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ロード・オブ・エリクシル  作者: ナムル
第一章 旅路の始まり
17/71

アルマの本気

 アルマの右手に握られているのは、冴えわたるような金色をした、料理包丁ほどの大きさの小剣。

 アストラフィアはそれを一瞥して、


「……錬金には時間がかかるものと思っていたが」

「高度な錬金ではないからな。偽神剣、頑丈なだけで何の変哲もない剣だ」

「高度でない。そのような武器で、私たちに勝てると?」

「王位争奪戦とは状況が違う。お前を殺せば国から追われることとなる以上、殺しはできない。なら武器が強かろうと弱かろうと変わらんさ」

「……侮りおって」


 彼女が苛立ったように彼を睨みつける。


「近衛騎士団には私に劣らぬ実力者もいる。私を含めた10人を相手にして、貴様一人で何ができるというのだ」

「逆に聞かせてもらおう」


「その程度の戦力で、何ができる?」

「抜かせ!やれ、我が騎士たちよ!」


 彼女の号令と共に、コンビネーションを組んで騎士たちが襲い掛かってきた。

 先頭に来るは、3人の若き騎士たち。他の7人は魔法などでサポートに回るようだ。


「天剣流が二人に、無敵流が一人か。まあ前衛としては妥当だな」


 彼が呑気にそんなことを呟いている間に、二人は剣を振るう。

 目の前に二本の剣が迫る。どちらも洗練された、高速の剣だ。


 ……だが、


「遅い」


 アルマは剣を振り上げ、二人の剣を同時に切り上げる。瞬間、キィンと高い音がして剣が弾かれた。


「なっ!?リーブス、防御に回れ」

「はっ!!」


 二人の隙を埋めるように、小盾を持った大男が二人の騎士とアルマの間に入るが、


「脆い」


 アルマの裏拳が間髪入れずに繰り出される。小盾を粉砕して大男が何メートルも宙を舞う。

 異次元の膂力。

 わずか3秒の間に、三人が武器を失った。


「貴君、あの騎士見習いと戦っていたとき、全然本気では、」

「全力の、まあ半分といったところか?」

「……化け物め」


 武器を作ったとしても、最初から持っておくのと変わりはない。さらに錬金は、通常の魔法より発動に時間がかかる。それゆえ普通なら、錬金術師は戦闘に不向きであった。


「さあ、どうする?」


 ただ彼は強かった。

 膨大な魔力量。極めて高い技量。 


 盾を持った男は今ので腕が砕けたのか後ろで呻いている。残り9人。

 じんわりと、アストラフィアの額に汗が浮かぶ。


「我が騎士たちよ、あやつを包囲せよ」

「させるとでも?」


 次はアルマから仕掛けた。彼はまず手始めに、片手に剣を持った男を狙う。

 

「させるか!!」


 両脇から騎士たちが彼を援護するが、地面から生えてきた土の壁に妨害される。


「一瞬でこの規模の錬金を!?いや、あらかじめか」

 

 アルマの突きが繰り出される。

 近衛騎士団の副団長たる彼は、なんとかその突きを剣で上に弾く。


 しかし片手を掴まれて、そのまま背負い投げをされる。


「ぐっ、ばか、な、」


 彼は背中から地面に叩きつけられて、その衝撃で気を失った。また一瞬で一人が無力化された。

 大剣使いが土の壁ごとアルマに攻撃を繰り出すが、あっさりとバックステップで躱されてしまう。

 残り八人。


「あと持って、1分といったところか」

「……おのれ、」

「ところでだ」


 アルマは王都の方に目をやりながら、質問した。


「なぜ王国騎士団を連れてこなかった?」

「……」

「俺は確かに強い。確かに強いが、流石に王国騎士団長ほど強くはない。そも近衛騎士団はあくまで王の護衛。戦力としては心もとないはずだ」

「…………それは、この戦力で貴君に勝てると判断したからだ」


 その言葉に、アルマは違和感を覚えた。


「ほう、それは」

「そして今も、貴君には勝てると思っている」

「!?」


 嫌な予感がして、さらにアルマが下がる。瞬間、アルマの靴の先端が宙を舞った。

 鮮血とともに、水が地面を濡らす。


「超高圧の、水か」

「錬金術師、流石に知っているか」

「……だが、魔法の発動など、」


 感じ取れなかったぞ、とアルマは訝しむ。

 魔法の発動に詠唱を全く必要としない者がいるのは理解しているが、それでもアルマならば魔力の流れで発動のタイミングは分かる。


 ……そこで彼は王女が右手で握っている、青い宝石のはめ込まれた蓮をあしらった杖を見た。


「国宝、廻輪の宝杖(ロータス・ジェズル)……」

「ふむ、これまで知っているとは博識だな」

「……なぜそれを、いや、愚問か」

「ああ。私は最後に残った王の子だぞ?」


 廻輪の宝杖。

 杖は錬金ガマと同様に魔法の発動を容易にしたり、またその威力を上げたりと様々な効果を持っているが、錬金ガマと違いそれらの効能は一つの原理によって齎されるものである。


 杖の根本的な職能、すなわち魔力のロスの低減。

 そして国宝にして杖の完成形たるこの杖は、魔力のロスを完全な0にする。


 アルマたち超級の魔法使いたちは、魔法の発動直前にロスとして体外に放出される魔力を認識して魔法の発動を感知するが、そのロスが無ければ実際に魔法が発動されるまで発動に気づくことはできない。


 当然、ロスが無ければ魔法の威力も格段に上がる。

 

 アルマは厄介そうに眉根をまげた。


「さて、」


 ゆっくりと、騎士たちが距離を詰めてくる。


「まだ、勝てると思っているのか?」

「……」

「くく、どうやら余裕はもうないようだな」


 数が多くともアストラフィアたちの中に、脅威となる実力者がいなかったためにアルマは余裕を持っていた。だがしかし、こうなれば話は変わってくる。

 

 常に王女に気を取られ、他への対応は甘くなるだろう。

 またふとした隙に、魔法を叩き込まれれば窮地に陥るだろう。


「……まあ、確かに厄介だ」

「だろう?」

「ここから先はリスクがあるな」

「はっ?」


 その瞬間、アルマは騎士の一人を盾にするように、彼の懐に潜り込んだ。


「ぐっ、しまった」

  

 大きな背中に阻まれ、アルマへの射線が消える。

 

「だがその男は、近衛騎士団長だぞ!」


 ひときわ豪華な鎧に身を包んだ騎士。手に持っているのは神話金属オリハルコンの剣。

 近衛騎士団の中で彼だけは、アストラフィアを超える実力を持っていた。


 剣が袈裟切りに振るわれる。

 アルマはそれを、屈んで躱す。


 しかし次の瞬間、剣が軌道を変えた。


「体を剣に当てて軌道を変更する技、曲刺殺か。それは知っている」


 アルマはその剣の側面に裏拳を当てて上に弾き飛ばした。まるで彼の未来を読んでいたかのような、的確な動きで。

 だが騎士団長はそれにもすぐ対応して、剣を持たないまま盾で殴りかかった。


「天剣流の技に、無敵流の技か。多彩だな」


 彼の規格外の膂力を以てすれば、両手で使うことを前提とした天剣流の技を片手で扱うことができる。天剣流の攻撃力と無敵流の防御力を持つ彼は、攻守両方において完璧な実力を持っていた。


 そのまま盾がアルマの顔に触れて……、


 そして彼を殴り飛ばすより先に、盾が塵となった。金色の魔石と、緑の鉱石が地面に落ちる。


「錬金術師相手に、錬金で作った武具は使うなと習わなかったか?」

「しまっ」


 ボグゥと、重い音が響く。

 そして騎士団長が、前のめりに倒れた。


「水月(人体急所)に入った。あと七人」

「だが、」

「当たらんよ」


 肉壁がなくなると同時、飛んできた水のレーザーを彼は首を傾けて避ける。

 

「……完全にタイミングを読まれていたか」

「ああ。そして今の戦いで分かっただろう?」

「……」

「その国宝、俺ならば触ればバラバラにできる。超高度な錬金で作られた代物ゆえ、魔石や素材の取り出しまでは出来ないが、跡形もなく壊すことならば容易だ」


 アストラフィアは苦々しげに表情を歪める。

 本当に国宝とまで呼ばれたこの杖を分解できるのか、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、この杖が壊される可能性は否定できなかった。


 王国広しと言えど11つしか認定されていない、グローリー王国国宝。それが壊されることの意味を、彼女はよく理解していた。


「そも、戦力的にも危ういはずだぞ?俺が今まで倒したのは3人。だがその3人のうちには、騎士団長および副団長がいた。……そろそろ退いたらどうだ?」

「……」


 アストラフィアは、気絶した三人の騎士たちをちらりと見る。

 しばらくは三人とも、起き上がって来そうになかった。



「……いったいどれほどまでに鍛えれば、人間はこの域まで達するのだろうな。貴君は格闘、剣技、魔法、錬金術、すべてにおいて超一流の実力を持っておる」


 王女はそこでため息を吐いて、杖を近衛騎士の一人に預けた。


「……まさか、負けるとはな」

「おや、ああは言ったがもう諦めるのか?」

「これ以上大切な騎士に()()はさせられん。ただでさえ今は、大変な時なのだからな」

「……?」


 それはどういうことなのかと彼が聞こうとして……、手で制された。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はっ!!」

「……なんだ?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その言葉にアルマが困惑する。

 今意識のある騎士たち、の代表らしき男も躊躇った。


「……それは、」

「返事は?」

「っつ、はっ!!」


 しかしアストラフィアの凄絶たる声に、彼は思わず叫ぶように頷いてしまう。 

 それをアルマは、理解できないといった風に見ていた。


「お前は何を、しようとしている?」

「なに、私は正々堂々が好きでな」


 彼女は凄絶な笑みを張り付かせて、


「私を殺して見せろ。されば貴君らを追うものはいなくなるぞ」

「!!?」


 その言葉にアルマが驚愕する。すかさず、アストラフィアが彼の眼の前に躍り出た。

 振るわれる剣に、思わずアルマは受け太刀する。


「ぐっ、何がしたい!そもお前の拙い剣で、俺に勝てるはずが」

「ないな。だから貴君はここで私を殺せばいい」

「そんなことをしたら、俺どころか俺と関わったすべての人間まで巻き沿いになるだろう!」

「私が言ったのだ。私の殺害を許すと。これは尋常な決闘であるからな」


 アルマは彼女の剣を受け止めながら、ちらりと騎士たちに目をやる。


 彼らは微動だに、本当にたったの1ミリも動くことなく決闘を見届けていた。

 主君の発言に疑問や、反対があるのは表情から見て取れる。


 ただその上で決闘という二文字は、彼ら騎士にとってなにより重い物であった。

 それこそ実益や命ごときでは天秤にかけることもできないほど。


「よそ見をするとは余裕だな。しかし分かっただろう、この決闘は正式なものであると」


 ここでアルマは、本当に王女が何を考えているのか分からなくなった。ただ一つ分かるのは、ここで彼女を殺せばアルマの目的はひとまず達成されるということである。


「ならばお前を殺して終わりだ!」

「くくっ、そうするがよい」


 しかし鍔迫り合いになってなお、お互いの力は拮抗していた。

 信じられないことに、あのアルマがアストラフィアを押しきれない。


 たまに彼女の方に剣が倒れていくが、そのたびに体勢が持ち直される。


 蒼の長髪を指で梳きながら、彼女は彼を見つめている。


「まだ朝というのに暑い。昨日の夜が曇っていたからか?」

「ぐっ、」

「貴君は汗も流さないのだな」


 異様な光景だった。片手の王女が、アルマ相手に拮抗している。腕力で言えば、状況が逆だったとしてもまだ彼の方が上だろうに。


 その時アルマは気が付いた。アストラフィアは彼を殺すのを諦めたのではない。

 ーー爛々と光る青の瞳が、妖しく彼を見つめていた。


「騎士が誰一人として死なない時点でおかしいとは思った。一撃でレブス騎士団長を気絶させたのを見るに、最初の切り合いの時点であの二人を殺すことも容易だったはずだ」

「……それは、腕を折っておけば十分と判断したから、」

「くくっ、貴君は阿呆ではない。どうせこの戦い、決闘になるまでは国家反逆者として勝っても負けても指名手配されることは確実だったのだ。殺せるならば、殺しておいた方が楽なことぐらい分かろう。私がかつてしたように」


 もはや彼女は、剣を草むらに捨てていた。黄金の小剣が彼女の首に当たるが、気にも留めない。むしろ少しずつ前に進んでいくが、そのたびにアルマが後退する。


「そういえば王位争奪戦の時、何人もの我が派閥の者が戦闘不能になったにも関わらず、再起不能になったり、死亡したりするものは一人とていなかったな」

「……」

「人を殺したことがないのだろう?」


 アルマは黙った。そしてそれは、何よりも雄弁に真実を語っていた。


「貴君はおそらく、善人というものなのだ。態度、言動、そういった無数の仮面のせいで分からなかったが、たった今確信した。責任だのなんだの言っても、それは自らの弱点を隠すための仮面に過ぎない。結局貴君は誰一人として、他の人間を犠牲にすることはできない」

「……」

「ところで、王都でただ一人、貴君のために大会で戦っている男がいたな」

「……いったい、何を」


 彼女が何を言おうとしているのか、理解しながらも彼はそんな言葉を絞り出した。

 それに彼女は美しく冷徹に、神話のような微笑みを浮かべて、



「決闘は終わりだ。貴君が私に降参しないのなら、あのラルクという男を凄惨な拷問の後処刑する。かつて私が、兄上たちにしたようにな」

 

 ……。その言葉を聞いた時、一瞬頭が真白になった。

 そして少し後に、怒りが爆発した。


「きさまっ!!」

「私はこう見えて、徹底的な人間でな」

 

 アストラフィアは、既に青くなった空を見上げながら語る。


「私の王権は絶対でなくてはならない。そして永遠のものでなくてはならない」

「だからといえ、」

「私は知力も力も勢力も為政者としての才能でさえも、兄上に勝っていたのだ。となれば兄上側に着く人間には、なんらかの非合理で突き動かされている」


「……なあ、分かるか?」


「正しく扱い、正しく褒賞を出し、そして一寸したスパイスとして恐怖があれば人は私に付いてくる。それが合理的だからだ。だが貴君らは、操るには非合理が過ぎる」


 アルマは知っている。第一王子側に付いた自分以外の人間が、みな処刑されたことを。


「……人の死が、スパイスだと?」

「ああ。幾千万の民を思えば、たかが1000人に何の価値がある?貴君も立場としては、そちら側だろう」

「……それは、なんだ、その、」

「くくっ、貴君は面白いな。あれだけ多くの人を助ける責任がなんだの言っておいて、その実人間を集合として見るのではなく、すべての人間を一個の人間として扱っている。―――騎士たちよ、以降私がこやつに害されようものならば、ラルクの一族郎党を皆殺しにせよ」


 そう彼女は磊落に笑って、彼を青の瞳で睨めつけた。


「さあ、選ぶといい。貴君が降るか、あの少年が惨たらしく死ぬか」


 仮面の表情は変わらない。ただ呻くような息が、苦悶の表情を浮かべていた。


 責任と、そして。




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