希望の燈火は今や此方に
闇の中、三人のちいさな生き物たちが歩を進めていた。
三人とも疲労困憊で、表情に疲れが浮かんでいた。
「おももー、夜に着いちゃったんだよ」
「でかでかおもー、ヴェートの夜は暗くてきらいなんだね」
誰もが寝静まる夜。二人は宿を探すのも難しいと辟易していた。
「しゅとの方行く?それなら少しは、明るそうだけど」
「そんな体力残っていないんだね。疲れちゃったんだよ」
「こおもー、ちょうちょだー」
「それはチョウじゃなく蛾なんだね。小おもはちょっとあっち向いてるんだよ」
中くらいのおもが小さなおもを持ち上げて、回転させる。
彼女はおもたちを見失ったのか、こおもー?と不思議そうな声を出していた。
「……しょうがないから、誰かの家に入り込むんだね」
「おもー、大丈夫ー?」
「私たちが入ってきていやがる人はあんまりいないから大丈夫なんだよ」
「でももう寝ているかもしれないよー?」
「おもー、へなへなー」
二人がそうして考え疲れているときのことだった。
ドン、ドンドン。
向こうの方から、太鼓の音が聞えてきた気がした。
「……こんな夜に楽器のれんしゅうなんて、へんな人もいるもんなんだね」
「でも、それなら泊めてもらえるかもー」
「確かにー!」
そうして三人は、音の聞こえてきた方に歩を進めた。
……そして近づくにつれて、笛の音や歌までもが聞えてきた。
「こんな星のない夜に、よくやるねー」
「ねー。……って、あれ?」
おもたちは気が付いた。ヤシやシダといった亜熱帯性の植物が繁茂している隙間から、光が漏れ出ていることに。
「これはいったい、何かな」
そうしてすぽんと、草木の間から彼女たちは顔を覗かせる。葉のちくちくする感触に、少し嫌な気分になりながらも……、
次の瞬間、おもたちはぽーっとした表情を浮かべていた。
そして思わず、呟いていた。
「灯ってるんだよ」
「ヴェートに火が、灯ってるんだよ」
魔石の光に照らされ、楽し気に歌い踊る人々。中心には普通の、普通の食事が置かれていて。
笑う子供たち。満足げな大人たち。
ひと月前、ヴェートの人々は二つの大国に果敢に挑んだ。
そしてヴェートはある二人組の協力で、見事二大国を打ち破って見せた。
大国を本格的に回すのはマズいからとバートルらを殺さずに国に送り返したように、未だヴェートは小国の一角に過ぎないのだろうが、それでも魔石田は得ることが出来た。
今日では魔石の輸出はヴェートの産業の根幹を担う巨大事業となっている。
……ふとおもたちは、後ろから誰かに抱きかかえられた。
「久しいな、おもたちよ」
「おもも~?……ハインなんだね、あれ、腕、」
「片腕が無いのは気にするな。名誉の負傷だ」
彼女は満足気であったから、おもはこれに関しては何も聞かないことにした。
代わりに賑やかな広場を見て、
「ところでこれどうしたの?」
「これとは?」
「ヴェートってこんなんだっけ?」
少女は笑った。
「英雄と、そして勇気ある仲間に助けられてな」
「英雄?」
「ああ、英雄だ」
「ヴェートに炎を齎した、二人の英雄」
ハインのその憑き物が落ちた年相応の表情を見て、おもは理解した。
ああ、ようやく。
……虐げられていた人たちは、確かにその手に淡く輝く希望を手に入れたのだと。
第三章、闇照らす希望の燈火編、――完――




