
色々な要因が引け目となって、九朗は幼馴染の彼女に愛の告白を出来ずにいる。
中学の頃は、口煩い姉のように思っていた。
高校に上がる直前に気がついた。彼女は美人の類に入るのではないかと。
結局それから七年。九朗はメールアドレスを交換した段階から、なんにも進歩していない。
メールの最後の行に、今日は飲み会だー、との一文があった。
飲みすぎないようにね。日付が変わる前に家に帰ること。
九朗はそう書いて返信する。
彼女は美人だ。だから、狙っている男は多いのではないかと九朗は思う。それは不安となって九朗を苛むのだ。
すぐにその返信が届く。
いつも思うけど貴方は父親ですか。
そんな一文が、先頭に書いてあった。
(お互い様だよ)
そう思いながら、続きを読み進める。
大丈夫だよ、会社の飲み会なんて付き合いだし、適当に抜ける。
そこまで読んで、九朗は安堵の息を吐く。
そして、最後の一文で目を丸くした。
そこには、だから心配なんてしなくて良いんだよ。なんて文字と、悪戯っぽい笑顔の顔文字が張られていた。
見透かされている。
九朗は顔が真っ赤になるのを感じた。
ジン&マリ編
「まったくよ~、サービス残業がこうも続くと嫌になりますよ~」
夜道で一人呟きながら、仁は家路についていた。
高校、大学時代を遊んですごした仁を待っていたのは、ブラック企業の洗礼だった。
辞めて他の企業に移る自信もないので、ずるずると何年もそのブラック企業に席を置いている。
昼休みに同僚と話すのは転職の話だ。
実際に、転職していった同僚は何人もいる。
仁はなんとなく踏ん切りがつかなくて、サービス残業をする日々に身を置いている。
今では重宝がられて、上司に笑顔で仕事を多めに回される毎日だ。
(実質日曜日しか休みないし……ああ、俺もホワイト企業に入りたい)
けど、転職先がブラックではないという保証はどこにもない。すると、後に残るのは履歴書の傷だけだ。
そうなると、仁はなんとなく足踏みをしてしまうのだ。
アパートに戻ると、家の前に手紙が置いてあった。
仕事が終わったらよってくださいね、真理。と書いてある。
隣の部屋の住人の置手紙だ。
仁は早速、隣の部屋のチャイムを押すことにした。
真理が駆け足で近付いてくるのが、扉越しに聞こえてきた。
なんとなく、仁は一日の疲れが消えていくのを感じた。
「仁さん、お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
「今日も疲れてるでしょ? 晩御飯多めに作ったので、わけてあげますよ」
「ありがとう。この晩御飯のおかげで頑張れてるよ」
「タッパーは洗って返してくださいねー。仁さん結構適当で、返すの遅れる日あるでしょ?」
そういう日は部屋で死んだように寝てるんだよ、とは仁は言えない。
なんとなく、この娘に弱い自分を見せるのが嫌だった。
「気をつけるよ。なんだか、今日はいつもより表情が明るいな」
「あ、わかります?」
真理は満面の笑顔になった。
「就職、決まったんですよ~」
真理はそれなりに良い大学に通っている学生だ。ならば、それなりに良い会社に行くのだろうな、と仁は思う。
今まで続いてきた彼女との交流も、あと何年続くのだろう。
「引っ越したりするの?」
「しませんよ。近場なので」
「そっかー。なんて会社だ?」
真理が社名を言う。
知る人ぞ知るブラック企業だった。
仁は表情を変えないように注意した。
「それは良かったなあ。じゃあ今度、お祝いに飯を奢ってやるよ」
「本当ですか?」
「ああ、どこでも高級なとこに連れてってやるよ」
「お金、大丈夫なんですか?」
「……使う時間がなくてな」
「お仕事、忙しそうですもんねえ。楽しみにしてますね」
「ああ」
お前もそうなるんだよ。
心の中だけで、仁は呟く。
けれども、今ある喜びに水を差すのもどうだろうと躊躇ってしまうのが仁だった。
鍵と財布をなくした彼女の手伝いをしたのが、交流のきっかけだった。
今では、真理のいない生活など考えられなかった。だから、食事代なんて惜しくないと感じる仁だった。
(この子もいずれどっかの嫁に行くのかなあ)
ぼんやりと、仁はそんなことを思う。
(いや、食事の誘いを断らないってことは、彼氏はいないんだよな?)
真理と別れ、家に帰っても、そんなことを悶々と考えてしまう仁だった。
ブラック企業に揉まれ、疲れきった仁。それを癒してくれる存在は真理だけだった。
反抗期に入ってから口も利いていない妹とは大違いだった。
仁と別れた真理は、部屋で寝転がっていた。
テレビはついたままだが、その音は真理の右の耳から左の耳へと通り抜けていく。
(食事ってことは、デートなのかなあ)
そんなことを、ついつい考えてしまう真理だった。
(けどあの人はオクテそうだから、告白とかはして来ないんだろうな)
そんなことを考えて、やきもきしてしまう真理だった。
最初は、感謝の気持ちだけだった。
けれども、交流を重ねるたびに、相手への思いが深まっていることに気がついた。
相手は社会人で、収入もある。そして、まだ若い。交際相手としては申し分がない。
だというのに、彼はいつも肝心の言葉を口に出してはくれない。
(相手にされてないのかなー……どうなのかなー……)
仁と別れ、家に帰っても、そんなことを悶々と考えてしまう真理だった。
次回
結婚生活は中々に難しい




