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小泉工作とレイラさん  作者: 大塚めいと
第三章 レイラさんの秘密
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第16話 グリーン・オーシャン2

【登場人物紹介】





・小泉工作[34歳 独身]

 サスペンス・ミステリー作品をメインとする小説家。現在原心社出版「月刊エクリプス」にて「痛みの要求」という作品を連載中。新作の長編小説「樹海のコクシム」の売れ行きも好調である。好きな動物はウサギ。





・功刀レイラ[1?歳]

 褐色の肌にウェーブが掛かった黒髪が特徴。喫茶店「展覧会の絵」のマスターである功刀透とは親子関係であり、「山東恋空」という名前で声優として活動している。趣味は仮装。好きな動物は猫。





・的場楓恋[30歳]

 旧姓「小泉」。工作の妹でつい最近「的場彰」という男性と結婚。美人で聡明な印象を抱かせる風貌だが、少し抜けた性格で怒ると何をするか分からない。漫画が大好き。レイラとは仲が良く、彼女の私生活については工作以上に詳しい。好きな動物は犬(柴)





・的場彰[28歳]

 的場楓恋の夫で、熊を思わせる巨漢。事故で右足を失い義足を付けている。プロのドラム奏者であり、現在歌手としての復帰を狙っている。好きな動物はハムスター。






挿絵(By みてみん)





「あ~……やっぱり私も迂闊(うかつ)だったかもなぁ……」





 小泉宅から飛び出したレイラを探し回り続けていた楓恋。彼女は今になって兄が脚本を手掛けた作品「マーク・オブ・マテマティカ」の作成に手を貸したことを後悔していた。





 今回の一件は、レイラがただ単に大きなチャンスを逃してしまったのとはワケが違う。




 自分の愛する人が、苦労してお膳立てしてくれた機会をみすみすフイにしてしまったのだから、失意の念は比べ物にならないだろう。




 もっと頑張って練習すればよかった……なんでもっと早く気が付かなかったんだろう? などと自責の念が渦巻いてしまうことは明らかだった。





 レイラのヤツ……どこに行ったんだ? 





 楓恋は、まず初めに彼女の暮らすアパートに赴いたがそこにはおらず、手当たり次第にレイラが足を運びそうな場所へと探し歩いたが、一向にその姿を見つけることが出来なかった。





 そして今、最後の望みをかけ、再びアパートへと戻っている最中だ。





 頼むから、いてくれよ……レイラ。





 楓恋はとにかくレイラを一人にしたくなかった。人間が自分の無力さを思い知った時、深い絶望に陥った時、立ち上がれない程に心に傷を負ってしまうコトを、彼女はよく知っていた。





 自分自身、過去に付き合っていた男性に裏切られた時、暴走して復讐を兼ねた自傷行為に及びかけた過去がある。彼女はそんな最悪な事態を恐れていた。





「ハァ……ハァ……やっと着いた……」





 最寄駅より少々離れた場所にあるボロアパート「威風荘」にたどり着いた楓恋。レイラはここで生活を送っている。





 楓恋は歩き続けて疲労の溜まった足を引きずるようにして、レイラの住む2階206号室へとゆっくり向かう。サビだらけの鉄製の階段を一歩一歩登り、そこに小さな体のレイラが立っているコトを願いつつ2階通路に出た彼女。しかし……





「えぇッ!? 」





 そこで待ち構えていたのは、小さな体どころか、世界を覆うような圧力の巨大な存在。一瞬だけ驚いて思わず声を上げてしまった楓恋だったが、出会い頭で鉢合わせたその男は、楓恋にとって自宅玄関のドアノブのように見慣れた存在だった為、すぐに冷静さを取り戻した。





(アキラ)!? なんでここに? 」





「か……楓恋!? 」





 その男は的場彰。紛れもない楓恋の夫である。





「レイラのアパートになんであんたがいるの? 」





「いえ……コレには理由があるんですよ! 」





「どんな理由なの!? そもそも、こっちに帰ってきてるなら連絡の一つぐらい寄こしなさいっての! アンタっていつもそう! 何でもかんでも一人で勝手に決めて自分勝手に行動するんだから! 」





「楓恋! お、落ち着いてくださいって! 」





 水族館でシマウマを見たかのように驚く妻を見て、彰は少しうろたえるも、様子から彼女がレイラに会いに来たことを察し、一旦この場から離れて理由を説明することにした。












「ええっ! じゃあ、本当にアンタ、レイラとずっと一緒にいたの? 」





「……はぁ……だからさっきからそう言ってるじゃないですか」





 彰と楓恋はアパート近くのファミリーレストランにて、ドリンクバーのコーヒーを啜りながら、今までの経緯を報告し合った。楓恋が兄に代わってレイラを探し回っていたコト。彰がバス停で不良に絡まれていた彼女を助けたコト。





 そして、彰がレイラの傷ついた心を持ちなおさせてくれたコトを……









 ■ ■ ■ ■ ■









 今から1時間前、貸しスタジオにて行われた二人だけのミニライブを終えたレイラは、その閉ざされた空間にてその気持ちを全て、彰に解き放っていた。





「私、99%本気で声優辞めちゃおうかって決めてたんです……ついさっきまで……」





 大声で思いっきり歌い終えたレイラは、額に汗を浮かべながら心情を彰に吐露する。





「でも、それにはまだ早いかな……って思いました」





「どうして? 」





 彰はそう言いながらタオルをレイラに手渡し、顔を拭かせた。ゴシゴシと今まで溜まっていた負の感情をも拭き取るかのようにして汗を拭き終えた彼女は、ヒマワリを思わせる前向きな笑顔を見せてくれた。





「自分には特別な才能は無いのかもしれない、でも……まだ声優って仕事が好きな内は……まだまだ力を出し切ってないんじゃなか? って思ったんです」





 レイラはマイクスタンドの前に立ち、スタジオをくるりと見渡した。





「さっき、がむしゃらに歌を歌った時、ふっと頭の中に浮かんだんです。大勢の観客を前に、気持ち良く熱唱している女の子の情景……そしてそのキャラクターに声を当てている自分自身を鏡に映したようなイメージ……その瞬間……パッと何かが弾けたというか……迷いが吹き飛んじゃった感じがしたんです」





「というと? 」





「そうですね……何と言うか私、色んな人に迷惑かけて、自分なりに努力して、周りを期待させといて、いざやってみれば大失敗して……そんな情けない状況でも、この期に及んでアニメキャラに命を吹き込む妄想をしている……なんだかんだで……まだまだ好きなんですよね、声優って仕事が」





 レイラの正直な心は、彰にも十分伝わったようだった。彼も彼女に負けないほどに眩しい笑顔を作っていた。





「彰さんも、そうなんですよね? 」





 彼女はそっと彰の義足に目を向け、彼に質問した。少しだけ意地悪そうな表情で。





「……はぁ……その通りだな。足一本失くしたくらいじゃ、僕もこの仕事を嫌いになれないんだ……全く、我ながら面倒な性分だと思うよ」





「お互い様ですね! 」





「全くだ! 」





 二人は大きな笑い声を上げ、貸しスタジオの空気を華やかに演出した。痛みと挫折を知っている者同士、その心を共有できたコトが、純粋に嬉しく、楽しかった。





 その後、彰はレイラをアパートまで送り届け、いざ帰ろうかと思った矢先、愛する妻とバッタリ出くわしたのだった。





 ■ ■ ■ ■ ■









「楓恋、そういうワケだから、レイラちゃんのコトはもう心配しなくていい。彼女はとても強い人だ」





「そっか……とりあえず、安心した」





 とりあえず、夫のおかげで妹同然に可愛がっているレイラが無事なのだということが分かり、楓恋はホッと胸をなでおろし、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み込んだ。





 そして「フー……」と一息ついた彼女だったが、ここで思い出したかのように目つきを鋭く変え、彰に畏怖の念を見せた。





「あんた、ホントにそれだけ? 」





「……はぁ? ……」





「彰、アンタ……レイラに変なコトしなかったでしょうね? 」





 妻の予期しない発言に、たじろぐ彰。思わず口に含んだコーヒーを吹き出しそうになる。





「そ、そんなコトするワケないじゃないですか! 」





「ホントにィ!? 嫌らしい目で見たりしなかった!? あの子、いずれは私の義姉になるかもしれない子なんだからね! 分かる? 年下なのに[姉]になるんだよ? 分かってるのその良さが! 」





 楓恋が突然放ったズレた発言に困り果てる彰。何とか身の潔白を証明しようと「何もしてません! するワケないじゃないですか! 」と弁解する。





 すると周囲の客からの奇異な視線を感じたり、これ以上このファミレスにはいられないと判断した彰は、半ば強引に妻を引き連れ、会計を済ませて外へと飛び出した。





「全く! 変なコトを言いださないでくださいよ! 誤解されちゃいますから! 」





 彰は声を荒げて楓恋を諭そうとすると、彼女は突然彼の腕にしがみつき、体を密着させてきた。松葉杖をついて歩く彰は、思わず体制を崩しそうになってしまう。





「か、楓恋! 危ないじゃないですか! 」





 猫のようにしがみついてきた妻を見下ろすと、そこにはいつもの様子からは想像できないほどにしおらしい表情を作る楓恋と目が合った。






「だって……ちょっと悔しいんだもん……二人っきりでスタジオデートだなんて……私だってしたコトないのに……」





「え……いや……その……」





 ここぞという時に見せる、楓恋の可愛らしい仕草に、彰はついつい目をそらしてしまう。





 まったく、ズルイ人だ……でも、これだから僕はこの人を嫌いになれないんだ……。





 彼は楓恋の肩に手を回し、ため息交じりに彼女に言葉を返した。





「分かりましたよ……今度一緒に行きましょう」





「ホントに? 」





「ええ、見せてあげますよ。義足で生まれ変わった僕の繊細なドラミングをね」





「やったーッ! でも何か、イヤらしいぞ彰! その台詞! 」





「どこがイヤらしいんですか! あなたが勝手にそう解釈するだけですから! 」





「はいはい、それじゃ、約束だからね! 」





「分かりましたよ……ちゃんとスタジオにも伝えておかない……と……」





「ん? どうしたの? 」





 彰は突然何かを思い出したかのように口ごもってしまった。





「そうだ! すっかり忘れてた! レイラちゃんから伝言を預かってたんだったよ! 」





「伝言? 何なの? 」





 彰は頭を掻きながら、自身なさげにその伝言を暗唱する。





「え~と……『楓恋に会ったら伝えておいてくれますか? 近いうちに工作先生と山梨で海水浴するつもりです』って言ってたな……」





「え……海水浴? 山梨で? 」





 楓恋は、彰がレイラからの伝言を間違って覚えているんじゃないか? と疑った。当然だろう……山梨県には海はないのだから。





「確かにそう言ってたんだ……何かの合言葉なのかな……? 」





 二人がレイラの言葉に疑問符を浮かべていると、その沈黙を破るかのように、楓恋の携帯電話からメールの着信を知らせる電子音が鳴り響いた。





「ん? なんだ、工作からか……」





 差出人は楓恋の兄であり、レイラの恋人、小泉工作だった。レイラは無事だというコトを事前に彼に送っていたので、その返事か? と思いつつその内容を確認すると、そこに映し出される液晶の文字列に、再び大きな疑問符を頭に浮かべるコトになった。








■■■■■■■■■■■■



宛先:的場楓恋

差出人:変態小説兄貴



本文:

レイラさんに会ったら伝えて欲しい。

「一緒に山梨の海に行きましょう」って。

(´ω`*)



■■■■■■■■■■■■






実は今回で第3章は終わりです……

中途半端な終わり方ですが、次回が第4章です!



■■■■最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

感想・コメント等、お気軽にどうぞ(^ω^)■■■■

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