第10章 魔女の成長➄
「まだまだ、こんなものじゃ終わらないわよ」
悟の呟きに答えたカレンの顔は、いたって平静だ。
「これから、どうなるんやろな」
「そうね、明日か明後日あたりには、世界のいたる所で、同じようなことが起きるんじゃない。そうやって、全世界の人類を脅かしておいてから、次のステップに移る」
「次のステップって?」
「さあね」
カレンが、肩を竦めてみせる。
「核戦争でも引き起こすか、それとも人工衛星の雨を降らすか、少なくても、今より大勢の命が失われることは確かね」
恐ろしいことを、カレンは平気で言ってのける。
「まあ、そんなとこやろな」
悟も、驚きもせず、頷いてみせる。
「今は、魔女の成長過程ってとこね。魔女が悪魔に変わった時、人類は滅びるわ」
その日が、そう遠くないことを、カレンと悟はわかっている。
「まだ、ヒューストンからは、何も言ってこんのか?」
「まだよ。魔女が、おいそれと居場所を掴ませてくれるわけはないわ」
カレンに、焦りの色は見えない。
悟には教えていないが、カレンは、コンピューターの腕前も相当なものだった。
それは、地下室にある機器を見てもわかる。
カレンが本気になれば、CIAの専門部隊だろうが、アノニマスだろうが敵わない。
もしかしたら、志保の能力を上回っているかもしれない。
神が与え給うた超人類は、すべてにおいて、人より秀でていたのだ。
カレンが積極的に動かないのは、ある思惑があってのことだ。
カレンは、志保が赤い金貨と繋がっているのではないかと、劉の襲撃を受けた時から思っている。
劉が志保の行方を追っているのなら、カレンを襲う必要などない。
邪魔になる敵を叩き潰しておこうという見方も出来るが、カレンが一筋縄ではいかないのはわかっているはずだ。
カレンと戦うリスクを冒すより、志保を見つけて確保することの方が、先決のはずだ。
もうひとつ、早々と東名で襲われたことと、ホテルに着いてそれほどの時をかけずに襲われたことも、カレンには気に入らなかった。
CIAの内部に、赤い金貨と通じている者がいるということだ。
ヒューストンかスコットか、あるいは別の誰かか?
志保からソフトを盗み出させたのも、その者が手引きしたに違いないと、カレンは睨んでいる。
誰なのか、ある程度の目星は付けているが、確証がない。
その気になれば、カレンにとって、志保の居場所を見つけることなど造作ないことだったが、裏切者の確証を掴むために、わざとCIAからの連絡を待っていた。
自分に牙を剥いた者は、必ず叩き潰す。
それが、カレンの信条だ。
ただ、トゥルーフレンズのメカニズムは突き止めていた。
全世界の専門家が、何ヶ月にも渡って突き止められなかったものを、カレンは、わずか数時間で掴んでいた。
ヒューストンも、カレンがコンピューターに精通していることは知らない。
何者をも信用していないカレンは、たとえ上司であっても、手の内をすべて見せることはしていなかった。
「まあ、焦らないで、じっくり待ちましょ」
「そうやな」
テレビでは、相変わらず、悲惨なニュースが流れ続けている。
「なんで、こんなになっとんのに、みんなスマホを見るのを止めんのやろ」
悟は、ニュースを見ながら、不思議そうに首を傾げた。
「止めないんじゃなくて、止められないのよ」
トゥルーフレンズのメカニズムを突き止めていたカレンは、その根底に中毒性を持たせているのを見抜いていた。




