魔王の城
「うぐぐぐ……。おい魔王、生きているか……」
「は、はい、なんとか……」
場面は変わって、ここは魔王の居城。
魔王の玉座がある魔王の間では、瀕死の魔王と大魔王が瓦礫の中から這い出てきていた。
壁には穴が開き、柱は無残に折れ、そこに過去の栄光はもはやない。
突然現れた勇者。魔王は名乗る前に、正拳一発で壁ごと吹っ飛ばされた。隠し部屋で待機していた大魔王は、勇者の蹴りを喰らい5本ほど柱をブチ抜いて一発KO。二人は反撃をする間も無く倒されたのである。
「おのれ勇者め……今度会ったらたたじゃすまさんぞ……」
「全くです。次に会ったら今度こそ我らの力を見せつけて……」
「あ、いたいた。良かった~」
聞き覚えのある声に、魔王と大魔王はビクッとする。
恐る恐る振り向くと、そこにはあの恐るべき勇者、ヴィオラがいた。
「ひぃ~! ゆ、勇者!」
「な、なんでここに!?」
抱き合いながら魔王と大魔王は青ざめる。
「魔道具で調べたら二人とも生体反応が残っていたからさ、もしかしたら生きているかもって思って戻ってきたんだけど、ビンゴだったみたいねぇ」
ツカツカと遠慮なく近づいてくるヴィオラ。
魔王と大魔王は心底怯えている。
二人の前に立ったヴィオラは、ニィと邪悪な笑みを浮かべる。
今度こそ殺されると思った二人は観念し、目をつぶった。
「実はさ、二人にお願いがあってやってきたのよ」
予想だにしないヴィオラの言葉に、二人はきょとんとする。
「実はね、今からもう一人私の仲間を連れてくるからさ。二人はその子にやられて欲しいのよ」
「はい?」
言っている意味が理解できなかった二人は素っ頓狂な声をあげる。
「だからね、別に本気でやられろとは言わないから、やられたフリでいいからさ。ちょっと演じて欲しいワケ」
「そ、それって……」
「八百長ってことですか?」
コクリと頷くヴィオラ。
魔王と大魔王はお互い見つめ合うと、すぐに怒りの表情を見せた。
「ふ、ふざけるな! この大魔王に向かって八百長をやれだと?! 貴様、このワシを誰だと思ってる! 大魔王ドガーン様だぞ!!」
「そうですよ! 仮にもこの世を支配していた魔王ガーンに向かって八百長をやれなどと何たる侮辱!」
魔王ガーン、大魔王ドガーン。これが彼らの名前である。
「ふーん」
ヴィオラは心底面白くないと言った表情を見せると、拳を床に叩きつけた。瞬間、物凄い衝撃と亀裂が床に走り、そのまま床が全壊する。
「う、うおおおおおお!」
ヴィオラと魔王たちは下の階へと落下する。
そのまま瓦礫にまみれるガーンとドガーン。瓦礫の上にヴィオラがフワリと着地した。
「さて、何か言うことがあるのかしら?」
「い、いえ……ありません」
「は、はい……」
ガーンとドガーンはヴィオラの申し出を渋々承諾した。後は、ミロを連れてくるだけだ。
ちなみにヴィオラの考えはこうだ。
魔王を倒すのが目標のミロ。
もしヴィオラが魔王を倒したことがバレれば、ミロは自分の目標を見失ってしまうし、パーティも解散。それに、あまりにも強すぎる自分に呆れ去ってしまうかもしれない。
それならばいっそのことミロに魔王を倒させ、伝説の勇者になってもらえばどうか。そうすれば、彼の目標は達成されるし、そのお手伝いをした私も、もしかしたら伝説の勇者の仲間として今後も一緒に居られるかもしれない。そう考えたヴィオラは魔王の城までやってきたのだ。
これで、これからもミロくんと一緒にいられるんだ!
帰り道、ヴィオラの足取りは軽かった。
だが、ミロと一瞬離れる口実を作るため、彼女はとんでもないことを口走ったことを忘れていた。知らぬが仏とはまさにこのことであった。