第4章 孤高の女豹③
「もう少し、楽しめそうね」
暫く退屈そうに車を走らせていたターニャが、バックミラーを見て微笑んだ。
バックミラーには、猛スピードで追いかけてくる、連なった三台のジープが映っていた。
多分、アッサムが応援を呼んでいたのだろう。
全滅したジバルたちを見て、激怒して追いかけてきたに違いない。
三十人の兵士を皆殺しにしたとはいえ、ターニャは物足りない気持ちでいっぱいだった。
ターニャからしてみれば、どれも小物過ぎて歯ごたえがなく、ただただつまらない戦いだった。
追っ手のジープを認めても、ターニャはスピードを上げることもせず、悠然と車を走らせている。
バックミラーに映る車体が大きくなったとき、先頭の車の助手席から、男が身を乗り出した。
RPG7を、両手で構えている。
道幅は狭く、両端は砂漠になっている。
踏み入れば、砂にタイヤだ取られるだろう。
至近距離から放たれるRPG7の榴弾は避けようがないというのに、ターニャはうすら笑いを浮かべていた。
男の手から、榴弾が放たれた。
弧を描く間もなく、真っ直ぐに飛んでくる。
ターニャは、急ブレーキを掛けると同時に再度ブレーキを引き、絶妙なハンドル捌きで車をターンさせながら、車体が倒れるぎりぎりまで片倫を浮かした。
ほとんど真横になった車の腹部を掠めるように、榴弾が通過していった。
直後に、車体を元に戻し、四輪を地面に着ける。
先頭のジープとの距離は、二十メートルとない。
ターニャは、一度アクセルを思い切り踏み込むと、素早くドアを開けて飛び降りた。
砂漠の上を、背を丸めて猫のようにしなやかに回転し、落下の衝撃を吸収する。
ターニャが立ち上がったとき、先頭のジープが、無人のランドクルーザーと衝突した。
ランドクルーザーより小型のジープは、宙を舞うように後方に跳ね飛ばされ、二台目を走るジープに激突する。
そのときには、ターニャは豹のような速さで、砂漠を走っていた。
右手には、腰のホルスターから抜いたハンドガンを握っている。
最後尾のジープがブレーキを踏んで、かろうじて衝突の難を免れたときには、ターニャは宙を飛んで、そのジープの屋根に乗っていた。
屋根越しに、車内に向けて引鉄を引く。
全弾を撃ちつくしたターニャは、ジープから飛び降りた。
そのときには、もう弾倉は交換されていた。
ターニャが、油断なくジープの中を確かめる。
前部座席に二人、後部座席に三人乗っていたが、五人とも頭頂部の真ん中を撃たれて絶命していた。
瞬時でそれを見てとると、炎上している二台のジープに目を向けた。
生きている者はいないと思われたが、それでもターニャは、銃を構えながら、油断なく近寄っていった。
一人だけ、炎上する車から這い出してきた。
それを認めるなり、ターニャが男の眉間を撃ち飛ばした。
暫くそのまま銃を構えていたが、もう、誰も出てくる者はいなかった。
ターニャは、ポケットに残っていた最後の手榴弾を、ひとつの塊となって炎上する二台のジープに向けて放った。
それから、無傷のジープのところに行き、無表情に五人の死体を引き摺り出した。
フロントガラスに飛び散った血を、死体から剥がした服で拭い、奪った武器を助手席に置いた。
運転席のシートにもべっとりと血が付いていたが、ターニャは気にも留めずに座る。
「あんた達が、何人掛かってきたって、わたしは倒せない」
ぞっとする笑みを浮かべ、血まみれで転がっている男たちへ、冷ややかな視線を投げた。
「やっぱり、もの足りない」
仏頂面に戻ったターニャは、新たな敵が現れてくれることを願いつつ、延々と続く砂漠の道を走り続けた。




