11『愚弟が世話になってる』
「はじめまして、いつも愚弟が世話になってるね。ロイド・レーニューだ」
「初めまして夕凪いすずと申します」
ルイスさんのお兄さんはルイスさんよりも優しげな顔のおじさんだった。歳の頃は30台前半くらいだろうか?
茶髪の髪の毛にうっすら白髪が出始めたくらいでまだ全然若く見えた。
「面会を許可してくれて感謝する。君に直接あえたってだけで貴族社会では大きな顔が出来るからね、これでいっそう我が家の影響力を増やせるってものさ」
茶化しながらも素直に面会効果を語られて、上手い人だなと感心する。
さすがそういう人だ、多分とても知恵が回るのだろう。私に合わせた、私の機嫌の取り方がとても上手い。
「ルイスさんにはいつもお世話になってますので」
「うんうん、どんどんこき使ってくれて構わないよ。転職にランクアップとこいつは君に対して借りがたっぷりあるはずだからな」
「やめてくれ兄貴、これ以上になったら過労死するから」
「大丈夫、まだ顔色も良いから行けるさ!あ、ちなみにこっちはうちの次男でアレン・レーニュー。うちの騎士団を任せていて今回は私の護衛としてきているだけだが一応名前だけは伝えておこう」
「いつもルイスがお世話になっております」
「世話してるのは俺だっての」
ロイドさんの後ろに控えていた明らかにThe護衛って感じの騎士さんは次男さんだったようだ。
長男が跡取り
次男が騎士団長
三男がクランの取りまとめ
なるほど、兄弟で色々なものを分担してるんだなと感心する。
アレンさんは護衛に徹してるので分からないが…ルイスさんとロイドさんは随分仲がいいみたいだ。
気安そうな関係に警戒心が緩みそうになり、慌てて自分を引き締める。
上司と思え。課長…いや、役員の人だと思え。
「それで今回は私に御用と伺いましたが、どのような要件でしょうか」
サクッと切り込んで見るけれどロイドさんは不愉快にも思わなかったらしく、うんうんとにこやかに微笑んでとりあえず座ろうかと、ソファを示してきた。
立ち話もなんだろう。大人しく座ると、入口に控えていたメイドさんが紅茶の用意をしてくれる。
ロイドさんはメイドさんがいれてくれた紅茶をひとくち飲むと…ふぅと、軽いため息をついた。
「要件については君にあってもらっただけで実は完了しているんだ。大きな顔が出来るって言っただろう?中々にしぶとい輩を追い払うのに、君に面会を断られなかったという実績が欲しかっただけさ。少なくとも現時点で私が望んでいるのはそれだけだ。逆に問うけれど、君は私になにか望むことはないかい?君が『砂漠のオアシス』を介して当家にくれた恩恵はとても大きい。ある程度のことなら便宜ははかるつもりだよ」
なるほど。無理を言わない貴族様なら…いいなあと思いつつ、調子に乗ってあれこれ頼んだら距離を近づけて来るだろうと思われる。
貴族様に頼みたいことかあ。
「現段階ではルイスさんを通じて今やってもらっている王侯貴族様への対処だけで問題ないです。ちなみにこれは単純な好奇心なのですけれど、『砂漠のオアシス』を通じてどんな恩恵が得られたのですか?」
指輪とか貰ってるのかなと思ったけれど……ロイドさんの答えは私の想定外だった。
「そうだね、1番大きな恩恵は『砂漠のオアシス』と『王家』の繋ぎ役として王家にとても大きな借りを作り続けていることかな。現段階で1番多くの2次職者を抱えている『砂漠のオアシス』はどの貴族にとっても喉から手が出るほど繋ぎが欲しいクランだからね…君が『砂漠のオアシス』の価値を高めてくれたお陰だ」
アイテムでも情報でもなく、パイプ役が嬉しいと言うその表情に嘘は見えない。本当なのか否か、私から見たら判別はつかないな…
「減税も許されたし、冒険者育成支援として予算も貰えた。『砂漠のオアシス』にも還元しているけれど、王家との調整役をするだけで私としては満足だよ。あとは『砂漠のオアシス』を大事にすればきっとうちの領土は栄えて行くだろうからねえ」
と思ったのだけれど、パイプ役でもものすごい恩恵があったようだ。たしかに統治者としてはそれは大きなメリットだろう。だが…メリットが大きくても、実際に大きな力を持っているのは『砂漠のオアシス』だ。如何に身内の運営とはいえ……その力を、外部ではなく身内で持ちたいと思わないものなのだろうか。
「……じゃあ、『女神の指輪』はいらないんですね?」
試すようにそういうと、ロイドさんは明るくアッハッハッハと笑った。
「人によっては喉から手が出るほど欲しいだろうけど、うちはいらないよ!今手に入ってもクランより、国より優先するのかって『砂漠のオアシス』からも国からも睨まれるし、他の貴族にも謀反の疑いがあるんじゃないかってネチネチ言われるからね!取引はあくまで『クラン』が行い、うちは繋ぎ手と言うスタンスがいちばん美味しいさ」
あー…調整役が1番良いとこ取りなのか。なるほど、なるほど。
でもその発言で横にいるルイスさんが手で顔を半分覆って絶望してますけど。王国との直接交渉させられて死にそうな顔になってますけど、お兄さんはいい笑顔でサラッと無視である。
「なので、調整役の価値を高めるために君に会いたかったし、調整役を維持するためにほかの王侯貴族を近寄らせない予定だ。いすずくんの希望とも一致してるんだろ?私も頑張るから君も頑張って避けてくれたまえ」
なるほど、信頼はできないが…現状では利害も一致しているしルイスさんを通じて手を組む分には申し分ないだろう。
「わかりました」
ニコニコ微笑んで頷く。
けれどお互い切り捨てる時は一瞬で捨てるのだろう。その日が来ないことを願いながら…『砂漠のオアシス』の母体である侯爵家の人との対面は終わった。




