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第12章 滅亡へのカウントダウン①

 隠れ家に戻った二人は、さすがに疲れきっていた。

「これから、どうする?」

 物憂げな表情で、悟が尋ねた。

「まずは、裏切り者を炙り出すわ」

「そうやな、こんだけのことが続くと、誰かが裏切っているとしか思えんな」

 悟も、CIAの誰かが、カレンを亡き者にしようとしているしか思えない。

「しかし、なんで?」

 悟が、素直な疑問を口にする。

「多分、今回の件は、赤い金貨が糸を引いていて、裏切者も赤い金貨の息がかかっているか、赤い金貨の一員なんでしょうね」

 各国の政治家や役人、果ては諜報機関にも、赤い金貨に属している者がいる。

 CIAにいても、なんらおかしくはない。

 悟も、そのとこは知っているので、カレンの言葉に驚きはしなかった。

「赤い金貨は、本気でわたしとターニャを抹殺しようとしているようね」

「そうなん?」

「この件に、劉が出てきているのはおかしいでしょ。彼は、暗殺専門よ。それに、シホを手に入れるだけだったら、こんなに派手に襲ってはこないわ。今回の件を利用して、これまでの恨みを晴らそうってとこかしら。これからも、邪魔になるだろうし」

「ということは、志保さんも、赤い金貨の人間なんか?」

「さあ、どうでしょう? うまく利用されているだけかもしれないわよ」

「利用?」

「そう。多分、彼女のお姉さんを殺したのは赤い金で、復讐に燃える彼女を利用して、今の騒ぎを起こしてるんだと思うわ」

「なんのために?」

「デモンストレーションよ。彼女が完成させたプログラムを、どこかに高額で売りつけようってわけ」

 カレンの読みは当たっていた。

 金になるなら、どれだけ罪のない人々を犠牲にしても厭わないのが、赤い金貨という組織である。

 だが、志保は赤い金貨の思惑を外れて、赤い金貨からも行方を眩ませて暴走を始めていることは、今のカレンに知る由もなかった。

「そうか、十分にありえるこっちゃな」

 悟が頷いてから、話題を変えた。

「なあ、もしかしたら、裏切りもんはヒューストンかな?」

「どうして、そう思うの?」

「だって、カレンに恨みがあるやろ。それに、あいつが一番、カレンの動向を掴んでるし」

「さあ、どうかしら」

 カレンの口調がこれまでとは違い、悲しみを帯びているのを、悟は敏感に感じ取った。

「どないしたんや?」

 心配そうに尋ねる悟に、カレンが力のない笑みで応える。

「あのね、サトル」

 いつもは、はっきりとものを言うカレンが、なぜか歯切れが悪い。

「なんや、カレンらしゅうない。言いたいことがあるんやったら、はっきりと言いや」

 悟が、優しい笑みをカレンに向けた。

「ありがと」

 しおらしく礼を言って、カレンが話を切り出した。

「わたしには、裏切者が誰か見当がついてるわ。それを教える前に、サトルに話しておきたいことがあるの」

「話?」

「実はね……」

 カレンの話を聞いているうちに、悟の顔がみるみる緊張に包まれた。

「それは、ほんまなんか」

 カレンの話を聞き終えたあと、悟が信じられないという顔をして念を押した。

「ええ、本当よ」

 カレンが、悟の眼を見つめながら頷く。

 憂いを湛えたその顔は、悟の胸を締め付けた。

「そうか」

 カレンの話は、悟にとってあまりにも衝撃的過ぎた。

 悟には、カレンにかける言葉がみつからなかった。

「それで、どうするつもりなんや?」

 暫くの沈黙のあと、悟が沈痛な面持ちで言葉を絞り出した。

 カレンが、自分の計画を悟に伝える。

「ほんまに、それでええんか?」

 カレンが、こくりと頷く。

「わかった、カレンの言う通りにするわ」

 カレンの胸中を思い、悟の胸は痛んだ。

 これは、カレンの問題なのだ。

 自分にできることは、ただカレンの手助けをすることだけだ。

 そう思い定めて、悟はカレンの計画に異を唱えることなく、頷いてみせた。

 カレンは、悟が素直に自分の計画を承諾してくれたことに感謝した。

 カレンの計画は、悟を非常に危険な立場に置くことになる。にもかかわらず、悟は嫌な顔ひとつせず、自分に従ってくれようとする。

 いつもそうだ。

 悟は自分のためだったら、平気で命を預けてくれる。

 そこに、一切の迷いや躊躇いはない。

 そんな悟を利用するようで嫌だったが、カレンにはその方法しか思いつかなかった。

 悟を守ると言いながら、逆に窮地に追い込むような計画しか立てられない自分に腹が立って仕方がなかった。

 そんなカレンの胸中を、悟は敏感に察した。、

「気にするなや、俺たちは夫婦やろ。妻が夫に頼みごとをするのに、なんの遠慮もせんでええ」

 そう言って、にこりと笑ってみせる。

「ありがとう」

 カレンにはそれ以上の言葉で、悟に感謝の気持ちを伝えることができなかった。

 カレンの気持ちが凝縮された一言に、悟がなんともいえぬ笑顔で応える。

 二人はどちらともなく近寄り、熱い抱擁を交わした。

 二人にとって、無上の時間が過ぎてゆく。

 暫くして、名残り惜しそうに身体を離したカレンが、ヒューストンに電話を掛けた。

 それからもう一本、何処かへ電話を掛ける。

「さあ、手配は終わったわよ。これで今晩、裏切り者が誰なのかはっきりするわ」

 電話を終えたカレンが、努めて明るい口調で言い、潤んだ瞳で悟を見つめた。

「そうやな。夜まで、まだ時間があるな」

 カレンの視線を読み取って、悟もまた明るい口調で言ってから、そっとカレンを抱き寄せた。



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