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ニャン太商会繁盛記!猫耳美少年兄弟、貞操逆転世界で成り上がる  作者: 黒猫丸


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24/24

■24 特級予知免許保持者

午前5時半。


86歳になる大蔵省夜智局の特級予知免許保持者、西院輪紹子せいいんりんしょうこは自室で久しぶりに目覚めの良い朝を迎えた。


『なんという軽やかな目覚めか。眠りもいつになく深かった。まるで若かった頃に戻ったかのようだ』


だが目覚めると同時に自分が横たわっている寝具に違和感も感じた。


老人特有の寝起きでぼやけた視界で天井や室内を見る限り、自宅の自室であることは間違いない。


だが妙に寝具の中が温かい。しかも何とも言えない良き香りがする。


嗅いだことのない香りだ。


麝香に少し似たような動物性の香りだが、香ではない。


『こんな素敵な香りもあったんだねえ』


不思議に思った西院輪紹子は起きてしばらくして目のぼやけがなくなったころ、自分の隣を向いて驚いた。


そこには見覚えのない猫耳の美少年が、自分と同じ寝具に入って安らかな顔で眠っていたからだ。



「これ、起きなされ。これ」


ぐっすり寝ていたニャン太は、誰かに体をゆすられて目が覚めた。


「あー・・・。もう朝ごはんか?でもちょっと早くないか?」


「・・・年寄りは朝が早いのさ。ところで坊は誰だい?こちらで朝餉を所望かの?」


「オレはニャン太だ。


・・・うん、朝ごはんは頼む。用意できたら起こして。


まだ眠いからもうちょっと寝る」


そう言ってニャン太は再び目を閉じて寝てしまった。


すうすうと安らかな寝息も立てている。


紹子は美少年がまた寝てしまったので、困ってしまった。


だがその後ろでは紹子の寝所に集結した警備の衛士たちは殺気立ちながら抜刀した鬼倒剣を構え、紹子の命令を待っていた。


衛士たちにとっては前代未聞である。


大蔵省夜智局の特級予知免許保持者、西院輪紹子の屋敷にいつの間にか不審者がいたのだ。


しかも警戒厳重な警備を搔い潜り、最奥ともいえる紹子の寝所にまで侵入を許している。


西院輪紹子から直に不審者の連絡を受けた小隊長は遅番と早朝番の衛士2名を連れて寝所に急行した。


紹子の無事を確認してホッと一息ついたが、不審者への怒りは収まらない。


だが相対したところ、肝心の不審者はなんとも美しい少年だった。


後ろで抜刀していた若い衛士が少年の顔を見て、「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。ネットで見知った顔だったからだ。


その美しい少年は3名の衛士に囲まれているにもかかわらず、目を覚まさない。


それどころかまるで孫が祖母の布団で甘えているかのように、幸せそうに寝ている。


小隊長はそれを見て闘気を抜かれてしまった。


『この子は西院輪様の御身内の方ではないのか?』と小隊長は考え、思わず紹子の方を見て目線で確認しようとしたが察した紹子は首を横に振った。


すでに幼少期から予知能力を発現していた紹子は10歳の時に大蔵省夜智局の所属となり、大和神国の一般女性が負う出産義務の対象外となっていた。


妊娠出産が予知能力に悪影響を及ぼすことや、必要な神託を受けられないことを憂慮されたからだ。


よって紹子には直系の家族はいない。


「とりあえず朝餉を。この子も分も合わせて2人前だ。・・・あたしと同じ食事でいいのかね?」


尋ねられた40代の側仕えは答えに窮した。


彼女もまた男性を知らず、この世代の少年が朝食に何を好むか知らなかったからだ。


「とりあえずこの子が起きたら、なぜここに来たのか聞いてみるよ」


紹子は改めて自分の寝具で寝ている少年を見てみた。


眼を閉じていても小生意気でヤンチャそうな気質が見て取れる顔つきだが、老齢の紹子をもってしても強く惹きつけられる男性的な魅力がある。


寝顔をいくら眺めても飽きない。


そして頭から生えている、猫のような三角の耳。たまにピクリと動いている。


最初は作り物かと思ったが、そっと撫でてみたところ柔らかく温かった。


血が通っている本物の猫耳である。


見れば人間と同じ耳も普通の位置にある。


『伝説の妖狐か半神のたぐいか?』


紹子や衛士の小隊長、そして側仕えの女性もニャン太を知らなかった。


衛士の小隊長はネットのトレンドに興味がないだけだったが、大蔵省夜智局の職員でもある側仕えの女性たちは紹子の業務の重要性からネットの個人利用は厳しく制限されていた。


紹子はこの美少年は神話などに類するような伝説的な存在ではないか?と考えた。


そもそも大和神国には大昔に妖狐がいて、人化して人と交わった事があると信憑性の高い資料に残っている。


中世朝廷の正式な記録にもわずか数行ではあるが、その記述がある。


だがこの数百年間、海外を含めて半妖や半神に関する公式の記録はない。


神託を受ける予知能力者である紹子自身にもこの少年の正体がまったく分からなかった。


そもそも神託では自分に関する情報は出たことがない。大和神国に関わることだけだ。


この少年は誰なのか?人間なのか、人外なのか?


いったいどのようにしてこの警戒厳重な屋敷に侵入したのか?


しかも眠りが浅く目覚めやすい自分を起こすことなく、どのようにして入室して同じ寝具に入ったのか?


謎は深まるばかりである。


しかも。


殺気立つ衛士に囲まれても、少年は平然と寝ていた。


規則正しい寝息が聞こえることからも、強がりではない。


この恐るべき侵入技術を持つ者が、状況の分からない馬鹿とは思えない。


『おそらくこの状況にも関わらず、自分にとっての脅威が存在しないと判断しているのだろうねえ。この子は』


紹子は以前、勝手に降りてきた神託を思い出した。


『驚天動地・・・その神託が意味するところは今だ不明だ。まさかこの子が・・・』


この少年が誰で、どのようにしてここに来たのか?については疑問だらけだが捨て置くことにした。


気になるのは何の目的でここに来たか?だ。


紹子の殺害が目的ではないことは明白だ。


そもそも男性の暗殺者というのも想像しがたいが、殺しが目的ならとっくに殺しているだろう。


大和神国に2人しかいない特級予知免許保持者には海外を含めて敵が多く、紹子も幼少時から数えきれないくらい狙われたことがある。


そのため警備も手厚かったが、ここまで肉薄されたのは初めての経験だ。


そして同じ布団で朝を迎えたことから、この少年の目的は何らかの交渉であると思われる。


『まあ良い。とりあえず話を聞いてからだ。


・・・それにしても、なんという美形か』


紹子は寝間着のままニャン太の枕元に正座し、しばらくその美しく魅力的な寝顔を眺めていた。


ほどなく2人分の朝食が寝所に運ばれてきたので、紹子は再びニャン太を起こした。


ニャン太は寝起きでちょっとぼんやりしていたが、床に準備された朝餉の卓をみて「ニャハハハハ~」と笑い出した。


「美味しそうなご飯だな。食べていいか?」


朝食は小さな焼き魚に焼き海苔、野菜の小鉢に香の物、大根の味噌汁に小ぶりな茶碗に盛られた白米だった。


ニャン太は「うまい、うまい」と言いながらすべてを平らげた。


「このような年寄り向けの朝餉で良かったのかの?」


「いや、十分に美味いぞ。それにニャン太は出してもらったご飯には文句を言わない主義だ」


「それは良いことだな。もてなす甲斐がある。


して坊は、何ゆえこちらにまかり来られた?」


「まあ待て。このご飯と味噌汁がうまいから、お代わりをくれ」


ニャン太はぬけぬけとそう伝え、結局2回お代わりしてようやく満足した。


「食後の甘味は無いのか?」


「あたしは朝は食べないね」


「それじゃあ仕方ないな。では話をしようか。


そもそもニャン太がここに来たのは、金儲けをするためだ」


紹子はいぶかしんで、片眉をあげた。


「金儲け?あたしみたいな年寄りには自由になる金はそんなにないよ」


「ばあちゃんに金出してもらうわけじゃない。


実はニャン太は会社作って従業員も雇ったから、いろいろ入用なんだよ。


そこで厄鬼ってやつをブッ殺して、出てきた死鬼核ってやつを売ろうと思ってるんだ。


厄鬼はブッ殺すしても誰も困らんのだろう?」


「そりゃそうだね」


「だけどあいつら、いつどこに出てくるかニャン太には分からん。


迷宮みたいに『ここなら無限に湧いてくる』って場所もないようだしさ。


だからばあちゃんに、退治しがいのある厄鬼がいつどこに出てくるか教えてもらおうと思ったんだ」


紹子はニャン太の発想のあまりの幼稚さと、侵入能力の隔絶した高さのギャップに頭がくらくらしてきた。


「ニャン太は待つのが嫌いだから、本当なら夜中にばあちゃんを叩き起こして聞きたかったんだ。


でも年寄りを無理矢理叩き起こしたら死んじゃうかもしれないだろう?


だから横で寝ながら朝まで待ってやったのだ」


どうだ感謝しろ、と言わんばかりの物言いに紹子は飽きれた。


そもそも紹子は特級予知免許保持者である。


大和神国に2人、全世界でも24名しかいない特殊能力者だ。


紹子の存在は国家機関により厳重に秘匿・警備され、政府高官ですら簡単に目通りすることは難しい。


その紹子に個人的に神託を依頼する際は、超強力なコネや莫大な費用、そして国家機関に対する膨大な手続きが必要となる。


なのに目の前の美少年はまるで明日の天気を聞くかのように、気軽に考えている。


紹子はあきれ、どう説明したら良いか言葉を探した。


すぐさま断ってこの不審者を追い出すことは簡単にできる。


しかし同衾した上に今まさに朝餉を共にしているこの無遠慮な美少年の事を、紹子は何故か気に入ってしまったのだ。


ちなみに紹子が男と同衾したのは86年の人生でこれが初めてだった。


できるなら何とか手伝ってやりたいと思うが、実は神託を受けることは紹子をはじめとするどの特級予知免許保持者にとっても容易ではない。


身を清めたり断食したりと精神統一の準備に数日は余裕でかかる。


しかも神々から受け取るイメージは現在過去未来が入り乱れており、精緻な解読には更に時間がかかる。


情報が複雑な場合は集中に集中を重ねても1週間以上かかることもざらだ。


神託を受けること・それを読み解くことは、熟練の紹子にとっても命を削るような作業なのだ。


そして紹子の寿命も残り少ない。


「・・・やってみるけどさ、神託はすぐには受け取れないよ?受け取っても、解読にすごく時間がかかる」


「え、そうなの!?」


ニャン太は「まじビックリ!」という顔をして固まった。


物知らぬ子供に諭すように「神託とは昼夜を徹した数日の苦行の果てに授けられるもの」「解読が必要で読み解くのに多くの時間がかかるもの」と紹子はニャン太に説明したのだが、ニャン太は納得しない。


「・・・ばあちゃん、とりあえず神託とやらを軽く1回試してみてよ。それを見てニャン太が決めるからさ」


「そんなに急には無理だろうけど、まずは朝餉を終えてからでもいいかい?」


「もちろんいいぞ。ニャン太はもう一度ごはんと味噌汁と、あと香の物をお代わりすることにしたから。これすごく美味しいよな!」


「うちの板長に伝えよくよ。美少年が誉めてくれたってね」


ニャハハハ~と声を出して明るく笑うニャン太の顔を見て、紹子は何とかしてやりたい気持ちになった。


『この後の予定を調整すれば、数日であれば何とかなるかもしれん』


しかし紹子の覚悟とは裏腹に、朝食を食べ終わったと同時に神託がまた勝手に下りてきた。


『おおお、またこのような・・・』


紹子の視界に緑のスパークが跳ね狂う。


今回受信したイメージは情報量が多く、とりわけ複雑だ。


場所や時間、そして厄鬼の脅威度などの情報がグチャグチャに入り組んで未整理のまま紹子の頭に無理やり入っている。


何がいつ起きるか整理するためには、少なくとも数週間は必要ではないか?と紹子は鋭い頭痛をこらえながら考えた。


だがニャン太の目論見はそうではなかった。


「おお、神託はすぐに降りたようだな。・・・あれ、なんだこれ?情報がグチャグチャじゃん。


ひょっとしてばあちゃんの沁統脈がアチコチ詰まってるから、こんなにもグチャグチャになってるのか?」


いきなり大量の情報を未整理のまま頭に詰め込まれた紹子は、後遺症ともいえる酷い頭痛に苦しみながらニャン太が自分の両手を取るのを見た。


「はーい、じゃあニャン太がこれから魔力を通すよ?ちょっとじっとしてな」


「うっ」


ニャン太が自分の両の手と手をつないだ途端、紹子は頭の中で「ドピュッ」という音が聞こえた気がした。


そして紹子を苦しめていた頭痛がいつの間にか消えていた。


「・・・あんた今、何をしたんだい?」


紹子は言葉を震わせながら、ニャン太に尋ねた。


頭痛が消えたどころか、先ほどまで未整理でグチャグチャだった神託の情報がキレイな表になって頭の中に入っていることに気づいたからだ。


表にはこれから発生する厄鬼の顕現場所、時間、数と脅威度が分かりやすく整理されて頭に浮かぶ。


紹子は厄鬼の脅威度別に並べてみようと思った。すると頭の中ですぐに並び替えができて自分でも驚いた。


「ばあちゃんの身体の中の魔力・・・こっちじゃ沁統脈か。それがちょっと詰まって乱れたり上手く流れてなかったからさ。


ニャン太が外から自分の沁統力ってやつを無理やり通して、全部キレイに流れるようにしただけだ。


うまくいって良かったよ。


たくさん詰まっているとニャン太じゃ治せないからさ。


それでイメージというか情報の整理もすぐにできただろう?」


「・・・そうかい、ありがとうよ。


そんなことが出来るなんて驚いたよ。もう何十年か早く会いたかったね。


神託を受けた後はいつも頭痛で苦しんでいたからね」


「もう大丈夫だよ。頭の痛いのが治ってよかったな。ニャハハハ~」


屈託なく笑うニャン太を見ていると、今までどんなに大変だったか語ろうとした紹子の暗い感情が自然と洗い流されていった。


先の神託にあった『驚天動地』。おそらくはこれもその一部なのだろう、と紹子は考えた。


「あたしの頭の中には、これから顕現する厄鬼どもの出現場所と時間、そして脅威度の一覧が入ってる。


甲型から乙型まで、暴種・呪種合わせて14体の顕現情報だ。


これがあんたが欲しかった情報なのかい?」


「そうだ。紙にでも書き写してニャン太にくれ。


ところでニャン太、お金持ってないから情報貰ってもお金払えないけどそれでもいいか?」


「いいさ。沁統脈の詰まりだっけ?それを治してくれただけで、あたしにとっては感謝感激さ。


本来なら8桁の金を貰うところだが、今回はタダにしといてやるよ」


「美味しい朝ごはんもご馳走してもらったしありがとうな、ばあちゃん」


「あんな感じの朝餉でよかったら、いつでも食べにおいで。


ウチは女所帯だからね。あんたみたいな可愛い男の子が来てくれるとウチの者も喜ぶからさ。


おお、情報の書き出しだったね。ちょっとお待ち。


すぐに書きだすから、お茶でも飲んで待ってな」


「ニャン太、甘いものもちょっと欲しいな」


「わかったよ。何か用意させる」


後で控えていた側仕えが、西院輪紹子に紙と筆記具を渡そうとして「ヒッ」と小さく悲鳴を上げた。


西院輪紹子の額に、小さな緑の炎がチラチラと揺らめきながら浮かんでいたからだ。





西院輪紹子は第1話で登場した予知能力者です。


大和神国の世界では特殊能力者も国が2級・1級・特級といった能力別に免許を発行して管理しています。


「免許を持っている人=国のお墨付き」という感じです。この特殊能力者の免許制度は国際的にも標準がされており、予知能力だけではなく他の特殊能力の免許保持者もいるはず・・・です。


あまり考えてなかったな(笑)。あ、鬼倒師も免許制ですね。

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