第9章 カレン吼える①
悟の言葉で、桜井はすべてを理解した。
「すると、何か? あんたは、組織に裏切り者がいるのを利用して、わざと我々に杉村を拉致させておいて、赤い金貨の連中をおびき寄せ、一気に始末しようと、そういうことか?」
カレンが、ゆっくりと頷く。
「何のために、あんたが東京にやっていきたのかはまだ掴んじゃいないが、劉も東京に来ているという。多分、何かを奪い合っているんだろう。そこへ、我々まで加わっては、余計にやっかいなことになる。奴らにしてみれば、あんたとターニャ、それに我々を一度に始末するいい機会だ。奴らは、東京にいる全ての兵力をここに向けてくるだろう。それを逆手に取って、逆に、奴らを始末しようって寸法か」
桜井が、憮然とした顔をする。
「よく、そんなことを思いつくわね」
ターニャが呆れた顔をして、両手を拡げた。
「その方が、手間が省けていいでしょ。それに、ここで奴らを叩いておいたら、あなた達にとっても、損はないはずよ」
「冗談じゃないぞ。ここで、ドンパチやらかす気か」
あまりにも平然と言い放つカレンに、桜井が怒りを露わにする。
「あら、日本を守るのが使命だと言っていたじゃない。だったら、ここで戦わなくてどうするの」
桜井の憤慨をさらりと流して、カレンがしれっと答えた。
「もう、遅いわ。敵は、近くまで来てるわよ。死にたくなければ、戦うしかなさそうね。カレンの策略に乗せられるのは癪だけど」
苦々しげな口調で言ったものの、ターニャはどこか楽しそうにしている。
根っからの戦士なのだ。
「みなさん、すんません」
悟が、桜井とターニャに頭を下げた。
「おまえも大変だな」
「あなたも大変ね」
桜井とターニャが、同時に同情の声をかける。
「ありがとうございます」
悟はもう一度、二人に深々と頭を下げた。
「なに、一人でいい子になってるの。まるで、わたしが悪者みたいじゃない」
カレンが、ふくれっ面になった。
「いや、実際そうやし」
即座に、悟が突っ込んだ。
「いいわ。ここは、サトルに免じて、わたしが悪者になってあげる」
悪びれもせず、堂々と言い放つカレンに、悟と桜井とターニャのため息が重なった。
「おまえも、いつもでも寝てないで、手伝え」
未だ倒れている緒方を脇腹を、桜井が蹴った。
緒方は、呻き語を上げながら両手を踏ん張り、なんとか状態を起こした。
暫く、そのまま荒い息をを吐いていたが、二三度頭を振って起き上がる。
「随分、蒼い顔をしてるわね。そんなんじゃ足手まといになるだけだから、隅っこにでも行っていて」
「冗談言うな。あんなくらいで、俺は参らないぞ」
「随分、見栄っ張りな坊やね」
強がりを言う緒方の頭を、カレンが撫でる。
緒方の手がぴくりと動いたが、反撃はしなかった。
さきほどのカレンの攻撃が、よほど堪えたとみえる。
「噂に聞いていたのと、少し違うな」
桜井が、誰にともなく呟く。
「なあ、おまえがカレンと出会ったとき、カレンはあんなだったか?」
今度の言葉は、明白に悟に向けられたものだった。
「俺は、あんなカレンしか知らんけど」
「そうか? 俺が得ていた情報では、カレンはいかなる時でも、感情を表さず、まるでマシーンのような、冷酷な殺し屋とういことだったが」
「その通りよ。サトルに出会うまでのカレンは、確かに、あなたの言う通りの女だったわ」
ターニャが、桜井の疑問に答えた。
「なに、人のことを勝手に話してるの。ターニャ、あなただって、以前はもっと冷酷だったじゃない」
そう言いながら、カレンが持ってきたバッグを開ける。
「そうだとしたら、あなたのペースに巻き込まれているだけよ。まったく、わたしとしたことが」
この二人は、本当に世界の三凶と謳われるほどの危険人物なのだろうか?
カレンの早撃ちといい、緒方を瞬時に倒した鮮やかさといい、桜井はカレンの腕は認めていた。
が、二人のやり取りを見ていても、どうもしっくりとこないのだ。
桜井がターニャと出会ったのは、もうかなり前のことで、ターニャが、まだスパイとして駆け出しの頃だった。
今のように、エンジェル・スマイルと呼ばれてもおらず、その当時から非情ではあったが、どこか甘い部分もあった。
その記憶が抜け切れない桜井には、余計にそう思えた。
「そろそろ来るわよ。さあ、好きなのを選んで」
カレンが、バッグに詰め込まれていた大量の武器を床に並べながら、嬉しそうに言った。
その中には、ショットガンはおろか、なんとグレネードランチャーまで混じっていた。
まさに、カレンにとっては宝箱に違いない。
「今朝より豪華になってるじゃない」
並べられた武器を見て、ターニャの目は、宝石のように輝いている。
「あなたが、ちゃっかり持ち帰ったことは忘れてあげるから、好きな得物を選んでいいわよ」
カレンが屈託のない笑みを浮かべて、ターニャを見た。
「当然でしょ。あなたに、嵌められたのだから。それにしても、あの武器の代償は高くついたわね」
言って、嬉しそうに、並べられた武器を物色し始める。
やはり、ホテルでの銃撃戦に、二人は絡んでいたのだ。
桜井は、さきほど思ったことを撤回した。
噂通り、この二人は危険人物だ。
改めて、思い知らされた




