氷の魔術師
先日、‘マル・リアス’付近で喧騒を起こした2人の男は、俊貴とノエル、神崎によって邪魔され氷付けにあい、後から来た警備隊によって捕まった。警備隊の事情聴取によって、原因は‘マル・リアス’のオークション商品の奪い合いでどちらが商品をとるか、という元の決闘だったらしい。
「うわー…、写真まで撮られてるし」
オレはテレビから流れるニュースを見ながら呆然とする。その写真はちょうど2人の間に割って入った瞬間の物だった。
更に、神崎の写真まであるようで神崎が竜巻を巻き起こした時の物が映っていた。
「神崎まで撮られてたか…、幸い顔は映ってないし、そんな大騒ぎすることでもなさそうかな」
ニュースは事件の事を一通り話し、次のニュースへと移る。
「警備隊から事情聴取されるかと思ったけど、なさそうだな」
まだこの写真が誰なのか判別できてない可能性もあるが、まぁオレ達は止めに入っただけだから問題はないはず。
「俊貴ー、そろそろ学校行こー」
着替え終わったノエルがフワフワと浮きながらオレの方に来る。
「よし、行くか」
オレは頷き、立ち上がってリュックを持ちノエルを頭に乗せて玄関へと向かう。
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1限の講義室にオレは、講義の始まる10分前に着いた。いつも早めに来てボーッとするのが習慣で、この時間に来るのだがそれよりも早く来ていた人がいた。
その人は講義室の扉の前にいて、オレに気づきニコッと笑顔を向けてオレの方に走ってきた。
「おはよう! 鳴上くん!」
その人は神崎だった。しかも、オレに用があったみたいだ。
「おはよう、早いな、神崎は」
また教授絡みか? と思いながらオレは神崎に返事をする。
「今日は、鳴上くんに昨日お礼を言い忘れちゃってたから言いに来たの。助けてくれてありがとう!」
神崎は再びニコッと満面の笑みをオレに向けてくる。それを見て、あぁだから人気が凄いんだな、と改めて神崎の人気っぷりを実感する。この笑顔はヤバイ。メチャクチャ可愛い。
「お、おう。神崎に怪我が無くて良かったよ」
オレは照れてしまって、神崎の方が見れず顔を逸らす。心臓の鼓動がいつもよりかなり速い。
「えへへ、じゃあね! ありがとう!」
神崎はオレに手を振って走っていってしまった。オレは呆然としながらも手を振って、それを見送る。
ノエルがボーッと去っていく後ろ姿を見るオレに声をかける。
「あれれ? 俊貴は班長が好きになっちゃったの?」
「! ん、んな訳ないだろっ」
オレはそう言いつつも、心の中に現れたよくわからない感情に戸惑いを感じる。
「そんなとこで何してるの?」
「!?」
後ろからいきなり声をかけられ、オレは驚き振り返る。そこには佳奈がいた。
それと同時に少しずつ人が増えてきはじめた。
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お昼。
屋上でたむろするオレ達。
そこには、神崎も混じるようになってまた賑やかになった。ノエルも神崎になつくのは早く、オレの頭にいない時は、だいたい神崎の頭の上にいる。
「ねぇ俊貴。昨日の喧嘩知ってる? 朝ニュースでやってたんだけど」
佳奈も朝のニュースを見たようで聞いてくる。
神崎がピクッと反応したが、オレはとりあえず答えた。
「知ってるよ。‘マル・リアス’付近の事件だろ?」
「危ないよね。あそこら辺は一般人も多いのに、魔術師が喧嘩し始めるなんて。でも、それを止めに入った2人の人は良い人だね。危険を省みず自ら止めに入って、止めちゃうんだもん」
「ああ、勇気あるな、そいつは。見習いたいぐらいだ」
オレは、あたかも自分じゃないと主張するかのようにサラッと同意する。それを見て神崎がクスクスと笑う。
「何だよ、神崎」
「ん? ふふ…、別に何もないよ?」
「…」
オレは、クスクスと笑いオレの心境を読んだ神崎に苦笑いしてほおをかく。
それを見て、佳奈とひなたが何かに勘づいた様な表情をする。
(…なんかこの2人おかしいわね)
2人同時にそう感じ、オレと神崎を交互に見る。
「ところで、鳴上くん。」
2人の怪しむ視線に気づいてないのか、神崎はオレに聞く。
「鳴上くんはサークルとか入ってないの?」
おそらく、昨日の夕方に会った事からサークルに入ってないと考えたのだろう。実際、サークルには入っていないのだが。
「入ってないよ。そんな興味引かれるような物もなかったし」
「そっか。」
ホントにちょっとしたことを聞いてくるようになったな、神崎は。昨日もよく聞かれたし。家族構成から、暇なときは何してるのとか。
「神崎は?」
いつもいる佳奈とひなたは何も入ってないのを知ってるため、神崎に聞き返す。
「私も入ってないよ。向坂先輩に風紀委員を誘われたけど断ったし、研究室のお手伝いとかやってて忙しかったからサークルに入るのやめたんだ」
「へぇ、研究室の手伝いか。あの教授、何を神崎に手伝わせてるんだ?」
前から気にはなっていたのだが、教授は何かと神崎を呼び出しては仕事を手伝わせている。オレのお目付け役の事もそうだ。
「えっと、色々? 研究室の片付けとか資料の整理とか、かな」
「あの研究室で1人?」
「うん」
「…今度からはオレも呼んでくれ。手伝うから」
今まで研究室で貰った資料は全部神崎が用意してたのか。それにいつも綺麗にしてたのも神崎だった。何もしてなくて、神崎に任せっきりだったことに気づき、オレはなんで気づかなかったんだと自分を責める。
「え? でも…」
少し不安そうな顔をする神崎。おそらくオレの時間を使ってしまうことを気にしてるんだろう。
「大丈夫。昨日も言ったけど、オレは基本的に時間に余裕があるんだよ。ノエルもいるけど一人の様なものだし。だから、呼んでくれ。」
オレはニッと笑う。ノエルもニッと笑う。
「…じゃあ、今度からは鳴上くんも呼ぶね!」
神崎もニコッと笑う。おお、可愛いな。
「じゃあ、番号教えて? 手伝って欲しい時に連絡するから」
スカートのポケットから携帯端末を取りだしてオレに近づける。
「おう、頼む」
オレもズボンのポケットから携帯端末を取りだし、佳奈の物に近づける。
ピッと音をたて、神崎の番号が記録される。
ディスプレイには神崎姫華と表示されている。オレはそれを確認してから閉じる。
「ねぇ、2人は昨日会ってたの?」
佳奈が聞く。ひなたも同じことを聞きたかったようでうなずく。
「え?」
神崎がキョトンとする。
「うん、会ったよ。なんで?」
「ふーん…。特に意味はないよ」
と、佳奈は笑って誤魔化す。だが、それで誤魔化せるのはオレだけだった。
「もしかして、私に鳴上くんをとられたと思ったの?」
『んなっ!? ま、まさか…』
佳奈とひなた2人のリアクションがまるっきり被る。それに気づかない2人。オレは苦笑いする。
「えへへ、大丈夫だよ? 私はたまたま会った鳴上くんに帰り道を送ってもらっただけだから。その時に色々と話しただけ」
と、神崎が2人に昨日の事件の後の事を話す。
「べ、別に俊貴の事なんて気にしてないし…」
ふん、とそっぽを向く佳奈。
「へぇ、神崎さんは俊貴の事何とも思ってないんだ?」
佳奈とはうって変わり、神崎へと的を移すひなたが問いかける。
「へ? 鳴上くんのこと? 同じ研究室の仲間として心配だけど、鳴上くんは頭の回転速いし優しいし強いし、信頼できる人って所かな」
これまた満面の笑みで答える神崎。
「信頼できる人、か」
オレは嬉しいような残念な様な微妙な感情に苦笑いする。
「なに、残念なの?」
佳奈がオレの表情を見てピンポイントに当ててきた。さすがは幼馴染み。
「…い、いやよくわからん」
残念な気持ちになったのは事実で、その理由がわからない。神崎を好きになったから? 無くはないが、正解でもない気がする。
「ねぇ、俊貴と神崎さんはいつ出会ったの?」
と、ひなたはオレと神崎の関係が気になるようで質問を続ける。
「いつからだっけ? 入学してすぐだったかな?」
「そうだよ。私がサークルの勧誘とか受けてて困ってる時に、たまたま通りかかった鳴上くんが『オレの連れに用ですか?』って言って、勧誘から助けてくれたの」
「ま、まぁそうだね」
少しそれは違う。正確には、サークルにかこつけたナンパで、大勢に声をかけられて返事に困ってる神崎を助けたのがオレだった。はじめはスルーしようと思ったが、表情が困っていたため手を貸した。そっからオレと神崎は知り合いになり、どんな因果か研究室が同じになって現在に至る。
「俊貴らしいと言えば俊貴らしいね」
ひなたが妙に納得して微笑む。そこまで納得できることなのか? オレは少し戸惑う。
「そろそろ昼の時間終わるぞ。早く片付けよう」
チラッと見た時計が3限の始まる10分前で、広げたまんまの昼飯の片付けをする。神崎達も広げたお弁当箱を片付ける。
「じゃあ、また後でね!」
神崎が片付け終わり、オレ達に手を振って先に屋上から出ていく。講義が違うからしょうがない。
「おー。じゃあなー」
オレ達は手を振ってそれを見送り、
「んじゃ、オレらも行くか」
『うん』
佳奈とひなたを連れて次の講義室へと向かう。
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午後の講義を終え、帰路につくオレと佳奈、ひなた、神崎。神崎はたまたま終わるタイミングが重なって、一緒に帰ることとなった。
やはり、ひなたは少し不満そうにしているが神崎に文句を言うわけでもないため、とりあえずは放置しておく。佳奈はひなたよりも付き合いが長く、意気投合するようでニコニコと話をしてる。
「はぁ…、わたしちょっと寄るとこあるからここで」
「え? あ、おう。じゃーね」
「またねー」
と、オレ達はひなたを見送る。ひなたは足早に去っていった。
「ねえねえ、昨日の事件のあったとこ行こーよ!」
佳奈が完全に興味本意で提案する。
「え!? …そ、そうだな。行ってみるか」
チラッと神崎の方を見る。神崎も苦笑いして頷く。神崎にはメールで事件に関わってた事は伏せとこうと提案して、同意を得た。伏せといた方が騒がれなくて済みそうだし、また風紀委員に怒られそうだしな。
正直、現場に戻って警備隊に何か聞かれると面倒だが、ニュースで見た画像はどちらも鮮明ではなかったため誰かは判別できていないはず。鮮明な画像がないとは言いきれないが。
「にしても、ニュースで見た止めに入ったっていう2人。何か服装が見たことあるきが気がするんだよねー」
現場へと向かいながら、佳奈が首をかしげながら言う。
『!?』
オレと神崎は思わずドキッとして顔を見合わせる。
「…気のせいじゃないか? 服装なんて似たような格好したヤツが一杯いるんだ。見たことある格好しててもおかしくないだろ」
「確かにそうだけど、何か他人じゃない気がするんだよねぇ」
腕組みをする佳奈。
「まぁそんな気にすることないんじゃないか?」
オレは、アハハと苦笑いする。
「…そうね、考えてもわかんないし気にするだけ無駄よね」
そう言って、アハハと笑う佳奈。
そんな会話をしながら歩いていたら、‘マル・リアス’横の事件現場へと到着した。
そこには、警備隊が聞き込みを数人でしてるだけで、もう普段の街となっていた。
オレ達に気づいた警備隊の1人が近づいてくる。
「君達、魔術大学の生徒かい?」
手帳とペンを持って聞き込みする気満々の警備隊の人。
「そうですけど、何ですか?」
オレがいち早く返事をする。
「いや、ここら辺で聞き込み調査したら、学生の男の子1人が喧嘩を始めた2人を止めに入って、あそこに投げ飛ばされ」
警備隊の人が少しへこんでヒビのできた建物の壁を指差す。
そこは、オレが投げ飛ばされた場所だった。
「今度は女の子が間に入ってきたんだけど、女の子の魔術が破れそうになったのをさっきの男の子が助けた。その後、女の子を下がらせた男の子が、黒髪から白髪に変化して喧嘩をあっという間に止めた。って情報が入ってきたんだ。」
メモ帳をパタンと閉じてオレ達を見る。
というか、そんな情報を話しちゃって良いのか、あんたは。
「男の子の方は、黒髪で身長は170前後、少しやせ形。女の子は長めの茶髪で、身長は155前後…って、君達特徴が似てるね」
オレと神崎を見て特徴と照らし合わせる。
「確かに特徴は近いですね。」
オレが頷く。それに神崎もオレに合わせて頷く。
「まぁでも、似たような特徴の人なんて一杯いますからねぇ」
オレはわざとらしく自分達ではない、と言っているように言う。
「ふむ、確かに。この2人に話を聞いておきたかっただけなんだがなー」
あはは、と苦笑いし、時間とらせて悪かったね、ありがとうと言ってまた聞き込みに戻っていった。
「…ねぇ、聞いていい?」
警備隊の話を聞いて佳奈がジト目でオレと神崎を見る。オレと神崎は苦い顔でお互いを見る。
「何でしょうか?」
オレが返事をする。
「あんたら昨日ここで何した?」
確信を持った顔で聞いてくる佳奈。
「…喧嘩を止めました」
「そうよね。黒髪から白髪に変化するとか、あんたしかいないじゃん」
髪の色が変わるなんてそうそうない。あるとしたら、精霊持ちでユニゾンするぐらい。そして佳奈の言うとおり、精霊持ちはオレを合わせても5人にすら満たない3人だけ。そのなかで、髪が白になるのはオレだけ。その情報を警備隊が入手できるかは知らん。
「…なんで隠すのよ? あんた達人助けしたのよ?」
呆れながら聞く佳奈。ちゃんと警備隊に聞こえないように小声にする所が、流石の幼馴染みである。
「そうだけど、事情聴取とかめんどいじゃん。」
オレの思ってることをそのまま言う。
神崎はそんなこと思ってたんだ、と苦笑いする。
「あんたらしいね。人を助けるくせにお礼とかそういうのはメンドイとか言って避ける。」
「え?」
神崎が驚き、オレを見る。私を助けた時はそんな風じゃなかったのに、と言いたげな顔をしてる。
「あー、神崎の時は‘連れだ’って言って手をとって歩いてきちゃったから、すぐに離れる訳にもいかなくてさ」
ほおをかき苦笑い。
「なんだかんだで、あんたって律儀よね」
「だね」
佳奈と神崎が微笑んで頷く。
「うっせ」
オレはツンと顔をそらしてその場から離れる。その後を笑ってついてくる。
そんなオレ達をつける男達3人。
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‘マル・リアス’から家へと帰る途中、再び事件にオレ達は巻き込まれた。
尾行されてる事に気づいたオレが、佳奈達にそれを教え、歩く速度を速めた。それに気づいた追跡者達はすぐにオレ達を追う。
それによって、追われてるのを確信し走る。追跡者達も走って追ってきて、結果人通りの少ない場所に入ってしまい、建物の破壊作業中の場所で行き止まりへと追い詰められた。その判断がミスだったことに気づき、自己嫌悪に陥るが、そんな状況ではないため切り替える。
追跡者の男3人がへらへら笑いながらこちらへと向かってくる。狙いは何だ? オレと神崎か? それともノエルか?
どちらにしても、今の状況はマズイ。行き止まりで出口を塞ぐように男達がいる。この2人を逃がすにしてもあの出口へと安全に行けるようにしないと。あの破壊途中の建物を使って上手く撒くか? ダメだ。破壊途中でどこか崩れる可能性もあるし、逆に追い詰められるかもしれない。
「状況は最悪だな」
オレは思わず呟く。
「さて、そこのガキはどっか行って良いぞ。用があるのは後ろの姉ちゃん達と、頭に乗ってるチビに用があるんだ」
なるほど、そのパターンか。なら、優先的に逃がすのは後ろの2人だな。
2人をチラッと見ると、戸惑った表情をしてる。
これは守りたくなるな、何がなんでも。
「悪いけど、そうはいかない。」
オレは青い魔方陣を展開し、男達を見る。
確実に3人とも魔法使いだろう。
ただ、気になることがある。ノエルはともかく、この2人を狙う理由は何だ?
「はは、聞いてた通りだ。ボコボコにしてやろうぜ!」
男達も魔法陣を足元に展開する。左から、青と緑と茶色の魔法陣を展開している。
「俊貴…」「鳴上くん…」
2人が不安そうに声をかけてくる。
「1人で無茶することないよ! 私も手伝うから!!」
と、1歩前に出て隣に立つ神崎。
「そ、そうよ! わたしも!!」
負けじと佳奈も前に出る。
オレはそれに驚き、2人を交互に見るが、2人がやると言ってるため頷く。
「…無茶はしないでくれ。2人に怪我してほしくない」
そう言って、オレは男達を見る。
「かっこつけやがって、コイツ!」
男の1人が水の魔術を使う。円盤状の水の塊をオレへと飛ばす。
オレは障壁を張ってその水の塊を防ぐ。
「前にはオレが出る! 神崎はオレのフォローを、佳奈は後方支援!」
「うん!」「わかった!」
頷き、神崎は緑の、佳奈は青の魔法陣を展開する。
「ノエル!」
オレは軽く跳んで、氷の槍を男達へと飛ばす。その間に、オレはノエルとユニゾンする。
氷の槍は、男達の足元に突き刺さって、そこから氷結していく。
「氷に気を付けろ!」
男達の1人が、その場から走ってオレの着地地点へと向かってくる。
「!」
それに気づくが、オレは他の2人に意識を持っていく。その2人は、オレが終わったなと思い顔をにやつかせる。
オレの後ろには神崎がいるというのに。
「させないっ!」
神崎が、オレを攻撃しようとした男に雷の槍を放っていた。男の右肩に雷の槍が当たり、そのまま地面へと転倒させる。
「ぐああぁ!」
男は肩の痛みに悲鳴をあげる。後ろにいた男達が慌てて、その男へとかけより始める。
が、そんなことオレがさせない。
「お2人さん、ストーップ」
オレはニッと笑い、2人を止める。氷の槍で。
氷の槍は、2人の周りを囲んで浮かび、切っ先が2人を捉えている。
「流石、神崎」
神崎の方に振り返り、ニッと笑う。
「ふふ、任せてよ♪」
ニコッと笑って返事する神崎。神崎が一緒の時点で、オレは負ける気がしていない。神崎は攻撃、回復、支援全ての魔術をそつなくこなすオールラウンダーで、得意なのは風。風の他に水、土が使える。実力も上位の方で申し分なし。同じ研究室で、付き合いも長いため連繋もとりやすい。
「くっ…、ふざけやがって…」
肩に突き刺さった雷の槍をかき消して、よろよろと立ち上がる。
「!」
オレは男2人を氷の槍で捉えたまま、立ち上がった男の方を見る。神崎達も警戒して顔を引き締める。
「あの2人の情報はねぇな…。警戒するのはガキだけじゃねぇのか」
男が体勢を横にして、オレと神崎達どちらも見やすいようにする。
だが、あの男だけでオレ達が負けるとは思えない。そのため、オレは後ろ2人に意識を集中していた。
それが幸いしたのか、急にオレへと飛んできた大きな氷の剣に気づき、その場から跳んで神崎達の元に戻る。地面に氷の剣が突き刺さった瞬間に、カアァンと音をたててその空間を氷結させる。
「なんなんだ…」
増援だと気づき、顔をしかめる。しかも、今の氷の剣は中級魔術。少なくとも学生ではない。
オレは嫌な予感を感じながら、男達の方を見る。
「おいおい、たかが学生に手をこまねいてんのか?」
銀髪の男が、2人を囲んでいるオレの氷の槍を見て笑う。その銀髪の男は、魔術都市には珍しい薄い茶色のマントを羽織っていた。
そして、マントから腕を出し、先程の氷の剣を手に握っている。
その氷の剣で、オレの氷の槍を簡単に砕いていく男。
「…やばいな」
オレは不意に声に出してしまう。あの銀髪、周りの3人を1人にまとめたとしても追い付けない強さだ。格が違う。
「鳴上くん…」
神崎も銀髪の強さを悟ったのか、不安そうにしている。
「大丈夫。絶対に何とかしてみせるから」
根拠もないし、自信もない。けど、思わず口から出た言葉。諦めがここで出るよりは遥かにマシだ。
考えないと。最悪、2人だけでも逃がせれば。この空間をすべて氷結させる? 無駄が多すぎる。なら、あの連中をまとめて氷結させるか? ダメだ、避けられる。足止めするにしても2人を危険にさらす。せめて、あの3人をつぶすか。数を減らして、あの銀髪1人だけなら足止めできるかもしれない。
オレは、意を決して3人を先につぶす方法にして神崎達を逃がす事にした。
「精霊使い。オレとサシで勝負しよう」
「!?」
まさかのタイマン。いきなりオレの計画は壁にぶち当たる。
「お前がオレに勝てたら、全員見逃してやろう。だが、お前が負けたら嬢ちゃん達と精霊は貰っていく」
「それをあんたらが守るとは思えない」
オレは銀髪の男や、他の男達を信じていないし信じれない。オレが勝ったとしても、神崎達を連れ去ろうとするに決まっている。
「さすがに信じはしないか。大事なんだな、その2人が。」
ハハッと笑う銀髪。
「当たり前だ。」
大事に決まってる。
「じゃあいいや。交渉なんてめんどくさい。実力行使だ」
「っ!」
そう言って、即攻撃に移る銀髪。
オレへとまっすぐ突っ込んできて、氷の剣を振るう。
オレは身を屈めてかわし、地面に両手をつき蹴りを繰り出す。
が、それを横から蹴り上げてかわす銀髪。
「なっ!?」
オレは蹴り上げられ、宙に浮かせられる。
銀髪は、その隙だらけのオレへと再び剣を振る。
ギリギリで障壁の展開に間に合うが、氷の剣が障壁に当たるやいなや、障壁を破壊されてオレは破壊途中の建物へと吹き飛ぶ。
「鳴上くん!!」「俊貴っ!!」
壁を壊し、砂煙をあげる。
「ハハハっ! 守りたいなら、もっと全力で来いよ! それじゃあ、全然ダメだぜ」
銀髪が笑う。
「ぶはぁ! 煙すげぇな、ちくしょう」
砂煙から出てきて、新鮮な空気を一杯吸うオレ。背中が痛い。この建物に使われてる鉄骨で背中を打った。めちゃくちゃ痛い。
「ノエル、あの2人を守るために飛ばすよ」
だが、弱音なんて吐いてられない。そんな暇あるなら、少しでも可能性のある脱出方法を探す。ノエルを助けた時と同じように力が出せれば…
『うん、あの人を止めないと佳奈ちゃん達がつれてかれちゃう!』
それはお前もなんだがな、と苦笑いする。
「本気、か」
オレは、こちらを見上げて笑う銀髪を目で捉える。
「やってやるさ。同じ悲劇を繰り返ささないために!」
オレの脳裏に浮かぶ悲劇。それを振り払う様に戦略を練る。とりあえず、銀髪の後ろの3人だ。
オレは3人の‘位置’を把握する。
「凍る世界」
「!」
銀髪の後ろにいた3人の周りの空間ごと氷で覆われ氷結する。
「よし、これで集中できる」
あの3人が佳奈達を連れていかないとも限らない。その憂いを断てたのは大きい。
「…用心深いやつだな」
後ろで凍る3人を見て笑う銀髪。
神崎達の前に降りるオレ。
「言ったろ。オレにとって、この2人は大事なんだ。守るために手は抜かない」
「ふん、なるほどな」
男がニッと笑う。
「そこまでよっ!!」
『!?』
こっから戦おうとした瞬間に、どこからか聞こえてきた声でオレ達は動きを止める。
声のした方を見ると、腰まで伸びた赤髪を靡かせた女子が立っている。口の端をつり上げてニッと笑っている。
「なんだ? お嬢さん、ここは今関係者以外立ち入り禁止だ」
銀髪の男がその赤髪の女子に言う。
「関係者ではあるのよ。そこの3人は大学の生徒。仲間ですから」
「魔術大学の生徒か。だがな、お嬢さん。男の真剣勝負の邪魔はするもんじゃない」
「そうですか。でも、今は自分の身を案じるべきじゃなくて? こっちに対策室が向かってきてますし、私もみすみす逃がすような真似はしません!」
オレ達の横に移動して、赤髪の女子は炎の球を掌に浮かべる。
「…火か」
そう呟き、男はオレの方を見る。
「悪いな、勝負はお預けだ。次に会うかは知らんがな」
ニッと笑い、斜め上に手を向ける。そして、足元に青い魔法陣を展開する。
「! 伏せろ!」
オレは男のしようとしてる事に気づき、佳奈達を伏せさせる。
「ちょ、何ですか!」
「わわ」
「うわ」
佳奈達がそれぞれ声をあげる。
赤髪の子がもがく。
「いいから!」
男を止めようと思っていたが、まさかの赤髪の子が抵抗してきたため、オレはやむを得ず赤髪の子を無理矢理しゃがませ、破壊途中の建物の方を見る。
ちょうどその瞬間に、男が放ったであろう水の塊が建物に当たる。
その横からの衝撃で、鉄骨が折れる。
「!」
佳奈達もそれに気づき、悲鳴をあげようとする。
「そのまま伏せてろ!」
オレは立ち上がり、後ろを振り向かずに怒鳴る。それにビクッとしと、言われた通り身を屈めたままの3人。
「凍る世界!」
オレは、鉄骨が折れて支えを失い落下してくる建物の壁や骨組みを把握し、オレ達と落下物の間の空間を広く厚く氷結させてる。
そこにどんどんと落ちてくる壁や骨組み。
「っつ!」
氷にかかる負荷で腕が痺れてくる。それに耐えつつも、氷に乗っかってくる物の量を何とか把握する。
「こおれえぇぇ!!」
叫ぶように声をあげ、一気に氷で囲み包む。
分厚い氷が、落下してくる建物の壁や骨組みを包み込んで無事に防ぐ。
「へぇ」
銀髪の男がそれを見て、ニッと笑ってから凍った仲間をそのままにして、その場から跳んで逃げる。
それを止めるのはおろか、気づくことすらできないオレ達。意識が氷の方にいっていたためしょうがないといえばしょうがない。
「はぁ……はぁ…」
魔力を殆ど使いきってしまった。この氷を維持するので一杯一杯。
「…」
自分達の真上の巨大な氷を見て呆然とする佳奈達。
「怪我は?」
ふぅ、と一息つき佳奈達に聞く。
「だ、大丈夫」
「ないよ、ありがとう!」
「あ、ありがとう」
と、順に佳奈、神崎、赤髪の子が言う。
「この真下から離れてくれ。もうそんな維持できない」
佳奈達も頷き、氷の下から移動する。
オレも、佳奈達がどいたのを確認してから移動する。
「砕けろ」
一気に氷ごと中の物を砕く。それが地面へと次々と落ちてくる。
「はあぁぁ…、何とかなったー…」
オレはその場にしゃがみこみ、ホッと胸を撫で下ろす。それに加えて、疲労も込み上げてきた。
どうも。
最近忙しくなってきたので更新が遅れるかもしれませんがご了承ください。
ストックも減ってきたので少し不安ですが、更新はしてきたいのでこれからもよろしくお願いします。感想の方もよろしくお願いします。




