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班長と風紀委員

 朝。魔術大学にあるクラブ棟の1つのクラブ室の扉の前に3人の女の子がいた。魔術大学にある施設の端の方に位置するクラブ棟は、朝早く利用されることはあまりなく、利用するのは朝練に来た生徒ぐらいで殆ど人がいない。クラブ棟の他に魔術大学には講義室だけで構成されたA棟と、講義室と研究室で構成されたB棟、教授室のC棟等々、数多くの棟が建てられている。


 そんな人の少ないクラブ棟に朝早くから、朝練でもないのに来て、クラブ室前にいる女子達。


 1人は真っ赤な髪をポニーテールで結い腰まで伸ばし、真剣な顔つきで扉を見ている。その両隣に、ショートカットの金髪とロングの水色の髪の女子がいる。


「ここを私たちの拠点として、これから活動するってことでどうですか?」


 金髪の女子が、赤髪の女子に聞く。


「いいんじゃないかな? 私たちの組織を立ち上げるのに拠点は必要だしね」


 赤髪の女子がニコッと微笑んで満足そうにする。


「では、私は手続きに」


 水色の髪の女子は赤髪の女子にペコッと頭を下げ、クラブ室の申請手続きに向かっていった。


「でも、良いのかなぁ。風紀委員だってあるのに…」


「何を言ってるんですか、お嬢様! 風紀委員達では手に負えてないから私たちがこうやって乗り出したんじゃないですか!!」


 金髪の女子が赤髪の女子に詰め寄る。赤髪の女子は戸惑ってオロオロとする。


「そうだけど…」


「問題児で風紀委員を悩ませてたあの西門路が、決闘に負けて退学したんですよ? 風紀委員なんかに任せておくとこう言う事が起こるんです! これからはそんなことにならないように私たちがやらないとダメなんですよ」


「そ、そうだね…! 私たちが頑張んないとここに通う一般生徒にまで被害が出るかもしれないもんね!」


 赤髪の女子は金髪の女子の言い分に納得し、これからできるであろう組織に胸が高鳴ってくる。魔術大学は、名称こそ魔術となっているが、魔術が使えない一般の生徒を集め理系や文系の科目を履修している。そのため、魔術を使えない生徒のが多かったりする。比率で表すと7:3で一般人のが多い。そのため魔術師同士の喧嘩等に一般人が巻き込まれることも少なくない。


「その意気です、お嬢様!」


 金髪の女子がまくし立てる。


「よーし! まずは、人員確保と実積を得ないと!」


 意気込む赤髪の女子と、それを見て笑う金髪の女子。


***************************************


 いつも通り、午前中の講義を終えオレとノエル、佳奈、ひなたは屋上に来る。

 そして、両隣から差し出される四角い包み。食べるよね、と笑顔で無言のプレッシャーを放つ佳奈とひなた。


「…いただきます」


 オレは2人のお弁当箱を受け取り、2つとも蓋を開ける。2人ともガッツリと肉がベースのお弁当でオレは苦笑いする。


「俊貴ご飯いっぱいだね」


 ノエルがオレの頭の上から弁当を見下ろす。


「うん、これなら満腹だよ」


 オレは、この量の多さに引きつつも食えるかどうか不安になる。これを食いきらないと、間違ってもどっちか残したら殺される…。


 冷や汗を流しながら2つの弁当を食べる俊貴と、自分の分を食べながら俊貴を見るひなたと佳菜、ノエル。

 その光景を少し離れた場所で見る赤髪と、金髪、水色の髪の女子達。


「あれ? あの人見たことあるような…」


 赤髪の女子が俊貴を見ながら何かに引っ掛かる。どこかで見覚えのあるような、懐かしい気がする。


「お嬢様?」


 金髪の女子が赤髪のお嬢様に聞く。


「あ、ううん。何もないよ」


 お嬢様が首を振ってごまかす。明らかに視線は俊貴の方へといっている。


「ダメですよ、お嬢様。こんなに人が多いのに、そんな態度じゃダメですよ。もっと高飛車で傲慢でわがままに振る舞わないと」


「はっ! でも、そんな態度だったら誰も手伝ってくれないんじゃ…」


「いいえ。人を後ろに率いるのは、そういう人間じゃないとダメなんですよ」


「そうなの? …じゃあ、しょうがないか」


 金髪の言うことを鵜呑みにしてしぶしぶ表情を引き締め、口をへの字にする。

腕組をして偉そうな態度をする。それがお嬢様のイメージする高飛車で傲慢でわがままな人なのだろう。水色の髪の女子がお嬢様を見て、金髪女子に遊ばれてるとわかり苦笑いする。


「あれ…?」


 ふと、俊貴の方を見ると1人の女子が俊貴達のほうに近づいていた。


「鳴上くん最近ちゃんと講義に出てるんだね。同じ研究室の班長として私は嬉しいなぁ」


 と、声をかけてきたのは同じ研究室の班長である、神崎姫華だった。彼女は授業態度のよくないオレのお目付け役として、教授がオレにつけていた。だが、違う講義を受けていることもありそれほど意味をなさなかった。


「おう神崎。そろそろ班長の顔を立ててあげようと思ったんだよ」


 オレは神崎にニッと笑いかける。

 それを見て神崎も微笑んで口を開く。


「もうちょっと早くそうしてくれると嬉しかったな」


 えへへ、と笑う。


「で、どした? 教授に何か頼まれたか?」


 神崎がオレの所に来るのは大抵教授絡みだ。


「ううん、ちょっと心配で顔見に来たの。何か事件に巻き込まれて、決闘までしたって聞いたから」


 と、ニコニコ笑顔が一変して心配そうな顔になる。


「わざわざありがとう。でも、問題ないよ。怪我もしてないし」


 オレはニッと微笑む。


「そっか、なら安心だね。良かった良かった」


 またニコニコ笑顔に戻る神崎。

 神崎はこの魔術大学の中でもトップクラスの容姿で、この可愛い笑顔に夢中の男子は何人もいる。それに加えて、スタイルも抜群で人気が高い。


 オレはふと神崎の手に収まっている小さな入れ物に気づく。


「それお弁当? よかったら一緒に食べる?」


 オレは立ち上がり、神崎の横に移動する。それを嬉しそうに笑顔を向けてくる。


「いいの?」


 神崎は嬉しそうに笑顔になるが、佳奈やひなたを見る。


「私は構わないよ」


 オレとよく一緒にいる佳奈は神崎とも面識があるため快く受け入れる。


「…わたしもいいよ」


 若干、納得はしてないが受け入れムードのこの状態を壊すのは良くないと悟り頷くひなた。


「ありがとう!」


 神崎が微笑む。オレは神崎を座らせてから、もとの場所に座る。


 そして、5人で昼食を始めた。


 だが、またも来客で昼食は中断させられる。


「あなたですよね? 鳴上俊貴、という男子は」


「んあ?」


 オレはからあげを口にくわえたまま声のした方を向く。

 そこには、銀髪を腰まで伸ばした女子がオレのほうを見て立っていた。目がどことなく警戒してる。見た目、身長が低くすらっとした体つきをしている。


「あれ? 向坂先輩?」


 神崎がその訪問者、向坂に驚く。


「姫華!? な、なんでここに…」


 向坂は神崎に驚き、戸惑いを露にする。


「何でって、一緒にご飯を食べてただけなんですけど」


「そ、そう。まぁ、いいわ。今日は姫華じゃなくて、あなたにようがあるの」


 と、名指しされた通りオレに指を突きつける。オレはボーッと2人のやりとりを見てたため、唐揚げをくわえたまま驚く。


「…あなたが西門路を倒した、ということであってますよね?」


 オレがからあげを必死に咀嚼するのを見ながら聞く。オレはゴクンとからあげを飲み込む。


「そうですが、なんですか?」


「今回は、先生方の特別なはからいでアリーナ使用の許可を得て決闘を行ったようですが、次に私的な決闘を起こすのは、風紀委員として見逃しませんよ」


 銀髪の女子が腕組をする。


「別に好きで決闘したわけじゃないんで、次はもうないですよ」


 オレは苦笑いする。魔術大学のサークルに風紀委員が本当に存在しているという事に驚いていた。高校までは風紀委員があると思っていたが、まさか大学にまであるとは。しかも、大学創立とほぼ近いぐらいの歴史があるらしい。


「問題を起こす人はたいていそう言います。それに、あなたは講義に出ずにサボってるのをよく目撃されてますから、現在西門路の代わりに要注意人物にあなたはなっている事を自覚してください」


「えっ…、オレ要注意人物なのか。」


 オレはその事実を知り、落ち込む。


「鳴上くんはそんな問題児じゃないですよ!」


 神崎が庇ってくれた。それがオレにはとても嬉しくて微笑む。


「…姫華を手駒にとるとは、卑怯な」


 ムッとオレの方を見る向坂。


「手駒って…」


「では、警告はしたので」


 オレのほうをじっと見た後、くるっと背を向けて去っていく風紀委員。


「なにあれ。風紀委員って大学でもやる必要あるわけ?」


 気に入らない、と表情にだすひなた。


「…あるんだろうね。ただでさえ広い魔術都市で、魔術師見習いがここに集中してくるんだからその見習い達や、一般生徒が事件を起こしたり巻き込まれたりするのを防ぐためには、風紀委員みたいな組織がないと危ないんじゃないかな」


 自分で言ってふと気付く。オレ、事件を2件起こしてる。ノエルの時と西門路の時。しかも講義に出てないことまで把握されてるし、オレは確かに風紀を乱している注意人物なのかもしれない。それに気付き、オレはへこむ。


「まあ、あんたの言うとおり問題を起こすやつもいなくなったし大丈夫でしょ」


 佳奈が全く気にした感じを見せない。


「そうそう、気にしない気にしない」


 ひなたもお弁当を食べる。


「だな、今現在の問題を先に片付けないと」


「後で私からも弁解しとくからね!」


 神崎が微笑んで言う。


「ありがとう、神崎」


 オレはお礼を言ってから、意識を再び弁当に持っていく。だが憂鬱だぜ。


「今の、風紀委員ですね。しかも、私たち魔術師見習い対策班の人間ですよ」


 金髪の女子がお嬢様に言う。


「風紀委員が動き出したのね、私たちも動き出さないと!」


 お嬢様がすっと立ち上がり、両手を握りしめ意気込む。


「では、さっそく活動をしますか?」


 水色の髪の女子も立ち上がる。


「いちご、見回りにいくわ」


 お嬢様がいちごと呼ばれた水色の髪の女子に言う。いちごは、はいと頷く。


「私はクラブ室を片付けてきます」


「よろしく、璃花」


 璃花と呼ばれた金髪の女子も、はいと頷きクラブ棟へと向かう。


「私たちもいくわよ、いちご」


 はい、と返事を返しいちごはお嬢様の後について屋上からでていく。

***************************************


 午後の講義も終わり、オレは片手にビニール袋を持ってノエルといっしょに街中を歩いていた。晩ご飯の買い出しのために街にきていた。


「ふんふーん、カレー♪」


 ノエルはオレの隣で鼻歌を歌いながら上機嫌に空を浮いている。オレは、カレーが好きだというのがわかり、ひそかに覚えておく。

 そして、ほほえましくノエルを見る。


「俊貴はカレー好き?」


 ノエルがオレの頭の上に乗っかって聞く。


「好きだよー。作りやすいし、次の日も食えるからね」


 一回、料理を作る手間が省ける。なんて素晴らしい料理なんだ、カレーは。


「えへへ、カレー楽しみだなぁ」


 ノエルはオレの返事を聞いていたのかよくわからない反応をして再び鼻歌を歌う。


 …まぁ、いいけど。オレは苦笑いしつつも、買う物も買ったし、家へと向かって歩く。


 そんな和やかな雰囲気をぶち壊すように、轟音と共に土煙が上がる。


「なんだ!?」


 オレは音のした土煙の上がる方を見る。

 わりと近くのようで、民家などの建物を4、5軒越えた先から煙が上がっている。そして、そこから逃げるように人々が走ってくる。悲鳴をあげたり、全力で走っていく人達が一気にこちらへと向かってくる。


「すいません! 何かあったんですか?」


 走っていく人達の1人に声をかける。

 その人は、オレの方を見て一度睨み、説明を始める。


「魔術師が街中で戦闘をおっぱじめやがったんだ! お前もボーッとしてないで逃げたらどうだ!」


 逃げるのを邪魔されて焦ってるのか、その人はそれだけ言って走っていってしまった。

 焦って逃げるのはしょうがない。魔術師じゃなく、さっきの人のような一般人は魔術から身を守る術がない。魔術を防ぐにはそれなりに装備が必要で、持ってるとしても軍隊や傭兵など戦闘の専門家だけ。一般人は魔術師の戦闘に出くわしたら、遠くに逃げるしか身を守る術がない。


「どうするの?」


 ノエルがオレの横に移動する。


「行く。こんな喧騒起こされて誰か一般人が怪我したりしたら、同じ魔術師として許せない。もしかしたら戦闘になるかもしれない。その時は手伝ってくれるか?」


「もちろん!」


 ニッと微笑むノエル。オレも微笑み返し、喧騒の起こっている現場へと走り出す。


*****************************************


 喧騒の起こっている場所は、やはり5軒ほど建物を越えた先の大きな建物‘マル・リアス’の真横だった。

 喧騒を起こしてるのは2人の男で、魔術を使って相手を倒そうとしている。


「こんな街中で戦闘をおっ始めるなんて…!」


 オレは舌打ちをして、その場からまた走り出す。


「おらぁ!」


 1人の男が、相手へと向けて水の槍を4発放つ。


「お前の水の魔法なんか!」


 もう1人の男が、水の槍を横へと転がってかわす。

 そして、男は自分に強化魔術をかけて身体強化をはかる。


「身体強化で俺に勝てると思ってんのかぁ!」


 再び水の槍を放つ。


「身体強化を馬鹿にするなぁ!」


 身体強化をした男が走り、相手の男へと拳を振るう。


「ちっ!」


 舌打ちをして後ろへ飛び、拳をかわす。男が反撃しようと青い魔法陣を足元に顕す。

 しかし、オレがその2人の間に割り込み足元に青い魔法陣を顕し声をあげる。


「2人ともやめろ!」


『!』


 第3者のオレに気づき、攻撃の手を止める2人。


「場所を考えろ! こんな街中で戦闘をするなんてバカのすることだ!!」


「あぁ? うるせえよ! ひっこんでろ!」


「邪魔するならお前から片付けるまでだ!」


 そういって、2人はオレへと同時に攻撃してくる。1人は水の槍、もう1人は石のつぶてをオレへと放つ。


「! このわからず屋どもがぁ!!」


 オレはその場から軽く跳び、2人の攻撃をかわしてからもう一度青い魔法陣を足元に顕す。


「消えろーっ!」


 水の槍が着地したオレへと飛んでくる。


 オレは再び地面を蹴って跳び、水の槍をかわす。水の槍は地面に突き刺さり、水が弾ける。


「そこっ!」


 オレの真後ろにいた男が、オレの背中を殴る。


「!…っ」


 背中に痛みを感じ、オレは前のめりになる。

 更に、その隙を突くように水の槍がオレへと飛んでくる。


「っ! 障壁!!」


 何とか踏ん張って体勢を整え、水の槍を対魔術障壁で受け止める。オレの目の前に青い魔法陣が顕れ水の槍を止める。


「後ろががら空きだ!」


 男がオレの腕を掴み、隣に立っていた建物へと投げ飛ばす。


 オレはそのまま建物に背中を打ち付けられ、建物にヒビをつける。


「…人が手加減してんのを良いことに、好き勝手やりやがって」


 さすがに我慢できなくなり始めたオレは、2人を止める方法を切り替える。説得から、力でねじ伏せる、へと。


 男達は、オレを吹き飛ばして邪魔者がいなくなったと思ってるようで、また争い始めた。


「お」


「やめてくださいっ!!」


 オレが声をあげようとしたのを遮って大きな声が聞こえた。


 その声の主は、争う2人の間に割って入り、必死に声をかける。


「関係ない一般の人が巻き込まれたらどうするんですか! 建物まで壊れて、誰か怪我したらどう責任とるんですか!!」


 その声の主は、ロングの茶髪で見覚えのある後ろ姿をしていた。同じ研究室で班長の神崎姫華だった。


「なんだ、お前は」


「関係ないやつは引っこんでろ」


 さすがに男達も神崎には手を出せないのか、戦闘をやめる。


「関係なくないです! 同じ魔術師の人がこんな街中で騒ぎを起こすのを黙って見てなんかいられません!!」


 と、神崎は男達に恐れを感じないかのように立ち向かっていく。


「ちっ…、さっきの男といい! 今日は邪魔ばっか入ってうぜぇな!! 邪魔すんなら女でも容赦しねーぞ!!」


 そう怒鳴り散らし、男は水の槍を8本周りに浮かせる。


「同感だ!!」


 もう1人の男も再び身体強化の魔術をかける。


「止めない、わけですね…」


 神崎は顔をしかめ、足元に緑の魔法陣を顕す。


『うせろっ!』


 男達は同時に神崎へと攻撃をしかける。水の槍、男の拳がむかっていく。


「防いで!」


 神崎が左右に腕を伸ばす。

 そこへ水の槍が飛んでくる。

 が、水の槍は突如吹き始めた竜巻に阻まれ掻き消される。もう1人も拳を急遽止める。

 その竜巻は神崎を守るように、顕れている。


「掻き消されたか。」


 男達は攻撃を止めて竜巻がやむのを待つ。


「神崎が来たか。神崎なら大丈夫だな、強いし。オレは見てるだけ…ダメかな」


 竜巻がやみ、神崎が中から姿を現す。

 男達も神崎の姿を認識したのか、再び神崎へと攻撃を始める。


 また、神崎は守備を徹底して行う。


「このままだと神崎はもたないな」


 オレはその場から神崎へと走る。


 その間にも、神崎へと攻撃をしかけ続ける男達。


「ううっ…、防ぎきれない…」


 竜巻の障壁維持に限界が近づいてきた。1人ならもう少しもつだろうが、2人でこうも攻撃されては全然障壁を維持することができない。


 そして、神崎の障壁に一筋のヒビが入り、そこから一気に障壁が破られた。


「! しまった!」


 神崎は思わず目を閉じる。


「姫華っ!!」


 オレがギリギリ間に合い、神崎を抱き寄せ氷の壁を間に出現させる。


「鳴上くん!?」


 オレの胸に押し付けられる神崎が驚いた声をあげる。


「無茶するなぁ、神崎は」


 オレは、ふぅ、と一息つき無事だった神崎に安心する。


「あ、あの人達の喧嘩に誰か巻き込まれたら危ないし…」


 と、耳元から返事が来る。


 …耳元?


「そうだな。でも、自分の心配もしなよ? 神崎の怪我するとこを見たくないヤツだっているんだ」


 何か引っ掛かりながらもオレは神崎の頭を撫でる。

 ん? 頭を撫でる??


「わっ! ……そ、そうだね! 気を付けるね!」


 神崎の裏返った声の後に、早口で声が聞こえる。


「と、ところで鳴上くん…」


「ん?」


 神崎が声を出そうとした瞬間に氷の壁が壊される。


「!」


 オレは更に神崎を強く抱き締め、足元に青い魔法陣を顕す。


「わわわっ!?」


 神崎の驚いた声が聞こえたが、オレは2人の男を撃退することに集中してるため無視。


 少なくとも学生よりは遥かに強い男2人。今の実力でこの2人を止められるか、と言われると微妙。不可能ではないだろうがしんどい。


 なら可能性を高めればいいわけだ。


 オレは氷の槍を男2人の足元へと放ち、その場から跳ぶ。


 男達はそれを楽に避ける。


 オレは少し離れた場所に着地し、ノエルとユニゾンする。


 黒髪が一気に真っ白な銀髪となり、瞳が青に、姿も白いジャケットと黒いインナー、黒いズボンになる。


「……」


 かなり近くで、神崎はそれに見とれるがオレはそれに気づかない。


「よし、成功! ノエル、行けるか?」


『うん、いけるよ!』


 と、脳に直接ノエルの声が聞こえる。


 オレはニッと笑い神崎を離す。


「後ろにいて」


「う、うん…」


 神崎が後ろに下がったのを確認してから、オレは肩幅より少なめに脚を開き、両手を前へと突き出す。それと同時に足元に青い魔法陣が顕れ、すぐに氷の槍が12本顕れる。


「なっ!? あいつ、精霊と契約してたのか!」


 そのことに驚いたのか、男が戸惑いを露にする。


 オレはそんなこと関係なしに、氷の槍を2人へと放つ。狙いは足元。


「は、はえぇ!?」


 狙い通り、2人の足元へと氷の槍が突き刺さりそこから氷結し始める。


「や、やべぇ!」


 氷る足元に手間取る男達。


 だが、オレは手を緩めない。

 男達へと手を向け、そしてギュッと握る。


「!?」


 次の瞬間、男達は氷の中に閉じ込められていた。


「…しゅーりょー」


 オレはやれやれ、と手を払い、頭をかく。


『お疲れさま』


 と、脳内にノエルの声がする。今回、ノエルはオレの中にいてもらった。が、いまいち前との違いは掴めなかった。

 

 うーん、難しいな。


「さて、怪我は?」


 オレは神崎の方に振り返る。

 神崎は顔を少し赤くしてボーッとオレの方を見ている。


「え? あ、えと、大丈夫!」


 オレと目が合い、慌てて答える神崎。視線があちこちに移って全く定まっていない。


「ホントに大丈夫?」


 不自然な神崎をじーっと見る。なぜか、今度はオレを睨むように見てくる神崎。


「お、オレ何かした?」


 睨むように見られて、オレは軽く落ち込む。されと同時にノエルがオレの中から出てくる。


「あ、えと、そうじゃなくて! ええと、何て言うか…、うぅー…」


 今度は言葉が出てこなくて混乱し始める神崎。

 オレは初めて見る神崎の慌てる様子を見て、新鮮さと可愛さを覚える。なんと言うかほほえましい。なんだろう、ギャップ萌え? というやつなんだろうか。普段しっかりしてるのが、パニックになってあたふたするのがとても可愛らしいと感じる。


「落ち着け、神崎。」


 オレは神崎を落ち着かせようと声をかける。


「はい、深呼吸ー」


「すー……、はぁー……」

「すー……、はぁー……」

 

 と、オレの合図に合わせて深呼吸する神崎。

 その呼吸に合わせて、神崎の胸が揺れる。


 …ふむ。


「俊貴のえっちー」


 と、耳元で囁くノエル。


「!? い、いやちがっ」


「?」


 深呼吸して落ち着いたのか、神崎は慌てるオレを首を傾げて見る。


「はぁ…、帰ろうか」


 ここはこのまま放置でいいだろう。他人を危険に巻き込む様なヤツは文字通り頭を冷やす必要がある。このまま警備隊にでも捕まりゃいい。


「うん、帰ろう」


 神崎もニコッと微笑んで頷く。


「わーい! カレー、カレー♪」


 ノエルが嬉しそうにオレの頭の上に降りる。


「今日カレーなんだ?」


「おう、カレーだ。食うか?」


「え? …え、えと、また今度誘ってね! 今日はもうお母さんご飯作り出しちゃってるし…」


 神崎は少し悩んだような表情をして言う。まぁ、確かに時間もいつのまにか5時近くになっているし、晩御飯の支度をしだすとこもあるだろう。


「そうか。うちは今、オレとノエルしか居ないから、いつでも来てくれていいぞ。ちゃんともてなしてやるから」


 ニシシ、と笑うオレ。ノエルも、うんうんと頷く。ご飯は大勢で食べた方が楽しいからな。


「うん! 今度お邪魔させてもらうね! って、あれ? と……鳴上くんは1人暮らしなの?」


 嬉しそうに言う神崎。


「おう、今だけ1人暮らし。前は姉と妹がいたんだけど、姉は仕事で出てて、妹は学校の寮に入ってて今はいないんだ」


「へぇ、そうなんだ。」


 と、興味深そうに頷く神崎。オレの話がそんなに興味深いのか? 家族の事しか話してないけど。


「じゃあ、料理は鳴上くんが?」


「うん、オレがやってる。姉も作れるけど、仕事でいないからオレがやってて、それが習慣になって今はオレがやってる」


「そうなんだ! 鳴上くんは1人で何でもやっちゃうんだね! 器用でいいなぁ」


「神崎は料理しないのか?」


「するよー。するけど、そんな上手くないから…」


 えへへ、と笑う神崎。なんというか、神崎に何でもできる委員長的なイメージを持ってたオレは予想外の返事に驚く。


「意外だな、神崎なら料理もそつなくこなしそうなのに」


「そうでもないよ? わたしだって上手くいかないこともあるんだよ」


 と、少しムッとした様な表情になる神崎。


「…そうだな、誰にでも上手くいかないことはあるよな」


 うんうん、と頷くオレ。ついさっきも、ユニゾンの感覚を掴もうとしたが、上手くいかなかった。そういうことなんだろうな、たぶん。


「ねぇ、鳴上くんは…」


 と、オレ達は家に帰りがてらお互いの事を話ながら歩く。


 それを建物の屋上から見下ろす3人。


「…どうです? 魔術師の中でも珍しい精霊持ち。」


 金髪ショートカットの瑠花がお嬢様に聞く。


「そうね、勧誘すべきね。」


 うん、と頷くお嬢様。


「どうします? 明日、声をかけますか?」


 水色髪のロング、いちごが聞く。


「…そうね。風紀委員も動き出してるし、早めに私たちも動くわ」


 と、腕組をするお嬢様。瑠花といちごが頷く。


「…にしても、完全に出番をとられましたね」


 瑠花が、警備隊の到着した喧騒現場を見下ろして笑う。


「ええ、見事にデビューを持ってかれたわ…」


 しゅん、と落ち込むお嬢様。


「つぎ、頑張りましょう!」


 いちごが微笑む。


「ええ、そうね!」


 お嬢様が頷く。

どうも。

お久しぶりです。

新キャラ登場回でした。

まだこれからも新キャラは出てくるんですが、少し登場人物多すぎたかな、と思ってたりします。

まぁいいか(笑)


では、感想等もらえると嬉しいですノシ

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