■23 幸せだが性欲がないニャン太
「ニャハハハ~」
ニャン太はご機嫌だった。大和神国での生活をとても気に入っていたからだ。
まず大和神国は食べ物がおいしい。
料理は珍しいものがたくさんあり、どれも旨い。ハズレがない。
季節の果物やおやつも美味しいものが数え切れなくくらいの種類があり、選ぶのに迷うほどだ。
甘いジュースも普通の店の棚に数多く並んでいる。
大和神国では商品開発と品種改良、そして物流がニャン太の元世界では考えられないほど進んでおり、その恩恵と誘惑をニャン太は楽しんでた。
特に大和神国の菓子類やスイーツは別格だった。
元世界でスイーツといえば、焼き砂糖菓子かリオンが作る蜂蜜焼きくらいしかなかった。
ニャン太はそれらが嫌いではなかったが、リオンの蜂蜜焼き以外はパサパサボソボソと食感が悪くて進んで食べる気にならなかった。
そして大和神国は人が優しい。
芹根春香は転移直後で文無しだったニャン太たちに無料でサンドイッチをご馳走してくれて寝る場所まで貸してくれた。
一部は心理魔法による誘導を使った結果だったが、これは善意を増幅する魔法のためそもそも善意がない相手には魔法が効かない。
こちらを殺そうと考えている盗賊を善人にすることはできないのだ。
サンドイッチ屋に来てくれる客たちも優しいし、ニャン太をチヤホヤしてくれる。
女たち皆がニャン太の事を大好きで、ニャン太にメロメロで崇めてくれているのはとても気分がいい。
元世界でニャン太は森獄を支配する十二魔龍の1柱で、元世界に住む人間たちからは畏怖されていた。
しかし立場的にはニャン太は十二魔龍の末席で、頭が上がらない姉龍たちが11柱もいた。
そして自由奔放なニャン太は事あるごとに姉龍たちから叱られ、怒られ、追いかけられ、罰を与えられて不貞腐れていた。
しかも十二魔龍は天魔と呼ばれる宿敵と、長年に渡り終わりの見えない戦争をしている。これにもウンザリしていた。
『魔龍と崇められても、元世界では何も得することはなかったな』とニャン太は考えている。
そしてニャン太は大和神国女性の民度の高さにも一目置いている。
こちらに来た頃は見慣れぬ男性というだけで騒がれたが、ネットで超有名になってからは逆に騒がれなくなったのだ。
『有名人でもプライベートは大事にしてあげよう』というルールが浸透しているかのように、ニャン太がたまに街を歩いても誰も近寄ってこない。
女性たちは遠くから見ていて、目が合うと軽く会釈される程度。
店でも店員が騒いだりサインを求めようとしない。
その絶妙な距離感もニャン太は気に入っていた。
ニャン太の好きな商売も順調だ。
いろいろ思いついたことがすぐに形になり、商売として動き出して簡単に金が稼げるからだ。
その陰には大和神国の豊かな産業インフラをはじめ、ビジネス関係者の極めて高い順法意識と木ノ下百合をはじめとしてデスマーチをこなしてくれる数多くの優秀なスタッフの存在がある。
元世界ではこうはいかない。
必要な材料は簡単にそろわず仕入れ先は突然の値上げをし、製造を頼んだ工房は勝手に商品を作って店員は関係者は当然のように着服や横流しをし、売れ始めたら貴族が横やりを入れてくる。
新しい商売を立ち上げるのに数年かかることなどザラで、気が長くないニャン太は手近で完結する小さな商売しかできなかった。
なおニャン太は金を稼ぐことは好きだったが、稼いだ金に執着することはなかった。
「大儲けできました!」とスタッフから報告を受けると、
「そうか、よくやった!ニャハハハ~」と大喜びするだけで、実際の金の管理は他人に任せていくら稼いだか数字を覚えていることもなかった。
ニャン太は金そのものを愛するのではなく、狙った通りに金を稼げた!という快感を愛していたからだ。
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普段のニャン太たちは春香がキッチンカーを出す月曜から土曜日までは遅くとも午後4時には帰ってきた。
春香が契約している露天の駐車場に車を停め、皆でぞろぞろ降りてくる。
時には学校帰りの小学生たちが集団で横を通ることもあるが、誰の注目も集めない。
ニャン太が強烈な認識阻害結界を張っているからだ。
実のところ、狂信的なリオンやニャン太のファンの中には「どうにかして美少年が暮らしている場所を突き止めたい」とストーキングしようとする輩は後を絶たない。
それどころか人権抑圧国家の誘拐部隊や、海外の犯罪系ミリオネアが雇った傭兵部隊もニャン太とリオンを常に狙っている。
しかし誰1人としてキッチンカーの追跡やニャン太たちが住む春香の自宅を突き止めることに成功していない。
バイクなどで追尾しようとしても皆を載せたキッチンカーが走り出すとすぐに見失ってしまい、自分が何をしていたか分からなくなる。
GPSやBLEがついた発振器もキッチンカーが走り出すとバラバラと地面に落ちたり機能を停止した。
春香の住所を知っている知人もいたが、「ニャン太やリオンに逢いたい」という意識がトリガーとなり認識阻害魔法が作動する。
春香のアパートを訪ねたつもりが、全く関係のないアパートに誘導されてしまう。
唯一、春香のアパートの隣の住民だけは認識阻害魔法の有効範囲外となっていた。
住んでいる場所があまりに近すぎたためだ。
右隣には20代の女性が一人で住んでおり、初めて会った時にはニャン太たちを見て目を丸くして驚いた。
だがその隣人にはニャン太がピンポイントで罪悪感を強化する誘導魔法をかけ、ニャン太たちが暮らしていることを口外できないようにしていた。
その結果、隣人は「隣で美少年が暮らしている」というありえない事実に毎日ドキドキしながらも、それを自分だけの幸運と考えて良き隣人であろうとした。
今ではたまに廊下であった時にニャン太たちにお菓子をくれたり、春香が作りすぎた総菜をもらってもらう程良い付き合いになっている。
ニャン太は春香のアパートでの暮らしも気に入っている。
猫的な気質なのか、狭い部屋が意外と落ち着くからだ。
特に春香がネット通販で買ってくれた寝具が気に入っている。
ナトリの通販で買った安めの「カバー付き寝具6点セット」だが、寝心地が良くいつまでも寝ることが出来た(たいていは夏輝に叩き起こされるが)。
それに春香は料理上手だった。
経済的に恵まれていない時期が長かったため、必然的に自宅調理が増えてレパートリーも増やした。
まだ夏輝が小さいためハンバーグやカレー、チャーハンや手作り餃子など子供メニューとそのバリエーションが多いが、ニャン太やリオンの舌に合った。
特にニャン太が好きなのはハンバーグで、チーズ入りハンバーグを初めて食べたときは味に感動して泣き出してしまい、春香を慌てさせた。
たまに皆で外食することもあった。
経済的に恵まれなかった春香が連れて行ってくれる店の多くは郊外にあり、車で来店することが前提のファミリーレストランやラーメン屋、焼肉屋などだった。
これは6人(たまに夏輝の友人親子も加わる)で予約もせずに行くためだったが、どの店も元世界の食堂と比べるとどの店も清潔で味が良く、前の客が残した食材も使いまわしておわらず衛生面でも信用できた。
食べる楽しみを演出していてくれているのもいい。
リオンやニャン太はお店の「きらびやかな」メニューや食品サンプルを見るのが大好きだった。
写真付きのメニューや本物そっくりの食品サンプルは元世界には絶対にないからだ。
チェーン店でも店内インテリアも過度なお金をかけないながらも工夫が凝らされており、割れたり欠けたりすることもなくまるで新品のようにキレイに洗われた食器に美しく盛り付けられて熱々のまま席に運ばれてくる。
ちなみにニャン太はその後、街中の個人経営の甘味屋やなどにも1人で出没するようになり、気に入った店には「ニャン太御用達」の色紙を書いて進呈し、店主やスタッフたちと写真を撮ったりした。
ニャン太御用達となった店はニャン太商会の「ニャン太グルメガイド」(のちにニャン太ポイントアプリに統合される)で公開された。
大和神国でもある某タイヤメーカーのグルメガイドは星の数でランクが表現されていたが、ニャン太グルメガイドでは肉球の数だった。
肉球の数はニャン太のオススメ度を表しており4つが「毎日行きたくなる」、3つが「家族と行きたくなる」、2つが「たまに贅沢したいときに行きたくなる」、1つが「行かないとと人生損してる」で、肉球の数がレベルを表していないことから当初は混乱があった。
しかし掲載されている店がいずれも高級店とはかけ離れてた気軽に行ける店だったため、「ニャン太様のお気に入りの店に行きたい」と熱心な「ニャン太巡礼者」が大勢押しかけて長蛇の列を作るようになった。
中にはこれを「金儲けのチャンス」と捉えた経営者もいたが、過度な値上げや抱き合わせメニュー、そして面影を残さない店内改装などを行った店は「ニャン太御用達」の認定をすぐに取り消され「ニャン太グルメガイド」からも削除された。
ニャン太御用達の認定は「ニャン太が当時食べて気に入った味・値段・店の雰囲気」を基準にしているからだ。
ニャン太グルメガイドは利権の巣窟となり、何とかしてここに掲載してもらおうとレストランなどの経営者は躍起になったが採用基準はすべてニャン太の気まぐれに左右されており予想が全くつかなかった。
客単価2万円以上の高級店が肉球を貰えないのに1串180円の小汚いホルモン焼き屋が肉球3つを貰ったりする。
ラフラカーンの転移魔法で帝州以外の大和神国各地に足を運ぶようになったニャン太は、各地でニャン太御用達を増やしていった。
その中には温泉旅館や民宿なども含まれており、ニャン太が引き起こした「ニャン太グルメブーム」は海外からの観光客も巻き込んで大和神国の経済活動をゆっくりと確実に押し上げていくことになる。
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ニャン太は自分がこの世界に転移してきた理由を考えたこともあった。
女性から男性へTSした理由はわかる。リオンだけでは男性の数が足りないからだ。
リオンは気持ちは優しいが、自分からガツガツ行くタイプではない。
難しいこと考えるのが嫌いで後先を考えない自分が男性化を果たしたのは、当然のように思えた。
男性となれば大和神国の女性相手に「子種」をまき散らし、出生率や男性出産率を向上させることを上位存在から期待されているとニャン太は考えている。
しかしリオンはそういうタイプではない。
血は繋がっていないものの姉と慕うレオナに淡い恋心を抱いているようには見えるが、元世界にいたときから明確は恋愛感情はないというのがニャン太の見立てだ。
それはこちらの世界に来てからも変わりがないように見える。
リオンには女性に対する明確な性欲もないのだろう。
「でもニャン太も今のところ性欲ないんだよねー」
もともと女性だったニャン太にとって、女性に欲情するということ自体がピンとこなかった。
よって今でも女性の裸体や下着姿を見ても、何とも思わない。
自分に生えた男性用の性器もまだ未発達な感じだった。精通もしていない。
「だからこそ猫を混ぜたのかもしれないな」
もともと「森獄十二龍」と呼ばれている一柱で、「炎赤龍」の名を冠している魔龍であったニャン太は異世界にそのまま転移させるには「魂の質量」が巨大すぎた。
そこで上位存在はディセリーヌの肉体から魔龍という最大の特質を抜き取り、転移できるよう保有魔力なども最小限にして作り変えてたのが「結果として男性化」につながったのでは?とニャン太は考察している。
ちなみにニャン太はもとから図太いため、女性から男性化したにも関わらず何のストレスも感じていない。
期間限定なのも理解しているため、「元の姿に戻れるなら、今のうちにこそ姿を楽しんでやろう」くらいしか考えていない。
ニャン太が性に未発達な状態で転移させられたのも、おそらく肉体も最小化されたためだ。
だが未成熟なままでは「2年から4年」という期限内に性的な成熟を迎えて子種をばら撒くことは難しい。
そこで猫を混ぜることで肉体の成熟スピードを速めたのではないか?とニャン太は上位存在の意図を想像している。
「まあ、なるようになるか。
ニャン太あまり深く考えるのは苦手だし、そもそも行き当たりばったりで出たこと勝負が得意だからな。ニャハハハ~」
また男性がこの世界では法律的に過大ともいえる「保護」を受ける立場であることもニャン太の活動に大きなプラスとして働いた。
例えばニャン太は夜の散歩中に眠たくなると、適当な家に入り込んでその家の子供(もちろん女児)と同じ布団で一緒に寝たり、成人女性の1人住まいの場合は女性の寝具に潜り込んで朝まで一緒に寝ることが度々あった。
このような行動は男女比が正常な世界であれば住居侵入をはじめとする様々な法律に違反することになるが、男女比が1:1200と極端に偏った世界では法律違反とはならない。
男性が危険を感じたときの緊急避難先として「悪意のない住居侵入」は法律的に認められているからだ。
朝になり隣で寝ているニャン太に気づいた市井の人々は「あたしはいつの間にニャン太様を誘拐したのだ!?」と、大抵がパニックになった。
しかしパニックが落ち着いたころ眠そうに起きてきたニャン太がその家の朝ごはんを食べる始めると、「あたしは一生の運を使い果たしたのかもしれない」と超絶な幸運を噛みしめた。
大和神国の一般女性にとって、男性と同衾するチャンスはほぼゼロだ。
しかもニャン太の様な美少年が自ら自分のベッドに潜り込んでくることなど空想物語でしかありえなかったからだ。
ましてや自分用の朝ごはん(それはたいてい質素なものだったが、ニャン太は出してもらったご飯に文句をつけることはなかった)を美少年が美味しそうに食べてくれることも想像の範囲外だ。
今や伝説となったSNSサービス「マウント」のスレッドがある。
それは「朝起きたらNYT様が同じ布団で寝てた」というタイトルで、ニャン太の「勝手にベッド訪問」を初めて投稿した実況スレッドだった。
スレ主が「どうしよう?」「どうしたらいい?」とパニックになりながら数十以上の相談投稿を繰り返したが、「嘘乙」の1件しかレスが付かなかった。
だが寝ぼけ眼ながらも3本ピースをしたニャン太が質素なローテーブルでコーンフレークをスプーンで食べている画像が投稿されると、たちまち伝説となった。
このニャン太の奇行は定期的に繰り返されたため、のちにニャン太専門の解説系チュチューバーとなった篠輪得観子が独自取材や検証を行い、「NYT様が潜り込むベッドの特徴」と題した動画にまとめた。
得観子の検証では「部屋がそれなりに片付いていること。シーツが洗い立てて、布団がちゃんと干してあること。室内や寝具に香水とかキツイ香りがしないこと。家主が生理中ではないこと。そして何よりもGEをした後ではないこと」と仮説を発表し、これは大和神国の女性に大反響を巻き起こした。
得観子は同じ動画で「あたしが言うことじゃないと思いますが、それでも一言言わせてください。NYT様、あんた一体何考えてこんなことしてるんっスか!」と苦言を呈した。
しかし検証動画を見た大和神国の女性の多くは「ニャン太様がいつ来てもいいように」と寝具をいつも清潔に保ち、部屋を片付けてGEの習慣も改めた(多くの女性はニャン太がいないこと確認して、朝にトイレでGEするようになった)。
これは後にネットで「大和神国の夜の大革命その1」と呼ばれるようになった。
今回はニャン太回です。
他の作品ではよく「XXX視点」みたいな回があるので真似してみようと思ったのですが、難しい~。
そこでニャン太視点というよりは、ニャン太にフォーカスした小さなエピソード(1本にするには薄いもの)を集めて構成してみました。
キャラクターと物語に厚みが出る!・・・といいな~。




