必殺カード注意報
「お知らせ聞く?」
「聞く」
「あはは」
やっと迎えたお昼休みで、体育倉庫の横に来た俺はドキドキしながら拓己に聞く。
即答した拓己に笑っていたら『早くしろ』って顔をするから、俺は拓己に自分のお弁当を渡した。
「今日のお弁当、俺が作ったんだ」
「……まじ?」
「まじ!」
早速お弁当を開ける拓己をじっと見守る。
昨日所用で買い物へ行ったついでに、少し食材も買って、自分でおかずを作ったのだ。
ついでにお父さんとお母さんのお弁当も作ると、凄く喜んでくれていて嬉しかった。
味の保証はできないと伝えたら、二人共笑っていたけれど嬉しそうだった。
「おー、すげぇ」
「ちゃんと手洗って作ったよ」
「はは」
楽しそうに笑う拓己が、いつも通り俺へ先におかずをくれる。
今日は拓己からでいいのにと思いながらも口で受け取ると、自分の口にも運んだ拓己が嬉しそうに笑っていて心臓がぎゅっとした。
「美味い」
「よかった!」
それから拓己が無言で自分のお弁当を渡してくるから、笑いながら受け取る。
今日は俺も自分で食べることを許されたらしい。
拓己のお弁当を開いて食べ始めると、時々俺の胃的に多い分を見計らって、取っていってくれて。
それでもいつもより随分と早く完食した拓己が満足そうにしていて、作ってよかったと心から思った。
「嫁に来い」
「ごふっ」
「いや婿か」
「ど、どっちでもいいけど……!そんな、プロポーズ……みたいな」
「……早く食え。キスする」
「はあ!?自由すぎる!」
ちょっとドキドキしたのに、欲に忠実な拓己を怒っていたらあっという間にいつも通りで。
むくれていたら、あぐらに肘を突いた拓己がご機嫌に笑っていて、肩の力が抜ける。
それから拓己より何分も遅れて食べ終わると、本当にキスして来ようとするから全力で避け続けた。
「あ?喧嘩売ってんのか、鳴かすぞ」
「な、なんか涙と違う意味に聞こえる……」
「よく分かったな」
「ちょっ、こら!」
結局帰ったらする、という必殺カードを出して免れる。
後のことは数時間後の俺に任せて、今はとりあえずご機嫌な拓己を眺めることに専念した。
「んっ、う……やっ」
「こら」
「んっ、んん、」
おかしい。
帰ってからもう三十分は余裕で経っている気がする。
玄関に入って即拓己に噛み付かれた俺は、一度手洗いうがいに逃げて、ついでに部屋へ駆け込んで。
今日はよく走るな、なんて思っていたら、追い付いてきた拓己に襲われて、今である。
「んっ、も、きゅう、け」
「まだ」
「んんっ!?んっ」
もうとっくに脱力しきっている俺では、拓己を制止できなくて。
まだ足りない、なのか、まだする、なのか、どちらにせよ不穏なことを言う拓己に震える。
「あっ、ふ……ん」
耳も首も髪も沢山触れられて、もういいと思うのに、やめて欲しくないと思う自分もどこかに居て、恥ずかしくて。
目尻から涙が零れて、それすらも拓己が舐めて、背筋が震えた。
「お、わり、もうだめ」
「……まだ」
「こっ、こら」
拓己が唇から離れた隙に口を手で覆うと、手の甲にまでキスをしてめげない拓己を叱る。
目を開けたせいで拓己の射抜くような視線を間近で浴びてしまって、息を飲んだ。
「拓己、だめ」
「何が」
「だ……だめ」
あえて舌を見せて舐めてまでくるから、もう本当に限界で。
何が、とは言いにくくて首を振りながら手を突き出すと、離れていった拓己が掴んで、起こしてくれた。
「……あの」
「いいよ、待つ」
優しい声でそう言われて、ちょっとだけ泣く。
拓己は柔く抱き締めてくれて、だからこそちゃんと言わなくてはと思う。
俺も拓己の背に腕を回すと、震える息を長く吐いた。
「あの……その。ちゃんと心の準備、の準備……は、してる、から」
「はは」
「ほ、本当だよ」
「疑ってねぇよ。ありがと」
後頭部を撫でられて、脱力しながら拓己の肩に頭を寄せる。
あやすように背中を軽く叩かれて、また長く息を吐いた。
「好き」
「うん。俺も」
「……待たせてごめん」
「いーよ」
「お弁当ね、拓己の力になれば、と思ったんだけど」
「ん、美味かった」
「……苦しい思いさせてばっかりでごめん」
じわと視界が滲んで、悔しく思う。
拓己とキス以上へ進むには、まだ自分の中で課題があって。
思ったよりも難題で苦戦していたし、俺が告げた『苦しい思い』の中には事故や、頭痛のことも入っている。
拓己ばかり、と悔しく思っていたら、拓己の笑う吐息が聞こえた。
「俺はお前の傍に居られて嬉しいよ」
「……っ、」
「泣くなよ」
「泣い、でないっ」
「はいはい」
背中を雑に叩かれて、笑って、改めて抱き付いて。
傍に居られて嬉しいだなんて、こちらのセリフだと思う。
俺がずっと願っていたことを、拓己の気持ちとして言葉にしてもらえてまた泣いた。
幸せを貰ってばかりいて、悔しくも思う。
拓己のあやしを受けながら、俺は密かに最後の腹を括った。




