第13章 裏切りの報酬⑥
「よせ」
スコットが、拳銃を握った緒方の手首を掴んだ。
「感情に溺れて、殺すんじゃない」
「こんな生意気な野郎は、殺してやらねえと気がすまねえ」
悟に馬鹿にされたのがよほど頭にきたものとみえ、緒方の目は血走っている。
今にも撃たれるかもしれないというのに、悟は落ち着いていた。
それどころか、憐みを浮かべた目で、緒方を見ている。
「わたしの言うことが、聞けんというのか」
緒方より随分小柄だというのに、スコットの声には迫力があった。
緒方が、渋々ながら、悟から銃を離す。
「カレンは、恐ろしい女だ。それは、おまえも、身を持って知っているだろう。くだらん見栄を張るんじゃない」
緒方をひと睨みしてから、スコットが悟に目を向ける。
「君も、無茶な男だな。自分の立場をわかっているのかね?」
「説明してくれんと、わからへん」
恐れ気もなく答える悟に、スコットが苦笑した。
「わかった、説明しよう」
苦笑を引っ込めたスコットの目に、鋭い光が宿った。
「君に、仲間になってほしい」
「仲間?」
悟が、キョトンとした顔をした。
「仲間って?」
「単刀直入に言うと、カレンを裏切ってもらいたい」
「カレンを裏切る?」
悟の声が、1オクターフ高くなる。
「カレンを殺せるとしたら、君しかいないからな」
「ひとつ、訊いていいか?」
スコットが、無言で頷く。
「あんた、カレンの兄ちゃんやろ」
「そうだ」
「やのに、なんでカレンを殺そうとするんや?」
「カレンは、危険人物だ。彼女を野放しにしておくと、我が祖国のためにならないからだ」
「立派な心がけやな。自分も、祖国を裏切っているくせに」
「今の言葉は聞かなかったことにしよう」
再び、緒方が悟に銃を向けるのを手で制して、スコットが落ち着き払った口調で言う。
「ただし、これからは、口の利き方に気を付けることだ。二度許すほど、わたしは甘くないぞ」
鋭い目で睨まれても、悟は恐れる様子もなく、黙って肩をすくめたのみだった。
「サトル、公園での態度でわかったが、君は、無理やりカレンに従わせられているんじゃないのか? 君のような民間人が、このような非日常に付き合わせられては、たまったものではないだろう」
確信を突かれたのか、悟は迷子になった子供のように不安げな目で、スコットを見た。
「いいか、サトル。いつまでもカレンと一緒にいると、どこでどんな目に遭うかわからんぞ」
「だからって、カレンを裏切ったりしたら、殺されるやん。俺なんか、カレンに敵うはずないし」
悟が、泣きそうな表情になった。
そんな悟を見て、彼がカレンと縁を切りたいのだと、スコットは確信した。
「そうとも限らんさ。さっきも言ったように、この世でカレンを殺せるのは、君だけなんだ」
「冗談やろ」
「冗談ではない。いいか、カレンが心を許しているのは、この世でただ一人、君だけだ。わたしが、カレンをここにおびき寄せる。君は隙を見て、引き金を引くだけだ。それで、君は自由になれる」
「そんなことをせんでも、二人きりの時でもええやん」
「それが出来るのだったら、君は、とっくにそうしていただろう。違うかね」
スコットが、あざ笑うかのように、笑みを浮かべる。
「君には、きっかけが必要なんだよ。それを、わたしが与えてやろうというんだ。それに、わたしも、カレンが唯一愛した男の手にかかって死んでゆく姿を見たいしな」
「悪趣味やな」
顔をしかめて、そう言ったものの、悟はどうしようか迷っている様子だ。




