終章 人類の未来⑥
「サトルに手を出した代償は、きっちりと払ってもらうわ」
カレンは、だらりと両腕を下げた姿勢で、劉を睨みつけている。
劉は無表情でカレンを見つめ返しているが、その眼は、怒りと屈辱に燃えていた。
暫らく、二人は睨み合っていた。
劉の瞼が、ぴくりと痙攣した刹那、カレンに向け拳を突き出した。
すんでのところで、カレンが躱す。
劉の拳の風圧で、カレンの髪が宙に舞う。
カレンはよけざま、劉の後頭部に回し蹴りを叩き込んだ。
が、劉も獣の勘を持っていた。
膝を折ってカレンの足に空を切らせると、立ち上がりざま、カレンの顎に拳を振り上げる。
カレンは、咄嗟に十字にした腕でその拳を受けた。
カレンの身体が吹っ飛んだ。
受けた瞬間に地を蹴って、衝撃を逃がしたのだ。
劉の拳をまともに受けては、カレンの腕は折れていただろう。
カレンは空中で一回転し、猫のようにしなやかに着地した。
劉が突く。
カレンが蹴る。
目にも止まらぬスピードで、二人の攻防は続いた。
やがて、その均衡が徐々に崩れていった。
力では劉に敵わないが、スピードはカレンのほうが勝っていた。
カレンは、劉の肘や膝に、的確に打撃を積み重ねていった。
その度に、劉の動きが鈍くなっていく。
劉が飛び退ってカレンから距離を置き、腰から大型のナイフを引き抜く。
「あらあら、やっぱり、あんたは卑怯者ね」
少し息を切らしているものの、まだ余裕の表情で、カレンが蔑むように笑った。
「なんとでも言え。この世界は、生き残った者が勝ちなんだ」
「あんたの言う通りね」
劉のナイフを見ても、カレンは平然と立っている。
劉がナイフを突き出した。
同時に、カレンの腕が動いた。
劉のナイフが宙に舞う。
いつの間に手にしたのか、カレンの手には、先ほどの鞭が握られていた。
カレンは容赦なく、劉に鞭の雨を降らせた。
劉が地面に転がった。
転がりながら、足首に隠していた小型の拳銃を抜いた。
カレンが鞭を振り上げたときを狙って、素早く立ち上がり、カレンに向かい引金を引こうとした。
劉の顔が、驚愕で引き攣った。
カレンも、いつの間にか銃を手にしていたのだ。
鞭は、空中を舞っている。
劉の指よりも、カレンの指のほうが早かった。
乾いた音と同時に、劉の手から銃が落ちた。
同時に、カレンが放り投げた鞭も地上に落ちる。
もう一発、銃声が轟いた。
劉の両腕が、血にまみれて垂れ下がっている。
カレンは、劉の両膝も撃ち飛ばした。
劉は両腕をだらりと下げたまま、両膝を地に着けた。
「これで、あんたも終わりよ」
カレンが、銃口を劉の額に向ける。
劉が、不気味な笑みを浮かべた。
「根っからのサディストね」
カレンが躊躇いもなく、引金を引いた。
劉は、不気味な笑顔を顔に張り付かせたまま倒れた。
「最後は、あっけなかったわね」
ターニャが、つまらなさそうに言いいながら、二人の許に寄ってくる。
「最近の映画みたいに、ラスボスがくどいのは嫌いなの」
「迷惑かけたな」
悟がはにかむような笑顔を、カレンに向けた。
カレンが、自分を見殺しにしようとしたことなんて、まるで気にも留めていない様子だ。
「本当よ。でも、よくやったわ」
カレンが、悟の肩を軽く叩いた。
この二人の絆には、余人の測りしれないものがある。
「さあ、シホとご対面といきましょ」
カレンが、朗らかに言った。




