■12 人類存続省男性保護局その1
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人類存続省男性保護局の副局長である沢多愛理は深夜の会議室で苦り切り、眉間の皴を深くしていた。
男性保護局の局長は代議士が務めるため、副局長が実質事務方のトップである。
沢多の眉間に皴を刻ませているのは、とある男性2名。
この男性たちに関する出生情報が男性保護局に存在しないからだ。
ただの男性ではない。
SNSのトレンドランキングをこの数日間総ナメしており、世間一般の注目が非常に高い。
しかもあろうことか男性保護局の保護下ではなく、市井の公園でサンドイッチ売りをさせられているという。
あり得ないことだ。
沢多は男性擁護強硬派の議員10人以上から「男性保護局は何をやっているのか?」と激しい誹りを受けている。
たぶん自分も逆の立場なら、同じように思うだろう。
そしてその対応に副局長自らが深夜まで対応させられている。
ここ数日、深夜残業を強いている男性保護局のスタッフから、報告が次々と上がってくる。
「再確認しましたが、年齢10歳から18歳までの男性6158人は、全員所在確認が取れております。
また顔写真も確認しましたが、該当する人物は含まれておりませんでした」
「外務省を通じて該当年齢の来和中・永住許可を取った外国人未成年男性も調べました。
対象者は14名で、こちらも全員所在確認が取れております」
残る可能性は難民申請中の外国人男性だが、担当である法務省は手が遅い。
8時間前に依頼したのにまだ回答どころか回答見込み時間の返答すらない。
電子化が遅れているらしいので仕方がないかもしれないが、こちらの胃に穴が開くまでに何とかしてもらいたいところだ。
「失礼します」
別の部下が報告を持ってきた。
「調査したところ、43年前にある大名家が男性を隠し子として養育していた事例がありました。
ただし8歳の時点で名玲十六年の呪いの影響が大きくなり健康状態が悪化。
以降は当局に保護を求めております。その後は隠し子事例は報告されておりません」
当然だろう。
男性保護局が男性を特区に囲っているのは、討伐省陰陽局が国家予算で運営する強力な呪的結界があるからだ。
名玲十六年の呪いは今だ解呪できていない。それどころか強大化する一方だ。
呪いを直接受けると男性は肉体的・精神的に蝕まれて健康被害を起こし、最悪の場合は死に至る。
携帯用の簡易結界もあるが適合者の割合は少なく、効果も永続的ではない。
昔は男児を手放したくない大名家が金に飽かせて自前の簡易結界を用意したこともあるらしいが、陰陽局謹製より数段落ちると聞いている。
大名家とはいえ個人の財力で、名玲十六年の呪いを防御できる結界を10年以上も維持できるわけがない。
ちなみに討伐省陰陽局の特区結界の年間予算額は76億円だ。
「失礼します」
別の部下が報告を持ってきた。
「死亡者を調査しました。
生きていれば年齢10歳から18歳になったはずの男性故人112名が対象です。
幼少の顔写真しか残っておりませんでしたが、AI分析を行ったところ一致したものはおりませんでした」
これで死亡届を出した男性が実は生きていた、という線も消えた。
もっとも生きていて隠し子としても自前の結界が用意できなければ早晩こちらに保護を求めて泣きついてくるだろう。
外国人の線も弱い。
SNSによると、男性2人はしっかりした大和言葉で会話していたという。
猫の耳としっぽが生えているという情報があるが、これは偽装だろう。
時間はかかったが、明日の朝一番で男性擁護強硬派の議員たちに「男性保護局は悪くありません。ちゃんと仕事をしております」と説明できるだけの資料を用意できそうだ。
「それにしても・・・」
沢多は自分のタブレットで、SNSからダウンロードしてきた男性2名の画像をもう一度眺めた。
「・・・副局長?」
部下に呼ばれて、ハッと気が付く。ちょっとだけ見るつもりが、20分近くたっていた。
慌てて取り繕うが、タブレットの画面には美少年の画像が大写しになっており言い訳ができない。
「お2人ともお若く美しく健康そう。
SNSでの評判を見ても優しく人格的にもとても好ましい。
健康被害を防ぐためにも、一刻も早くウチで保護し、特区にお連れする必要があるわね」
「はい、件の移動キッチンカーは明日も同じように武蔵国文寺公園に出店する予定のようです。
朝一で佐護と嵩本の2名に加え、念のため陰陽局から簡易結界を張れる鬼倒師を派遣していただき、確保に向かいます」
「その2名は大丈夫なの?」
「はい、いずれも20代ですが1級免許の保持者です。対人格闘の経験も豊富で、荒事に向いております」
「なら大丈夫そうね」
災い転じて福となす。
棚から牡丹餅。
現状では男性保護局の管理下にはないが、これだけ美しく世間の耳目を集める男性だ。
この2人の男性を保護できれば、自分の大きな功績となるだろう。
政界に打って出る際にも、大きなアドバンテージになりそうだ。
お2人から献精していただけるようになれば、大名家や財閥が「タネ」の優先権を求めてこぞって自分に陳情してくるだろう。
いずれにせよ、この男性2人は自分に強大な利権と権力をもたらしてくれそうだ。
自分の幸せな未来を想像して、沢多は独り微笑んだ。
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次の朝、男性保護局の保護官である佐護琴音と嵩本治美は装備を点検して出発の準備を整えた。
現場である公園には数百名の女性たちがいることが予想される。
群衆パニックを警戒した佐護と嵩本は、銃器の使用申請を出して受理されている。電気ショック機能を持った特殊警棒も装備済みだ。
2人は男性保護局の専用車に乗り、途中で鬼倒師である白根史埜をピックアップして武蔵国文寺公園に向かった。
白根は21歳。まだ若いが陰陽局で未成年のころから10年以上の研鑽を積み、若手の中ではエース級とされている。
今日は男性保護局への便宜と、白根の経験となると陰陽局が判断して佐護たちに同行させている。
服装は、佐護と嵩本が上下黒のパンツスーツ、白シャツに青ネクタイという保護官の制服に対して、白根は神職の浄衣を着ている。
佐護がタブレットで画像を表示し、白根に見せる。
「電話でもお伝えしましたが、本日はこの2名の男性の保護が目的です。
武蔵国文寺公園の移動式キッチンカーで、サンドイッチ売りの手伝いをさせられている、とのことです。
現地では先に我々が突入して男性の確保を行います。その後、白根師にお2人に簡易結界の付与をお願いします」
「適性がないと、簡易結界は張れませんよ。その場合はこちらの判断で中断します」
「理解しております。よろしくお願いします」
車内でのブリーフィングはそれで終わった。
今回のような野良男性の保護は経験がないが、男性保護という観点ではタスクとしてはありふれたものだ。
佐護と嵩本はこの数年ペアを組んで仕事をしている。
先週は埼多間市に派遣した男性から「奉仕活動先で契約にない行為を強制されている」とSOSを受け、保護に向かって無事に確保した。先月だけで6件の似たような事例の実績がある
男性の奉仕活動は、献精期間が終わった男性の義務とされている。
特区外の法人や自治体の求めに応じて、数日間の軽作業に従事するのが男性の奉仕活動だ。
人類存続省男性保護局のアレンジにって派遣されるが、作業員として期待されているわけではない。
男性奉仕活動の目的は男性と接する機会がほぼない地方在住の成人女性のガス抜きと、女性の義務の一つである青紙通知(人工授精による出産命令)の効率化である。
よって主な活動は現地での法人や自治体の女性に対する「ふれあい」となる。
しかしトラブルも多発する。
もともと地方土着で歴史の長い私企業ではコンプライアンス意識が低いことが度々あり、特に一族で経営を固めているところは独裁王のように振舞う傾向がある。
せっかく奉仕活動に来た男性を男娼扱いすることもしばしばあった。
奉仕に向かう男性には通常、女性警備員が最低2名も付いているがトラブルが発生すると多勢に無勢で数負けすることがある。
そのような男性に対する虐待事例が発生した場合、必要であれば武力によって男性を救済・保護するのが、男性保護局の男性保護官だ。
男性保護官は逮捕・捜索・差押え・質問・武器の使用といった男性保護に必要な執行権や逮捕状なしの緊急逮捕権を持つなど、個人として非常に強い権限を持っている。
そのうえ、1対多の対人戦・対群衆戦のエキスパートでもある。
「男性保護法に違反すれば社名や個人名も公表されるというのに、何を考えているんでしょうね」
「それだけ、長年押さえつけていた男性への憧れが強いでしょう」
インシデントを発生させた違反企業や個人は刑法的・社会的に罰せられるが、それは男性保護官の仕事ではなく警察の仕事となる。
今回の場合も男性を不法に働かせた疑いがある芹根春香の確保は、警察の仕事となる。
すでに地元警察とは連携を取っており、男性の保護後に芹根春香は逮捕されるはずだ。
罪状は「男性権利侵害罪」「男性監禁罪」の現行犯といったところか。
佐護たちを乗せた車はほどなく武蔵国文寺公園に到着した。
佐護は運転手に指示し、車内の目に見える場所に路駐の許可証を提示して公園入口の近くに車を停めさせた。
公園入口はすでに女性客でごった返していた。
ネットの情報によると、昨日はオープン前に300人弱が並んでいたらしいが、今日はもっと多いだろう。
人が多すぎて、キッチンカーがもう到着しているかどうかわからない。
しかし列を作っている様子もないことから、まだなのだろう。
佐護も嵩本も自分たちの制服ともいえる上下黒のパンツスーツに白シャツ青ネクタイが、一般人にどのような印象を与えるかよく知っていた。
だから悪目立ちしないよう、しばらく車内で待機することにした。
時計が9時半を指したころ、武蔵国文寺公園から大きな歓声が聞こえてきた。キッチンカーが到着したらしい。
「佐護さん。容疑を確定させるため、男性が接客している状況まで待った方がいいですか?」
2歳年下の嵩本が確認してきた。何事にも慎重な姿勢は好ましい。
待ったとしても30分程度だろう。
しかしこの数日間、男性2人が名玲十六年の呪いに晒されているとなると時間的猶予は少ない。
「制服代わりのTシャツやエプロンを身に着けていると判断した時点で、作業従事と断定できます。
また接客まで待たなくても開店準備を手伝っているなら、それが『作業を強制させられている』と解釈しても良いでしょう。
今から5分後に突入します。白根師も同行をお願いします」
嵩本と白根が頷く。そして車内は静かになった。
そして5分後、まず佐護が車外に出て、2人が続いた。
3人が足早に公園へと近づくと、入り口近くにいた客の数名が自分たちの服装から所属を判断したのか、驚いたような顔をした。
佐護は歩調を緩めず、キッチンカーへと向かう。
キッチンカーでは降りてきた男性を含む数人が、車のパネルを開いて対面スペースを開けたりテントを引っ張り出して簡易屋根を作ったりして開店準備を進めていた。
目的の男性2名は折り畳みのテーブルを2人で開いている。
ニャン太と呼ばれる対象男性が、楽しそうに「ニャハハハ」と笑っている。
そろいのTシャツとエプロンを身に着けている。条件は満たした、と佐護は判断した。
「失礼。男性保護局から参りました、佐護と嵩本と申します」
2人はジャケットの内ポケットから、リンク付きの身分証明書を男性2名に規定通り3秒間提示してまた内ポケットへと戻す。
「こちらで男性が不法に作業に従事させられていると聞き、保護しに参りました」
佐護たちの背後で客たちの長い絶叫が聞こえる。我慢して直立不動を保っているが、とてもうるさい。
男性2名は両手で耳をふさぎながら、顔をしかめている。
ニャン太は猫耳を伏せて、人間の耳に当たる部分を手で塞いでいる。
ドン!
嵩本がショルダーホルスターから抜き放ったスナブノーズのリボルバーを空に向かって発砲した。
観客が鎮まる。
そして男性2名の前に、いつの間にか背の高い女が立ちはだかっていた。
『男性の護衛か?・・・厄介だな。かなりできそうだ』
佐護と嵩本は立ちはだかるラフラカーンを前にして、無意識に一歩後ずさった。
ラフラカーンは素手で無表情に立っているだけだが、プレッシャーがとてつもないのだ。
佐護と嵩本はお互いをちらっと見て認識を共有した。
『前言撤回。こいつを崩すには嵩本と2人で全力を出す必要がある。
できれば銃は使用したくないが・・・いや、銃も当たる気がせん』
横で嵩本が両手でリボルバーを斜めに構え、顔の前に引き込むようにしてサイティングした。
C.A.Rシステムと呼ばれる、銃を相手に取られることを想定した近接戦闘のスタイル。
嵩本も本気だ。
ヒリヒリと肌が焦げ付くような緊張感が漂い始めた。
とうとう登場しました、男性保護官。ようやく貞操逆転系らしくなってきました。
定番のキャラ(役職)だけに、表現とオリジナリティに気を使いました。
この作品では四六時中男性を見守るガードウーマンというより、トラブルになった時に男性救出に向かう武装勢力として表現しています(当初は?)。
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