竜王稼業!
「自分、挑戦者です!どうかお願いします!」
俺が竜王のタイトルを手に入れた後、毎日、嘘みたいな人数が山になって押しかけてくるようになった。
これは前竜王からすると考えられないことらしい。
前竜王は既に死んだとお思いかもしれないが、実は初めに出てきた門番の竜と一緒にまだ生かしてある。
まあ、実際に一回殺したんだけど。
その二つの事象の理由。
一つ、前提的な理由として、前竜王は、本人も気にしていたが、あまり好かれていなかったとか。人間的に優れていないとかいうわけではない。
というのも、この世界ではタイトルは魔王を頂点とする、力比べの一つみたいなもんらしい。
タイトル持ちが周辺の支配者になるのだから、確かに平等な実力主義ではあるが。
つまりそいつのところに挑戦しにいって面白いかどうかがひとつの基準なのである。
前竜王は、実は統治者としては結構な評価をもらってたらしい。ただ、真面目すぎてダメ、というのが周辺の人間の評価。
いわゆる役人タイプなのかもしれない。
さすがに、町の祭りや宴に参加しないっていうのはいかんでしょって思う。
「我輩は酒が苦手なのだ。それと騒ぐのも苦手だ」
「そのへんは克服しないといけないよなぁ。酒はいいにしても......」
「しかしだな......」
「人の上に立つためにはな、たぶん他の人との交流を深めることが大切なんだ。わかる?この重み」
「はぁ......」
理由その二。
俺は正直、竜王稼業には飽きた。前任者は平気だっていうけど、ずっとほこらで暮らすとかほんと無理。ありえないから。
そういうわけで竜王たちを復活させたんだが、なんの解決にもならなかった。
元々いた王宮のデカイ風呂や、豪勢な食卓が懐かしい。この竜王は節制しすぎてる。政治家としては素晴らしい心がけに違いないが。
その三。実はこれが一番大きい。
竜王のほこらが賑わっているのは、主に俺のおかげじゃない。
「青い子は垢抜けないけど、アホかわいい!」
「銀髪の子は素っ気ない態度がクールかわいい!」
双子の女神はいつの間にかほこらのアイドルに祭り上げられ、中にはその姿を拝むためにやってくる者が現れる始末である。
「王子ぃ〜!なんかこの人たちやられて喜んでるんですけどぉ〜!」
「それはMだな、全く、どの世界に来てもいるものなんだなぁ......」
「あ〜ベリザーナちゃん、もっと睨んでくれ〜!」
「ちょっと!近寄ってこないで!」
もう、めちゃくちゃだ。
「魔王殿、師匠とお呼びしてもよろしいですか?」
「何だ?かまわんぞ」
バルバロスは腕磨きをしたい強者たちに人気で、弟子入りしたいと申し出るものが殺到している。彼は一人一人丁寧に断るのだが、その人気が衰える様子はない。
「それほどの強さはどこからくるのですか?」
「さぁ?アキヒサにもらった部分も大きいからな」
それで、俺はというと。誰も来ない玉座の間で一人ぽつんと待ち続けるだけ。
正直クソつまらない。第一誰もここまで辿りつかないのである。
竜王はその間に職務をこなせるのだから望ましいとか言うが、統治などまるで興味がわかない。
「ああ!もうやめだ!竜王なんてやめだぁー!!」