第5章 獣には野獣を②
飛び込みが続発する事件で、頭を悩ませている男。
その男とは、CIAの日本における責任者であるヒューストンだ。
世界に悪名高いCIA。
言わずと知れた、アメリカの誇る(?)諜報機関である。
一昔前までは、世界の主な紛争や暗殺を陰で操り、裏の世界を我が物顔で闊歩していた。
が、やり過ぎが祟って、アメリカ国内でも問題となり槍玉に挙がってからは、予算を削られ、動きも制限されて、往年の勢いに翳りがさしている。
それでも、まだまだ、世界の裏での暗躍は続いている。
今、世界の火種はいたるところにあるが、その中でも、極東アジアがかなり危険な状態にある。
テロ国家のレッテルを貼られている、北朝鮮。
かつての、米ソ冷戦時代に比べれば衰えたとはいえ、最近、再び存在感を増してきているロシア。
そして、その二国以上に危険なのが中国だ。
今から三十年ほど前、中国がまだまだ発展途上であった頃、経済力と技術力を付ければ、世界にとって脅威になると言われていた。
今、まさに、それが現実のこととなりつつある。
戦国時代には、この狭い日本にも、無数の群雄が割拠していた。
それぞれの国が覇権を争い、弱い国は強い国に併呑され、勝者が、また強国に呑まれていくということを繰り返して、ついに、一つの国としてまとまった。
今の世界でも、これと同じような事が起こっているのかもしれない。
古来から、この地球上に数多の生物が生息しているが、唯一、人間だけが生きてゆく以外の欲を持っている。
そのために、多くの生物を絶滅させ、同じ人間同士でも殺し合う。
人の歴史は、戦争の歴史なのだ。
なまじ知恵というものを持ったがための因果なのかもしれない。
価値観や宗教や生活習慣の違いと、識者は言う。
しかし、どんな綺麗事を並べようと、人より優位に立ちたい、他人を意のままに操りたいという征服欲、これらが人間を闘争に駆り立てていることは否めない。
要するに、人間というものは、自分勝手なのだ。
どんな崇高なお題目を唱えようが、自然とも他の生き物とも共存しようとしない、どうしようもない生き物なのだ。
多くの人々は、平和を願っているはずなのに、なんと矛盾していることだろう。
いや、矛盾しているとは言えないか。
学歴社会、出世競争、地位、権威、規模の違いはあるが、これらも、欲に取りつかれた戦争と、なんら変わりはない。
ただ生きるためだけであれば、不要だからだ。
ただ、生きるだけ。
なんと、難しいことだろう。
話しは逸れたが、今、世界の趨勢を左右する国は、アメリカ、ロシア、中国、この三ヶ国である。
そして、ロシアと中国は極東にある。
そんなホットな地域に、日本は存在している。
アメリカと中国やロシアが武力衝突ということにでもなれば、日本がいくら平和を唱えても、否応なしに巻き込まれることは必至だ。
極東から日本という国がなくなれば、アメリカは橋頭堡を失い、じりじりとロシアと中国に押されてゆき、世界の覇権どころか、アメリカという国そのものが危うくなる。
だから、日本支部の責任者といえば、かなり有能な人材が当てられている。
その、日本における責任者のヒューストンが、部下のスコットを前に、難しい顔をして腕組をしていた。
ヒューストンは執務室の一人掛けのソファに座り、テーブルを挟んで、スコットが三人掛けの長いソファーの真ん中に座っていた。
もう十分ほど、二人は沈黙したままだ。
「誰をやる?」
腕を解いて、ヒューストンが沈黙を破った。
「カレンしかいないと思いますが」
スコットが即座に答える。
「カレンか」
ヒューストンが、苦虫を噛み潰したような顔をした。




