39話 戦場
リンリン、そして気絶していると思っていたエリカ
そんな2人と宮殿中庭で別れ、ソコから隣接した通路を小走りする私、桃花
走り進む際にも通路の両隣には部屋と思われる扉がズラリと並ぶ
だが、気配から察すれば、どの部屋にも人の居る雰囲気は無かった為に入室はし無かった
そんな人探しの中でも行ったきり来たり
アッチに向かってはコッチに向かう
ソッチに走ってはコッチに戻る事を繰り返した
つーか……
今はどの方角向いてんのよ!?
大きすぎでしょ、この宮殿!
それでも、めげずに先代の神様ノアと、今の神様である加藤さんを探すのは使命感に似た物を宿しているからであった
「ドコなのよ!?」
私の口から漏れる嘆き
それものそはず
私は感覚をフル稼働して別次元の生き物を探しているのだ
神様という、人間風情では到底太刀打ち出来ない、人とは異なる者を……
無知とは恐ろしい
知ら無い宮殿を走り回るのはホントに疲れる
何よりそんな宮殿でいきなり人探しというのも本来恐ろしい無礼だが、リンリンさんが了承してくれたから、その部分だけはノーカウントとする
とはいえ、あまりにも広すぎる宮殿で人探しは《リアル・ウォーリーを探せ》みたいな難易度だ
でも…… 使命感が勝った
だがさすがに感覚フル・スロットルの脳内では疲れが見える
私は1度立ち止まり、フゥ…… と、一息感覚を弱めた
そんな私の休憩すらも他人の家と呼べる宮殿は待ってくれない
遠くで足音が確かに聞こえたからだ
ヤバっ!
誰か来た!
この足音は聞いたことがある
体重と身長、その人ならではのリズム
コレはさっきのユユコさんのメロディーかな?
しかし他にもゾロゾロと数名の足音を聴覚が捉える
参った……
このタイプの足音は追跡のリズムだわ……
キョロキョロと辺りに目を配る私
てか、今…… ドコに居るかすら解らないんですけどぉぉ!!
そんな焦りもあった私は、一層近付いた足音で、つい……
直ぐ横に在った扉を開いて隠れてしまっていた
別段、隠れた事に対して安堵したわけでは無いが、追跡する彼女達の行き先から姿を消せた事だけは安心もする
そう……
安心だけは、した
追ってくる侍女達から逃げられたと思えた何かにだけの安心をだ
彼女達との《追いかけっこ》という、侍女からみればホームグラウンドと呼べる絶対的有利なフィールドであり、そんな戦場からは逃げたハズなのに……
入った部屋
ソコには、別の戦場が用意されていた
立ち昇る激しい業火
ガチャンガチャン鳴り響く鉄の音
滝の様に暴れ狂う水の中に同種の鉄が沈む
その鉄が一瞬で人の手に収まり、泡を纏って、その身を清める
その周りでも飛び交う怒号
無表情で振られる刃物が肉を裂く
場所によっては小型のハンマーで肉を叩き付ける
私の目の前を吹き飛び合う白い円盤……
ヤバイとこ入っちゃったよ、私……
解っちゃいたけど、こんなに凄いトコだったんだ……
《就職先》はもうチョットゆっくりした時の流れを感じたいな……
私の目の前に広がる光景
新たな戦場
ソレは……
宮殿の《キッチン》という戦場だった
突如キッチン内に響き渡る怒号
「コラ! アンタらダラッてんじゃないよ! スープはまだかい!? B班も遅ぇんだよ…… もっと肉ぅぅ準備しな!」
「はいッス!!」
「はいッス!!」
「元気だけ良くても美味い料理は出来無ぇんだよ! 魂だ! お前らの魂込めた1品じゃ無きゃノア様とムーン様に申し訳無ぇと思わないのかい!? アンタら魂込めてやんな!」
「はいッス! リンデロイ料理長!!」
ヤベーっす……
コレ、マジモンの戦場っす……
後退る私
ザリッと鳴った足元
その音に気付いたのか、《リンデロイ料理長と呼ばれた女性》の視線が私を貫いた
「あぁ!? なんだいアンタは? 見慣れない服だねぇ……」
そりゃ私はブレザーが無いだけの制服姿ですから……
って、ソレもマズい!
こんな殺気立った人達にそんな事言えない!
「なるほど…… アンタはメイド服を支給前の新入りだろ?」
「いえ…… わ、私は……」
「構わない構わない! 解ってる解ってる! そんなんで料理の腕前、測りはしないからさぁ!」
「いや、そうじゃ無くてですね……」
ていうか、私がエリカから注意された【言葉の2度使い】をリンデロイもしていた事に気付くが、勿論、そんな注意を彼女に言えるほどの勇気は無い
「解ってるって言ってんでしょうが! ダラダラしてないで早く持ち場付きな!」
「あ、あの……」
「んぁ!? ああ…… 新入りだから持ち場は無いか…… じゃあ私のサポートに入りな! 料理中の私にグズってると尻蹴り倒すぞ!?」
「は、はいぃぃぃ!!」
今までに無い捲し立てられる威圧感を受け、そんなつもりは無いのに了解してしまった私は、彼女の隣に走った
手元を見ると大きめのフライパンに、これまた大きめに切られた何かの肉塊がジュージュー音を立てて鎮座する
コレはステーキなの!?
「あの…… コレって何の料理なんですか…… リンデロイさん……」
「テメェ…… ココは厨房って戦場で、私は料理長って司令官だ! 名前で呼ぶな、料理長と言いな!」
「す、すみません!! 料理長、コレはステーキなのでしょうか!?」
「良し! そしてコレはステーキじゃ無い…… ビーフストロガノフだ!」
は?
肉をそのまま焼いてますけど……
私はママ達から女子力アップの為にと料理を習っている
だから、コレはビーフストロガノフじゃ無いでしょ
あの料理は……
まぁ、有り体に言えば、ビーフシチューの様な見た目
こんなゴロッと肉の丸焼きみたいな料理じゃ無いのは確かだ
き、聞き間違いだったのだろうか……
別メニューなのかな……
「り、料理長…… ビーフストロガノフなんですよね? ビーフスト《ガノロ》フとか…… 違う料理じゃ無くて……?」
「ビーフストロガノフって言ってるだろ! 《カラーズのナンバー2》みたいなお茶目なんざ、時間との勝負してる今は聞きたくないんだよ!」
「は、はいぃぃ! ビーフストロガノフですね、了解です!」
なんてプレッシャーだ
戦闘中よりも遙かに酷い心拍数を感じる
てか《カラーズのナンバー2》みたいな《お茶目》って……
リンリンさんって…… お茶目かドジかみたいなキャラだったのだろうか?
テキパキしてて、そんな雰囲気は無さそうだったんだけどな……
そんな事を考えた時だ
「新入り! ボサッとすんな!」
「はい! えっと…… 何すれば!?」
「ソコの包丁2丁、私に投げな!」
「はい!?」
チラリと目配せした彼女
ソコには《純白の包丁が2本》置いてある
「投げるって…… 人様に投げられる訳ないでしょ!」
「この厨房で私に歯向かうな! よこせ! 投げろ! 肉に火が通り過ぎちまうだろぅが!」
「無理無理!」
「ったく! 大丈夫だって言ってるのに…… この新入りはぁ……」
フライパンを振りながら、ぼやくリンデロイ
そのオーラが、突然変わった
「使えない新入りで悪かったねぇ…… 《コック》、《シェフ》…… 来な! サイッコーの料理を上様方に献上しようじゃないか♪ ヴァジュラ!」
リンデロイの両眼が白く変わる
この人も白眼使い!?
カタカタと揺れた包丁2丁
ソレが浮いて…… 飛ぶ!?
リンデロイに向かって一直線
その雰囲気を察した彼女は体を退いてフライパンを宙に放る
クルクル回るフライパンから溢れた肉塊に、ドスリと刺さった包丁2丁は縦横無尽に切り裂く
そして再びリンデロイの手にはフライパンの取っ手が収まるのと同時に、ブツ切りされた肉がボトボト乗っかった
な、なんて調理法なの……
空中でブツ切りするなんて……
というより、包丁達が自動的に飛んだ
純白の刀身
この子達も生きてるんだ……
「解ったろ、新入り! 私の包丁と《シェフ》は、ちゃんと作りたい料理を理解してくれてる超絶信頼してる私の相棒なのさ♪」
「す、凄いですね……」
レイジさんでも可能かも知れない
ただ、彼がミヤに向けて放った大剣インフェルノは、その向きを変えただけだったから、今回の件は驚いた
止まったままでも呼べるんだ……
てかさ?
自分で呼べるなら、私に頼まなくても良くない……?




