閑話 ヨシュア
「……裏切ったか」
「まあラルクという男は一種の狂人だ。別に何らおかしなことではないが」
「――それはともかく、これはおかしな状況になったものだ」
青髪の少女、アストラフィア・グローリーソードは眉を酷く曲げながら、長閑な農村の入り口にいた。
「なぜ貴君がここにいる?教師、……たしかヨシュアといったか」
目の前には、ピンク色の髪をツインテールにした肩ほどの身長の少女が。
彼女はふふんと笑うと、指先を彼女に向けた。
「私が約束を破ることはないわ」
「……」
「おっと、詳しく話す気はないわよ。どうせアンタには分かるでしょうし。……グローリー王国現国王、アストラフィア・グローリーソード」
数年前から隠居状態ではあったが、先代王アラエストル・グローリーソードは数日前に崩御した。
アストラフィアは王になって数日、父の国葬に出ることもなくこの寒村を訪れていた。
「相変わらずアンタは現場に出てくるわよねー。王になったのに、暇なのかしら」
「自分の運命くらいには、責任を持たねばならんからな」
「ああ、アルマの親友の家族を傷つけるのだから、せめて自分の手を汚そうってこと?悪人のくせに、変に生真面目ね」
「……」
「ところで、何でまだ攻撃してこないのかしら?せっかく囲んでいるのに」
アストラフィアの護衛の騎士団――人数で言えば、20人程度だろうか――が、一斉に彼女の周りを取り囲んでいた。
「殺せば楽でしょうに」
「無駄に殺しはしない。貴君は王命に反する人間であり、この国にとっての禍となるやもしれんが、」
「しれんが?」
「……さりとて無益なわけでもない。河川の氾濫も湿地帯を作り農業を活発化させる。福も厄も全てを利用する度量が王には必要だ」
「ふぅん」
その言葉の裏からは、ある意図も読み取れた。……役に立たないのなら、降参しないのなら殺すという意図も。
されどヨシュアはつまらなそうにあたりを一瞥して、すぐにアストラフィアに向き直る。
「私が言えた事じゃないのは分かっているけれど、誰も彼も、命を軽んじ過ぎなのよね」
「……?」
「人が苦しんでいいはずも、死んでいいはずもないというのに」
ばさりと、ヨシュアが立ち上がった。
そしてゆっくりと、アストラフィアを下から見下ろした。
「やっぱり、どうしても傲慢な王様だけは好きになれないわ」
「……ふむ、回りくどい言い方はするなよ。勘違いを招くかもしれん」
「アンタが勘違いするわけないでしょ」
「そうか」
「では死ね」
刹那、無数の剣閃がヨシュアを襲った。
ヨシュアはラルクが今までに見てきた中で、最も優れた人徳を持った少女である。
ゆえにヨシュアは、傲慢なる王の手先によって殺されたのだった。




