拾捌
お久しぶりです。
更にオリキャラを出してしまいました・・・。
宇津木十郎太、青藍と同じ新米隊士です。
「原田さん、ひとつ伺っても構いませんか?」
「んー?なんだ青藍」
原田の居室で準備を手伝う。
そういえば、とふと疑問に思ったことを尋ねてみた。
青藍の問いに、原田は袴を締め腰に刀を差しつつ応える。
「あの、先ほど副長がおっしゃっていましたけれど、幹部の方全員っていうのは」
「あー、うん。言いたいことわかるぜ、青藍。その間屯所がガラ空きじゃねぇのかっつーこったろ?」
「はい。他の隊士もいるとはいえ、無用心ではないかと」
眉をひそめて青藍は小声で話す。
原田は顎に手を当てて髭が伸びていないか確認しながら答えた。
「俺たち壬生狼は恨まれてるからなぁ・・・。それでも安心なわけは二つある」
「二つ、ですか」
「おう。一つはお前ら平隊士がそうそう簡単にやられる奴じゃねぇってこと。もう一つは監察方だ」
さりげなく落とされた信頼の言葉に面映く思いながら、青藍は二つ目に理由について問うた。
「・・・監察方?」
「ん?知らなかったか。まぁ無理もねぇ。アイツら滅多に屯所にいねぇし。隊服を着ねぇ隊士だ。主に市中の動向を探ってる。基本的に単独行動だから腕が立つ奴が多い。・・・で、今回は平隊士の中に混じってるってわけだ」
「・・・もしかして、『山崎』さん、ですか?」
「お、あたり!なんだ知ってたのか。ザキのこと」
「い、いえそういうわけじゃ・・・。ただ、この前の御用改めの時に山南さんがおっしゃってて・・・」
「ふーん、そうか。ザキは監察方筆頭だからなぁ。仕事中毒かっつーぐらい働く奴だ」
俺とは違ってなーと続ける原田に、青藍がそうですねと返したら、また軽口の応酬が始まってしまった。永倉が呼びに来たので何とか収まったが。
「頼むからあんまりアイツで遊んでくれるな、青藍」
「すみません・・・つい。原田さんノリが良くって話しやすい方なので」
「まぁ、お前が楽しそうなのはいいことだけどな。・・・留守番頼むぞ。じゃあな」
「はい。いってらっしゃい!ご活躍をお祈りしています!」
「よっしゃー!お偉方の度肝抜いてくるぜー!青藍!」
門をくぐって出て行く二人を見送る。
「・・・峰岸。行ってくる」
「わ、せ、先生!いってらっしゃい!ご武運を!」
門のところに立っていた青藍の脇をいつの間にか斎藤が通り過ぎた。
ポツリと落とされた挨拶に咄嗟に返すと、斎藤はふっと微かに笑ったようだった。
(・・・あ。流石にご武運は大げさだったか・・・斎藤先生だしな)
小さくなっていく人影をじっと見ていた。
「・・・もう見えないなぁ」
「どうしたん?辛気臭い雰囲気やなぁ、ジブン」
「っわ!!・・・吃驚した。・・・あの?」
真後ろからの声に驚いて振り向く。気配も感じなかった。
「ん?驚かせてしもた?あっは、堪忍やで。ボク山崎言います。峰岸青藍クンやね?」
にこにこしてとても感じの良い青年が立っていた。
青藍と同じ平隊士に見える。
だが、佇まいがただの平隊士とは思えなかった。
気配の消し方が一級品だ。
(それに・・・山崎って・・・)
「確かに俺は峰岸ですが・・・。あのもしかして監察の」
「しーっ!一応これは機密事項なんや。あんま外で言わんといて?」
唇の前に人差し指を立てて小首をかしげる山崎。
「はぁ・・・でも屯所内ですけど?」
「今日はええ天気やなぁ青藍クン?」
(話題が噛み合ってない・・・いや、わざとか)
「・・・ええ。そうですね。褌を干すのにはちょうどいいかと」
「あっは。褌か。ええね、ちなみにボク赤派やけど。青藍クンは?」
「え・・・普通に白、ですけど」
山崎に合わせてみたら変な方向に話が進んでいる気がする。
(褌赤って・・・下着は目立つんだな)
どうでもいいことを考えていたら朝稽古の招集時間になってしまって、慌てて道場に駆け込むことになった。
(・・・あれ?山崎さんは・・・)
いつの間にか山崎は姿を消していた。
「・・・なんだったんだ、あの人・・・」
「よー青藍!朝っぱらから難しい顔してんなぁ。なんかあったか?」
「あ、おはよう宇津木。別に、何もないよ」
「そっかぁ。ってかさ、まだ苗字で呼ぶのなお前。固っ苦しいからやめろっつってんのに」
「そう言われても・・・。なんか気恥ずかしいじゃないか」
「十郎太だぜ?古臭すぎて逆に新しいから気に入ってんのによー。なんでお前が恥ずかしがんだよ」
「いやそうじゃなくて」
知り合って間もない相手の下の名前で呼ぶことが恥ずかしいのだ。
だが、この宇津木十郎太という開けっぴろげな性格の男には通じなかったようで。
「むぅ・・・。つれねぇよなぁ青藍は」
「そんなことないよ」
唇を尖らせる宇津木に青藍は言った。
「おい!そこ!私語は慎め!」
「っはい!すみません!!」
「すみませんっす!」
先輩隊士から叱責の声が飛んだ。
慌てて姿勢を整える。
「・・・では、各々準備が出来次第、仕合形式の稽古を始めるように。幹部の方々がいらっしゃらないが、努努気を抜くことは無いように」
「はい!」
新米平隊士たちの声が揃って晴天の空に響いた。