■13 人類存続省男性保護局その2
50話まで毎日午前7時に投稿予定です。よろしくお願いします!
「まあ、待て」
男性保護局の嵩本がC.A.Rシステムでリボルバーを素手で立ちはだかったラフラカーンにサイティングし、佐護が腰のホルスターに手をかけようとしたとき、一紙即発の緊張感の中にニャン太が割って入ってきた。もう1人の男性も伴って。
「男性保護局の方々、お勤めごくろうさまです。
でもニャン太たち、この国の人間じゃないんだよね」
「「えっ?」」
「それにパスポートも持ってない。
長い間どこか知らない場所で捕まってて、悪い奴らから逃げて逃げてやっと自由になれたんだ。
大和神国はいい国みたいだから、できたらこの国に住みたいな~と思ってる。ニャハハハ~」
マズいことになった、と佐護は思った。
男性保護局が動けるのは、あくまで大和神国に国籍がある男性が対象だ。
国際法上は、外国人旅行者の男性を本人の同意なく保護することはできない。国際法で禁じられている。
これはかつてとある強権国家が、男性保護を建前に他国からの旅行者を拉致・誘拐した事件が多発したからだ。
それにパスポートがない亡命希望者となると、管轄が法務省になる。
ただ男性の亡命は非常にデリケートな問題だ。
かつてとある人権抑制国家が他国の男性を拉致して「我が国への亡命者だ」と偽った事件が頻発したことがあった。
亡命の立証は自由な状態での男性本人の意思確認と、その後の男性および家族の自由の保証が必須である。
男性には亡命申請の取り下げまで国際法上で認められている。
そして亡命意思の確認など事務作業は外務省の管轄になる。
佐護は嵩本と顔を見合わせた。
もしニャン太の申請通り、無国籍者の大和神国への亡命となると男性保護局の保護官が現場で判断できる問題ではなくなる。
「それにニャン太たちは好きでここで働いているんだ。
女たちにチヤホヤされると気分がいいからな。ニャハハハ~。
リオンも好きで働いているんだろう?」
うん、とニャン太に肩を組まれた男の子が首肯した。
また痛いところを突いてきたな、と佐護は思った。
国際条約で「男性の自由意思は、法令に違反しない限り最優先に尊重される」と規定されている。
これは大和神国にいる外国人男性についても適用される。
なぜなら過去に精力旺盛な外国人男性の帰国を阻もうとして、とある人権抑圧国家が難癖をつけて妨害してきた事例があったからだ。
目の前のニャン太とリオンが自由意思でサンドイッチ屋で働いていると本人に主張されると、それを止める権限は佐護たちにはない。
労働ビザなど外国人の就業的な問題もあるが、無国籍者の大和神国への亡命者が緊急避難的に労働を行って対価を得ているとしたら、これを禁止するのは男性保護の理念に反する。
ここに至り佐護は目の前の男性を保護する根拠が不確かであることを知った。
嵩本に目配せしてハンドサインを出すと、嵩本もリボルバーをショルダーホルスターに収めた。
嵩本は戦闘だけでなく過去の判例にも造詣が深い。
その嵩本が戦闘態勢を解いたことで、佐護は腹を括った。
「保護の根拠がないことは理解しました。
お2人の処遇については、管轄部署から連絡が入ると思います。
ご連絡先を教えていただければ我々は退きます」
「よかろう。でもニャン太、スマホ持っていないんだよね。お~い、春香ママ!」
ニャン太がキッチンカーに向かって声をかけると、中で女がビックリして固まっていた。
ポカンと口を開けてこちらを見ている。
急すぎる展開に理解が追い付いていないようだ。
見かねた佐護がキッチンカーに出向き、対面スペース越しに保護官の名刺を差し出した。
春香はオタオタしながらも受け取り、自分のスマホ電話番号を教えてくれた。
その不慣れな様子に、佐護が当初予想していた「未成年の男性2人を奴隷のように働かせる極悪人」という人物像は修正を余儀なくされた。
どう見ても男性に不慣れな、一般的な大和女性に見えたからだ。
しかし同時に「なぜこのような普通の女性が男性2人をアゴで働かせることができる?」と疑問に感じた。
「それじゃあ、男性保護局の方々はいったん解散かな?お疲れさまでした~」
春香と佐護のやり取りを見届けたニャン太がニャハハハ~と笑いながら口上を述べると、後ろに控えていた鬼倒師・白根史埜が前に出た。
「お待ちください!
この世界には、未だ男性を弱体化させる名玲十六年の呪いが強く残っています。
お2人にはそれを防ぐための簡易結界を張ることをおススメいたします」
「・・・呪い?すんすん、ひょっとしてコレのことかな?
こんなのニャン太たちには効かないぞ。
でもまあ、心配ならまずリオンに試してくれるか?
あ、お金はかからないよな?」
「は、はい。無料ですが・・・
ではまず、リオン様に簡易結界を張らせていただきます。
効果は3日程度ですが、リオン様の沁統力と結界の霊力との相性が悪いと、ちゃんと張れない場合があるのでご了承ください」
白根が懐から霊札を出すと、ニャン太が興味を示した。
白根が手に持つ霊札をじろじろ眺め始めた。
「へーこれ、魔力と術式をセットにして小さな紙に移して使うのか。
魔力回路の平面化か。面白い使い方だな」
ニャン太が白根が持つ結界型霊札に顔を近づけ、描かれた「陣」をジロジロ見ている。
そしてペタンと猫耳を下げた。
「簡単すぎる魔力回路だなー。
あんまり効果がなさそうだが、これ1枚いくらするの?」
「ええっと、支給品なので私にはわかりませんが、一般的には簡易結界の霊札は10万円ほどで売られているようです」
「ほう、これが10万円か!」
悪い顔でニヤニヤし始めたニャン太にはもう構わず、白根は小さな霊札をリオンの額に近づけた。
「このお札を、軽くおでこに当てます。痛みなどはないですから、ちょっとだけじっとしてくださいね」
破魔型(攻撃型)の霊札は霊力で飛ばして燃やして使うが、結界型は対象者の身に着け、その魔力を守る対象として登録し起動する必要があるからだ。
「・・・えっ?」
だが白根が近づけた簡易結界の霊札はリオンの額に近づけたとたん、青白い霊炎を出してあっという間に燃え尽きてしまった。
それはまるで高位の妖魔に対して位負けする低位の結界型霊札を使った時のように。
実際にはリオンとレオナにはこの地に転移したときからニャン太が超高密度かつ超硬度の対呪結界を隠微モードで張っていた。
追加の結界が反発して拒絶反応で自壊したのだが、簡易結界しか知らない白根にはそれを見抜くことができなかった。
「おねえちゃん、僕大丈夫みたい。ありがと」
リオンがはにかみながら白根に礼を言ったが、耳には届いていなかった。
「えっ? えっ? えっ?」
あまりの出来事に目を真ん丸にしてフリーズしたままの白根を引き連れ、佐護と嵩本は立ち去った。
その後ろ姿を見送り、ニャン太はまたひらりとキッチンカーの屋根に飛び乗った。
「ニャハハハハ~。みんな~ニャン太もリオンも大丈夫だよ~。
開店できたらまた知らせるぞぉ。もう少し待ってくれ~」
ニャン太がキッチンカーの屋根でガッツポーズをすると、
「「「「「キャアアアアア~」」」」」
ニャン太の宣言は、男性保護局の介入をハラハラしながら見守っていた客たちに熱狂的に迎えられた。
鬼倒師は陰陽師に近い存在で、厄鬼の呪種と霊札と霊力で戦う存在です。
厄鬼には呪いを振り撒く目には見えない呪種と、物理攻撃を行うバケモノ形態の暴種がいて、暴種は兵士である衛士が討伐します。
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