38話 エリカの想い
私が立ち去り、リンリンと眠った姿のエリカ
そんな中でリンリンは噴水の縁に座ったまま微笑む
「アレが桃花かぁ……♪ 素晴らしい逸材だね」
そう言うと空に目を向ける
そして、もう一言
言葉を紡いだ
「そう思わない? 《エリカ》♪」
「気付いてましたか…… さすがはリンリンお姉様…… はい、まさかあれ程とは……」
話し掛けられたエリカは、その瞳を開く
寝そべったままの彼女の視界ににもまた、リンリンと同じ空が映っていた
「相手が相手なら《寝たフリ》は有効だね♪ で、エリカはいつから聞いてた?」
「リンリンお姉様が《危害を加えない》と断言なさった辺りです」
「それで私の考えに賛同してくれた訳ね」
「はい、まぁ……」
「ありがとね♪」
「いえ……」
小さく呟いたエリカの頬が赤く染まる
そんな彼女を見たリンリンは、おいでおいでと手を招き、立ち上がり歩み寄ったエリカの頭を優しく撫でた
「彼女は…… どうかな?」
「私はリンリンお姉様の考えが正しいかと」
「私の考えが解る?」
「はい…… 彼女はこの世界を救う者ですね」
「そうだね…… そして桃花が最後に言っていた言葉も覚えてる?」
「はい」
「大きい器じゃない? エリカは、桃花の力が整ってなければ殺すつもりだったでしょ? そんな子を最後には守ろうとするなんてさ♪」
「そうですね…… ノア様から浅く聞いていた戦いが本当に起きるのなら、未熟な足手纏いは要りません」
「ん♪ ……で?」
「充分かと」
「そっか♪ ……で?」
「で、とは? 何かまだ話を掛けられた事が有りましたっけ……?」
「友達になりたいって言ってたよ♪」
「友達ですか……」
「そこんとこ、どうなの?」
「そうですね…… 成れるモノならば…… 成りたいモノですね」
「そっかそっか♪ 良いねぇ、切磋琢磨!」
「でも、次会った時に彼女は忘れてるかも知れませんし……」
「何言ってんの! 忘れてたらエリカから友達に成ろうって言うんだよ♪」
「ええ!? イヤですよ、そんなの……」
「それで良いの? いつか背中を預け合える親友に成るかも知れないよ?」
「背中を……?」
「そ♪」
「じゃあ…… 私は…… もっと彼女に追い着ける力を身に付け無ければいけませんね」
「そうだね♪ じゃ、侍女達にもエリカと特訓中って話をした訳だし、これから特訓する? アリバイ作りの為にもね♪」
「え!? ……はい♪ お願いします!!」
とても嬉しそうな笑顔を見せるエリカ
その表情につられ、リンリンも笑顔を返した
「でも待ってね、エリカ」
「はい?」
「もう1人特訓しなきゃならない人が居るから」
「はぁ……? 誰です?」
「フフフッ♪」
そう含んだ笑みをもらすリンリン
そんな彼女に声を掛けた者が居た
「リンリン様♪ ただ今戻りました! あ、エリカお姉様もお起きになったのですね♪」
「うんうん、ユユコ…… 思ったより連れて来たね♪」
「はい!」
そう言った女性は、先程桃花が噴水縁の下に隠れた際に中庭を訪れた侍女ユユコ
その背後には更に9名の侍女が控えていた
「とりあえずユユコも入れて10人ね?」
「はい♪ リンリンお姉様が《3分で出来る限り侍女を集めて戻れ》とジェスチャー下さったので…… 少なかったです?」
「大丈夫、充分だよ♪ ありがとね!」
「いえ♪」
なんの事かと侍女達、そしてリンリンを交互に何度も見るエリカは言葉を発した
「あの…… リンリンお姉様? コレは……」
1度エリカへ向けたリンリンの視線
だが、直ぐにリンリンは侍女達へ向き直る
「ユユコ、列びに侍女一同さんに伝えます…… 曲者を見つけたよ…… その通路を右に女性が走って行ったから捕まえてくれる?」
「リ、リンリンお姉様!?」
「黙りなさい…… エリカ」
「は…… はい……」
「さて、話を戻すね? ノア様やムーン様に万が一の事が有ってはいけません…… 殺してはダメだけど、多少の痛手はしかたない♪ ソレを踏まえて捕獲してらっしゃいな」
『『承知しました♪』』
侍女達が一様に頭を下げた後に走り去る
一気に閑かになった中庭で、エリカはリンリンへ問い掛けた
「あの……」
「ん? ああ…… 桃花の捕獲ね?」
「はい…… 彼女に危害を加えないってお姉様は仰ってたのに…… 何故?」
「だから特訓だよ♪ もう1人のっていうのが桃花なの」
「ど、どうして……」
「桃花はこの世界でもっと強くならなければならないもんね♪ だからココの侍女達から追われ、斬り掛かれた方がスキルアップするよ! 彼女は自己治癒できるから、本気で死ぬかもってスリリングな状況のが都合良いの」
「はぁ…… リンリンお姉様の悪いクセが出ましたね…… 気に入った者を無茶を省みずトコトン強くするってクセが……」
「そう?」
「はい……」
「でもさ? ムゥムゥ様の御指導も似たようなもんだったよ? だから私は強くなれたんだからね♪」
「ま、まぁ……」
そう呟く様に言葉を吐いたエリカ
侍女達が走り去った通路を見ては憐れみの表情を浮かべ、そして彼女は桃花へ届かぬ想いと知りながら、それでも心で語り掛けた
(桃花…… ちゃんと生き残りなさいよ? 私は…… 私は、貴方と友達に成ってみたいのだから……)




