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ロード・オブ・エリクシル  作者: ナムル
第一章 旅路の始まり
14/71

大会前日

 いよいよ明後日に武闘大会を控えたラルク。ラルクはヨシュアとおもたちの5人で集まっていた。


「しっかし、アンタのテスト採点終わったわよ」

「え、どうなりました?赤点ライン越えられましたかね」

「おも~、ラルクならきっと行けるんだよ」

「2点」

「えっ」

「おもっ!?」

「全教科合計2点だったわ」

「わあっ!」


 即座にラルクはヨシュアを病院送りにして留年・退学関連を有耶無耶にしようと襲い掛かった。


 ぽこぽこぽこぽこぽこっ!


「う、ぐっ、」

「ざぁーこ♡アンタが私に勝てるわけないでしょ♡……まあアンタは勝てる相手には襲い掛からないから、分かっててやったんだろうけど」


 そのままヨシュアはボコボコにされて倒れているラルクの背中の上に座った。


「しっかし、結局アンタ勉強しなかったわね」

「おも~、全きょうか2点はしたしないの話じゃないんだよ!ただのばかなんだよ!」

「騙されるんじゃないわよ、コイツは頭自体はそれほどスカスカでもないわ。やんなかっただけよ」

「だってー、忙しかったんですもん」

「アンタ去年もそう言ってボランティアに行ってたわよね!?」


 ヨシュアに叱られ、わ~と情けない声を上げながら、ラルクがぱたぱた暴れている。

 すると彼女はため息を吐いて、こんなことを言った。


「……まあいいわ、どうせアンタは退学にできないし」


 意外な言葉。ラルクは首を傾げた。


「えっ、なんでですか」

「アンタはレイシアのお気に入りだからね。そもそもこの学園には、退学にしちゃいけない奴ってのが10%くらいいるのよ」

「わっ、権力最高ですねー」

「言っておくけれど、明日補習には出てもらうわよ。流石にこの点で何もなしにはできないわ」

「分かりました」


 補習面倒くさいなあ、大会前日に補習かあと思いながらも、とりあえずは首の皮一枚つながったことに安堵するラルク。

 とりあえず今日で戦闘関連の最終調整をして、明日は体を休ませることにした。



 そして次の日、補習終了後。


「あははっ、そんなわけで、明日頑張ってきます」

「頑張りなさいよ、私も見てるからね。まっ、どうせざこラルクは一回戦敗退でしょうけど♡」

「おもー、これあげる」

「ん?」


 ラルクがおもたちを見おろすと、中くらいのおもが黄色い小さな花を差し出してきていた。


「明日はヨシュアに貰った食べ放題に行くから見にいけない。代わりにタンポポあげるんだよ」

「わっ、ありがとう。……なぜ蒲公英?」

「タンポポの花言葉が、「幸せ」だからじゃないかしら?……戦いに出向く男に渡す物がそれとは、まあ頭ぽわぽわのおもらしいけれど」

「花言葉ってなんなんだよ?」


 大おもが不思議そうな顔をする。


「花言葉なんて俺も聞いたことがありませんし、おもが知っているわけないですよ」

「言い方はしゃくだけれど、その通りなんだね。私たちの知っている中でいちばんつよい人の好きな花がタンポポだったから、お守りとしてあげただけなんだよ」

「……。……?…………ふうん、ゲン担ぎってことね」

「ありがとう、おも」

「おも~」


 ふりっふりっふりっふりーとお尻を振って踊るおもたちの姿に、ラルクは少し安堵を覚えた。

 その表情に気づいたヨシュアは、少しだけ笑みを浮かべた。


「アンタは、いろんな奴らから祝福されているのね」

「ありがたい限りです」

「――勝ちなさい」


 ヨシュアの表情は矢庭に冷然となった。


「望まれようと機会を与えられようと、敗北すれば何も得られない。祈れども神などいはしない。アンタはアンタ自身の力で試練を乗り越えなければならない」

「……」

「最後に命運を分けるのは、正義などではなく力よ」


 それは社会教師として見てきた、様々な時代の様々な人間たちの現実である。

 

「分かっています」


 人は人を殺す。ラルクの父は、罪ともいえぬ罪で貴族に処刑された


「だから俺は、この道を選んだんだ」


 。 





「……さて、」


 ラルクは明日の大会を前にして、アルマが泊っている宿の前に来ていた。


「……なんとか、説得しないとな」


 頭の中で話すべきことをまとめる。話しておかないといけないことは、

 

 ①自分が既に優勝できる実力を持っていること。

 ②学園三傑たちが出場できないようにすることは、発覚した際のリスクが大きい事。

 

 の二つだろうか。

 結局、本気のアルマに攻撃を当てることは叶わなかった。


 受付に話を入れて、宿の階段を上がっていく。

 緊張する。


 アルマとしては、学園三傑に出場させない方が都合がいいだろう。なんとか話を聞かせるところまで持ち込まなくてはならない。


 部屋の前に立つと、彼はドアをノックすることもなく勢い良く開けた。


「アルマ!相談があ、る……」

「む?」


 威勢良くドアを開けたはいいものの、ラルクの声が次第に勢いを失っていく。


「どうした?」


 アルマはすぐ目の前の机に座って、魔石を手に取っていた。

 おそらくは錬金の練習か、あるいは仕事でもしているのだろう。


 ただラルクにとっては、そんなことはどうでもよかった。

 

「アルマ、お前、」

「?」

「その手……、」


 そこにはアルマの右手の人差し指が、ちぎれた状態で無造作に置かれていた。

 

「ああ、これか。魔力が暴走してな」

「暴走って、今すぐ治さなきゃ、」

「後からでもくっつく。それにこの程度の怪我、いつものことだ」


 あまりにも痛々しいその手を見て、ラルクは顔を顰めていた。

 しかしアルマは気にすることなく、話を続けている。


「……なあ、アルマ」

「何だ?」

「なあ、アンタは何のために高級な錬金ガマが欲しいんだ?」


 それを聞くとアルマは鬱陶し気に、手で払うような動作をして、


「どうでもいいだろう、そんなこと。下らない話をしている暇があったら、」

「いいや、どうでもよくはない。ここまで来れば俺らは一蓮托生だ」

「……」

「責任。とやらのためなんだろうけど、しっかり話してもらわないと協力する気が起きない」


 尤もこうは言っているが、彼はアルマの目的について、だいたいの目星をつけていた。

 アルマは面倒くさそうに、天を少し見上げた後、


「俺の姉が死んだ。だからその蘇生に必要な薬……、万能の霊薬『エリクシル』を作るために錬金ガマが必要なのだ」


 ずいぶんあっさりと、彼はそれを言った。

 今までの態度からするに、もう少し言い渋るとラルクは思っていたから意外だった。


「お姉さんが亡くなったって、なんで?」

「胸をおそらく剣で切られ、俺が家に帰ってきた時には、冷たくなっていた。誰かに襲われたのだろうが……、」

「……そうか」


 姉を蘇らせたい。その願いは切で、ラルクにも容易に理解できた。


「大変だったな。家族と別れるのがどれほど辛いか、アンタが来るまで妹が死にそうだったから分かる」

「……何か、勘違いをしているようだが」

「えっ?」


 勘違いと言われて、アルマが目を丸くする。いったいどんな勘違いがあるのかと、彼は思って、


「姉さんは一流の錬金術師だ。そして彼女がいれば、大勢の人間が救われることとなる」

「……?」

「そして姉さんを救えるのは、俺の知る限りでは俺を除いていない。換言すると、この責任を果たせるのは俺だけということだ」

「……もしかして、」

「ああ、そのもしかしてだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 彼が姉から教わった、より多くの人を救うという責任。

 ラルクはこのとき、驚愕に目を大きく見開いていた。


「……すごいな、」

「考え方が違うだけだ。お前の目の前で苦しんでいる誰かを助けようとする意志も、十分に尊い」

「いやでも、やっぱ大人は違うな」

「?なぜいきなり大人の話を?」


 仮面のため表情は見えないが、彼は不思議がっているようだった。

 まあ確かに、大人子供の問題でもないかとラルクは思った。子供のような大人もいれば、大人のような子供もいるのだから。

 重要なのは、少なくともラルクにとって重要なのは、大人になろうとすることだ。


「とはいえ、責任があるのは分かるけれど、それにしてもアンタは、あまりにも辛すぎる道を歩んでいるんじゃないか??」


 彼は、誰かから愛されることを捨てている。

 彼は、自らが救われることを捨てている。

 砂嵐の吹き荒れる無人の荒野を、彼は一人突き進もうとしている。


 それは果たして人の道ではなかった。

 しかし彼はどうでもいいといった風に首を振って、


「ところでお前は、何をしに来た?」

「!!あっ、そうだ、明日の大会のことで少し話があるんだ」

「奇遇だな。俺もだ」


 えっ?とラルクが言うまもなく、アルマは語った。


「この間まで、俺は大会で小細工をすると言っていただろう?」

「あ、ああ」

「それなんだが、止めることにした」

「!?なんで、」

「ふむ、なんでか……、」


 アルマは少し考えるようにあごに手を当ててから言った。


「必要ないと思ったからだ」

「!!」

「魔力量では確かに劣る。実力もまだ、お前は学園三傑のレベルにはない。……だがお前には、強い意思がある」


 強い、意志。


「お前は信念を貫き通す。すべきことを果たす。正しき道を歩む。実力で劣りはしていても、心はそれを覆す」


「まあ、その、なんだ」


「俺が何をせずとも、お前は負けはしまい。胸を張れ」


 それを聞いて、確かにラルクの胸はじんわりと熱くなっていた。初めて、認められた。あるいはもっと前から、認められていたのかもしれないが。


「アルマ……、」

「それでなんだ、お前の話というのは」

「あ、いや、何でもない!」

「?」


 ラルクは頬が緩みそうなのを抑えて、彼の方を見る。

 と、そこで一つ、気になったことがあった。


「ところでアンタはもうちょっと、救われてもいいんじゃないかな?」

「……」


 アルマは一瞬無言になった。しかしすぐに、首を振った。


「強いて言うならば、俺が責任を果たした後に救いはある」

「でもそれじゃ、あまりにも辛いだろ。救いは訪れないかもしれないし、訪れたとしても何十年も後だろ?」

「……」


 その言葉にアルマは顔を顰めて、間髪入れずにラルクが口を開いた。


「……なあ、アンタは最近、笑ったことあるかい?」

「?なんだ、藪から棒に。……姉さんが死んでからは、笑っていないが」

「……それは、責任のために?」

「ああ。俺には笑っている余裕などない」


 少し上からのぞき込むと仮面の穴からうっすら見える、目元の大きな隈。おそらくはほとんど寝ていないのだろう。彼は大人を通り越して、人間であることすらやめているように思えた。人間なのに。


「……つまりアンタは、責任を果たすまで笑う気はないんだな?」

「ああ、そうだ」

「……ならば責任を少しでも果たせたならば、笑ってもいいと思うんだ」

「……?」


 それはどういう論理だと聞こうとして、手で制された。


「俺が大会で優勝したときは、そのときは朝まで遊ばないか?楽しく、バカみたいにどんちゃん騒ぎして、大いに笑ってさ」

「……そんな余裕は」

「なっ、いいだろ?頼むよ」


 手を合わせて頼むラルク。

 アルマは面倒くさそうに眉根を曲げて、ため息を吐いて、


「……いいだろう」


 しかし頷いた。


「!!いいのか!?」

「ああ。ただしお前が優勝して、一日だけだぞ。以降はもう、仕事に戻る」

「ああ、それで構わない!よし、やった!!それじゃあまた、明日な!!」


 ラルクはそう言うと、疾風のように宿を出ていった。

 発言を撤回させないためだろう。そんな彼に、アルマはさらにため息を吐いた。


「まったく、アイツは何がしたい」


 そう文句めいたことを言って、深く椅子に腰かけた。


「俺には責任がある。はしゃいでいる場合でもないというのに」


「……だがなぜ俺は、大会に手を出さないと決めた?一人や二人なら、バレないように出場できなくさせる自信はあるのだが。それになぜ俺は、奴にすべてを話した?()()に伝わるわけにはいかないから、話さないつもりだったが、」


「……やめよう。考えるだけ時間の無駄だ。今はただ、錬金の練習をしなくては」


 そうして彼が錬金ガマに手を入れると、中が血で赤く濁ってしまった。

 一旦治さねばならんかと、ゆっくりと立ち上がった。





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