■15 営業の限界、美少年動画が初公開される
50話まで毎日午前7時に投稿予定です。よろしくお願いします!
芹根春香は困惑していた。
サンドイッチ屋の営業を終了し、4人を連れていったん自宅のアパートにホッとしたところで、「はい、今日の分」といってリオンが段ボールを持ってきた。
春香が恐る恐るふたを開けると、そこには何百枚ものお札が入っていた。しかも8割がたが1万円札だ。
「ひっ!?」
これはニャン太とリオンが客からもらった今日1日分のチップの現金だ。
2人もエプロンのポケットには入らなくなって、途中でこまめに段ボール箱に移していたらしい。
さらにラフラカーンが、同じように段ボールを持ってきた。
「本日のお昼寝見守り席の売り上げです」
こちらも現金だ。確か10分2千円(今日のダブルお昼寝は3千円)だったので千円札がほどんどだが、こちらも数百枚は確実にありそうだ。
レオナたちは話し合って、基本的に、キッチンカーを手伝った売り上げをすべて春香に渡すことにしている。
そもそも労働ビザを持っていないレオナたちが営業報酬を貰えるのか?という問題があったり、4人の食事や買い物を春香に頼っている現状があるからだ。
ニャン太はちょっと渋ったが、レオナが睨みを利かせると「春香ママが毎日おいしいお菓子とジュースを買ってくれるならいいよ」と言って従った。
「今日もいろいろあって疲れたねー。でもまだ夕方なんだ」
レオナはほう、とため息をついた。
今日はレオナは春香と一緒にキッチンカーの中で、ひたらすらサンドイッチづくりやドリンクの用意をしていた。
「春香さん、もう1回転は無理よね?」
春香はレオナの問いかけに、きょどりながら首肯した。
キッチンカーの積載量と乗員を考えると、1回に300食の仕入れが限界になる。
今日は午前中に300食を売り切ったあと、サービスセンターに再度300食を補給しに行って2回転させた。
だがさすがに午後は道路も混むので往復に時間がかかり、夏輝のお迎えや晩御飯準備も考えると3回転は厳しい。
そうなると、この2回転が売り上げの限界となる。
それでも本日一日で42万円を売り上げているが。
ただしニャン太とリオンを含めて、5人で42万円と考えるとやや心許ない。
「ママ―ただいま。お兄ちゃんたちもお仕事お疲れさま!」
夏輝が学校を終えて帰って来た。
普段なら学童保育に午後7時まで預かってもらっていたのだが、家に人が増えたので学童には寄らず直接帰るようになったのだ。
「あれ?ニャン太兄ちゃんは?」
「疲れて部屋で寝てるよ」
「そっかー。あたし、洗濯もの取り込むね」
レオナは昼寝ばかりしているニャン太のどこに疲れる要素があるのか?と一瞬腹を立てた。
リオンはニャン太が昼寝した後も、ずっと客にサンドイッチや飲み物をサーブしてツーショットを撮っていたからだ。
「でもまあ、確かにアイツはお昼寝でお金稼いでるんだよね」
お昼寝席は初日が78万円、今日は100万円近く稼いでいた。
しかし問題も多い。
今日は客の数が多すぎて順番をめぐってトラブルが頻発していたからだ。
売り切れを見越すタイミングにも問題があり、今日も並んで買えなかった客がリオンの無料握手やニャン太のハイタッチサービスを受けていた。
「ラフラカーンさん1人だけだと場内整理は無理っぽいなー。
春香ママ、この地域を仕切ってる顔役の人っている?」
「うーん、町内会長さんかな?
レオナさんが想像しているのとは、ちょっと違うかもしれないけど・・・」
「相談したいことがあるから、あとで紹介してください」
「はーい」
春香はレオナに軽く返事をして、帰ってきた娘・夏輝のためにおやつと飲み物を用意した。
夏輝はローテーブルでくつろいでいたリオンの膝の上に当然のように座り、ジュースを飲みながらランドセルからプリントを出して宿題を始めた。
「リオン兄ちゃん。夏輝ね、お勉強頑張ってるの」
「う、うん」
「このあとは、洗濯もの取り込んでママと一緒に晩御飯の用意もするんだ」
「ありがと」
「あたし、いいお嫁さんになるから大きくなったらお兄ちゃん結婚してね!?」
「えー」
ふんす、と鼻息荒く勉強を続ける夏輝にリオンが困ったように返事をしている。
なお夏輝のこの「結婚してね」は日に3・4回はリオンにだけアピールしていて、ニャン太にはなかった。
春香が「どうしてニャン太さんには『結婚してね』って言わないの?」と夏輝に聞いたところ、「ニャン太兄ちゃんは遊び人っぽいから、結婚とはちょっと違うかなーと思っている」という返事だった。
それを聞いてレオナは「夏輝は小さいのによく見てるなー」とビックリした。
宿題を終えた夏輝は、ベランダから干してあった洗濯物を取り込み、床の上で畳み始めた。
もちろん、ニャン太やリオンの下着も一緒だ。
6人分もあるので大量だが、夏輝はとても楽しそうにニャン太たちの下着を畳んでいた。
「なっちゃん、ママも手伝おうか?」
そういって春香がリオンの下着に手を伸ばそうとすると、夏輝は「シャーッツ」と怒った猫みたいな声で威嚇し、春香とレオナを驚かせた。
夏輝はリオンたちの下着を他の女に触らせたくないらしい。
「そうだ。レオナお姉ちゃん、リオンお兄ちゃん。
ママがお店の情報をツブヤイターで宣伝してるんだけど、そこにお兄ちゃんたちの写真や動画を投稿してもいい?」
しばらくして洗濯物を片付け終えた夏輝が、そんなことを言い始めた。
「お兄ちゃんたちの普段の写真とかアップすると、ママのお店の宣伝にもなるかな?と思って」
「う、うん」
「写真や動画出したら、ぜったいバズると思う!」
リオンは念のためレオナに目配せしたが、レオナはちょっと考えて頷いた。
「うん。・・・いいよ」
「夏輝がんばる!だからリオンお兄ちゃんの写真とか後で撮らせてね!」
夏輝の迫力に負けて、リオンは頷くしかなかった。
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レオナとリオンは春香に案内されて角谷通りにある理髪店を訪れた。
理髪店の経営者でかつ美並町1丁目の町内会長を務める50代の屋戸谷茂子は、リオンから菓子折りを受け取って驚いた。
「おやまあ!男性が特区じゃなくて、ウチの町内で暮らしてるのかい?」
レオナがうなずき、説明する。
「いろいろ事情がありまして、芹根春香さんのお家でお世話になっています。
それで芹根さんのサンドイッチ屋さんをお手伝いしてるのですが、お客さんがこちらの想定より大勢来ちゃって混雑整理とかで困っており、お知恵を拝借に来ました」
「聞いてるよ。武蔵国文寺公園でやってるんだよね?」
屋戸谷茂子はレオナのよどみない説明に感心し、好意を持った。
一緒に来た男性もちゃんと頭を下げていることに感心した。
「ふむ・・・その先を行ったところに阿賀沢ってのがいて、表向きは解体処理業者だが実態は古いタイプのヤクザだ。
あたしの小学校からの幼馴染で、親から家業を継いだのさ。
手下の教育はしっかりしてるし、本人も曲がったことが嫌いだから力になってくれると思う。
ただ仕事を頼むと金はとられると思うけど、それでもいいかい?」
レオナは頷いた。元世界で頼んでも同じようなことになるなーと思っていたので、どこも同じだなと思ってちょっとホッとした。
「じゃあ電話かけてみるよ。ちょっと静かにしておくれ。
・・・屋戸谷だけど、阿賀沢はいるかい?・・・よかった。
じゃあ今から若いのを行かせるから、話を聞いてやってくれって伝えておくれ。それじゃあね」
電話を切った屋戸谷茂子は、春香にスマホを見せてこれから向かう先の地図情報を転送してくれた。
「この街で男性が楽しく暮らしてくれるのは、町内会としては大賛成さ。
この先、こちらからモノを頼むことがあるかもしれないから、その時はよろしく頼むね」
そう言って茂子は老練さを感じさせる笑顔で、レオナたちを送り出した。
阿賀沢実業でも、話は簡単にまとまった。
リオンが社長である阿賀沢晴子に挨拶すると、事務所にいた強面の社員たちはいずれも惚けたような顔つきになり、『リオン効果はすごいなー』とレオナは感心した。
阿賀沢晴子は屋戸谷茂子と同じく50代前後か。
背筋がピンと張り、貫禄のある女性だった。
「人を出すことはできる。
場内整理の腕章を付けさせて、とりあえず5人出せばいいかい?」
「はい、とりあえずはそれで。お客さんの人数が増えるようでしたら、増員はまた相談させてください」
「公園には何時に入ればいい?あと何時までいればいい?」
「開店は10時ですが、お客さんが早く来ることを考えて9時からお願いします。あと4時には解散する予定です」
「いま見積もりを出すよ。
それにしてもあの公園にそんなに人が集まるとはねえ。
ウチは的屋もやってるんだけど、そんなに人が来るんだったら、ウチも店を出していいかい?」
レオナは春香に念のため確認を取ったが、春香は強面が睨みを利かせる事務所内の雰囲気に押されたのかコクコクと頷くばかりだった。
「いいですよ」
「ありがたい。じゃあ帰るときの公園の清掃はこっちでやるよ。
的屋は2~3日準備にかかるけど、人は明日から出すのでいいんだね?」
「それでお願いします」
金額は1人1日8万円+税だった(だいぶ安くしてもらっていると後から知った)。
レオナは納得して春香は少し驚いたが、チップやお昼寝見守り席の売り上げを考えると、なんとかなるかも?と考え、春香を説得して契約してもらうことにした。
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レオナたちが春香の家に帰ると、ニャン太はすでに目覚めていてローテーブルで白い紙に筆と墨で何か模様を書いていた。
「なにやってるの?」
「これか。今日見たこちらの魔術師の使うアイテムが面白かったのでな。ニャン太も同じようなアイテムが作れないか、試しているのだ」
春香がニャン太の手元を見ると、夏輝が学校で使っている書道の道具だ。
ずいぶんと手慣れた様子で筆を使い、半紙に複雑な模様を書いている。
「それで皆でどこに行ってたのだ?」
「お客さんが多すぎてトラブルになってるから、整理してくれる人を探してきたの。
明日から5人来てもらうんだけど、その人たちがキッチンカーの近くで自分たちの屋台を出したいんだって。いいでしょ?」
レオナがニャン太に聞くと、ニャン太は書き物を続けながら鷹揚に頷いた。
「こっちの世界で言うテキヤってやつか?構わんぞ。
ニャン太は晩御飯食べたら、外出してこのアイテムを売りに行ってくる。
帰りはそう遅くはならんと思うが、戸締りして先に寝ててくれ」
ちなみに晩御飯はオムライスだった。
春香は買い込んだ食材の関係で子供用のご飯が続いたのを詫びたが、ニャン太もリオンもうまいうまいと言いながら食べた。
そしてその様子を夏輝が春香からもらったお古のスマホで動画撮影した。
「ニャン太兄ちゃん~食べてるところを動画にとってもいいですか?」
「おう、いいぞ。ああ指を3本出すんだっけ?
いまニャン太は春香ママが作ってくれたオムライスを食べている。すごく美味しいぞ。ニャハハハ~」
容量の関係で長い時間は撮影できなかったが、夏輝は「良い絵」が撮れたと思った。
春香がサンドイッチ屋の案内に使っているツブヤイターのIDとパスワードは知っているので、あとで試しにアップロードしてみるつもりだった。
『お客さんにアピールできた方がいいもんね!』
夏輝がニャン太やリオンの動画をインターネットにアップする主な目的は、もちろん母親である春香のお店の応援だった。
しかしここにきて「せっかくキレイなお兄ちゃんが2人もできたんだから自慢したいよね!」という不純な動機も少し混ざってきた。
夏輝は他に、洗い物を手伝ってくれるリオンの映像も許可を得て撮った。
そして2本の動画を寝る前にツブヤイターにアップした。
ちなみにこの時代、男性のプライベートな写真や映像がTVやインターネットに流れることは、まずない。
政府所属の男性がタレントや役者としてマスメディアに登場することはあったが、あくまで奉仕活動の一環であり義務的な出演に過ぎなかった。
出演者は奉仕希望の素人男性からランダムに選ばれるため外見的な魅力に乏しく、プロフェッショナルな意識にも欠けており演技もイマイチだった。
しかしそれでも女性たちは歓迎していた。
なぜならばそれが生きている男性を目に出来る唯一の機会だから。
だがニャン太たちがこの世界に転移してきて、潮目が変わった。
許可を得たツーショット画像だけではあるが、1日に何百枚と美少年たちの画像がネットに公開され始めたのだ。
聡いネットユーザーはこれに飛びつき、新しい画像がアップされてないか?とリロードしまくりツブヤイターやマウントのサーバー負荷を押しあげた。
そこにこの夏輝が投稿した動画である。
ツブヤイターのサーバーは動画公開から15分後にダウンした。
ニャン太たちがこの世界でのお金に興味がないのは、「稼いでも使う場所がない」というのが大きいです。
国籍がないためスマホも契約できず、生活必需品は春香ママにネット経由で買ってもらってます。
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