第11章 罠➄
部屋に青酸ガスが充満してから十分が経った頃、空調が作動しだした。
充満していたガスが、みるみる吸い取られてゆく。
全てのガスが吸い取られてから数分経って、静かにドアが開いた。
三人の屈強な男が、手に銃を構えて入ってくる。
悟とカレンは、うつ伏せに倒れている。
男たちは、冷ややかな目で、倒れている二人を見た。
カレンの右手には、銃が握られていた。
鍵を撃ち壊そうとしたのだろうか?
三人が顔を見合わせ頷きあうと、一人の男が、カレンの側へ歩みよった。
もう一度冷ややかな眼でカレンを見ると、足でカレンの腹を蹴って転がし、仰向けにした。
「馬鹿な奴らだ」
男が、カレンに嘲笑を浴びせた瞬間、カレンの眼が開かれた。
三人の男たちが驚く暇もなく、素早くカレンの指が動いて、あっという間に男たちの眉間を撃ち抜いた。
銃にはサイレンサーが装着されているので、それほどの音はしなかった。
男たちが倒れたときには、カレンはもう起き上がっていた。
「馬鹿は、あなた達よ。死んでるかどうか確かめもしないで、油断しているなんて」
今度はカレンが、倒れた男たちに嘲笑を浴びせた。
「まあ、そう言うたんなや。普通、この状況では助からんやろ」
悟も起き上がって、カレンの肩に手を置いた。
「それは、素人の考え。プロはね、相手の死を確かめるまで、絶対に油断しないものよ。最後まで、何があるかわからないからね。現に、私たちはこうやって生きているでしょ」
「そうやな」
悟が頷き、それから、好奇に満ちた目をカレンに向ける。
「しかし、よう、あんなもん持っとったな」
「言うと思った」
カレンが、ぐるりと眼を回した。
悟が言っているのは、防毒マスクのことである。
部屋からガスが噴き出したとき、悟に息を止めさせ、素早くポケットから折り畳んだ防毒マスクを取出し、悟に被せると、自分にも装着した。
ご丁寧に、ガスマスクには、十分は持つ小型の酸素ボンベが付いていた。
悟はずっとそれを言いたくて、うずうずしていたのだ。
死んだふりをしている間、それが苦痛でたまらなかった。
「こんなもの、スパイの常備品でしょ」
「いや、ガラス切りや探知機はわかるけど、それは違うやろ」
しれっと答えるカレンに、悟がすかさず突っ込みを入れる。
「いいじゃない。男が、いちいち細かいことを気にしないの」
カレンが、悟の頭を軽く小突いた。
「まあ、ええか」
何が良いのかわからないが、悟は一人で納得した。
「それにしても、カレンのポケットはどうなっとるんや。まるで、どっかの猫型ロボットの、何でも出てくるポケットみたいやんか」
ポケットに触ろうとする悟の手を、カレンが掴んで遮った。
「この中は、ヒ、ミ、ツ」
「また、秘密か」
うんざりするように言ってから、ふと、思いついたように尋ねる。
「なあ、何で、俺らが入ったのを見計らったように、ガスが噴き出したんやろ」
言いながら、悟が部屋を見回す。
「カメラでも付いてるんやろか」
「カメラが仕掛けてあれば、こいつらは、不用意に入ってはこないわ」
確かに、カレンの言う通りだ。
カメラで監視していれば、二人が防毒マスクを付けたことはわかっていたはずだ。
「多分、あの絵が、センサーになってたんでしょうね」
「探知機には、引っ掛からんかったんか」
「この探知機には、センサーを探知する機能はないの」
あっけらかんと言い放つカレンに、悟が呆れた顔をして「中途半端やな」とぼやいた。
「言ったでしょ。男は、細かいことをいちいち気にしないって。さあ、行くわよ」
そう言って、カレンがすたすたと歩き出す。
「都合が悪くなると、いつもこれや」
小声でぼやきながら、悟もカレンの後を追った。




