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ハズレ勇者のリトルブレイブ  作者: ま行


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マルトアのこと

 シンラを出立する日、アヤメ様とシンラの国民が総出で見送りをしてくれた。沢山の感謝の言葉と、お礼の品々を貰った。いいと断ったら、更に追加されてどんと渡された。


 感謝の印だとアヤメ様は笑って、受け取ってくれと言った。断るのも違うよなと思い、俺たちはそれを受け取った。感謝されるとやっぱり嬉しい、物なんかなくても心はそれだけで満たされた。


「すまないな優真、シンラからマルトアに向かう馬車などは出てないのじゃ。暫く歩けば村にも出くわすだろう、そこからなら移動手段もあるやもしれぬ」

「そんな、大丈夫です。旅の準備もしましたし、優秀な案内もいるので」


 俺がマグメを軽くぽんぽんと叩くと、アヤメ様は笑って「それもそうじゃな」と言った。


「優真殿」


 人混みをかき分けてソテツが前に出てきた。手には封筒のようなものが握られている。


「どうかしたのかソテツ?」

「拙者も付いて行きたかったのですが、暫くはシンラに留まり復興に力を貸そうと思いましてな。それで力になれるか分からないでござるが、ハンターギルド本部宛に手紙をしたためました。拙者の名前を出してこれを渡せば力を貸してくれるかもしれないでござる」


 そうしてソテツから手紙を手渡された。


「ありがとう、助かるよ」

「いや、これだけしか出来なくて申し訳ないでござる。それに役に立つかどうかも…」


 そういえばソテツは、ハンターギルドの動きが鈍いという事情を聞いて複雑な表情を浮かべていた。何か気にかかるような事があるのだろう。


「…いや、関係ないよ。こうして何か出来る事をってしてくれただけでも俺は嬉しい。きっとギルドの人だって何か困ってる筈だ、俺たちで色々見てくるよ」


 ソテツは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、次には穏やかな笑顔で言った。


「優真殿、くれぐれも気をつけてくだされ。そしてまたそのお力を誰かに貸してあげてほしいでござる」

「必要になるか分からないけどな」

「ハハッ、それならそれで優真殿はいいのではありませんか?」

「分かってるじゃん」


 俺はソテツと固く握手を交わした。色々と大変な事はあったけれど、ソテツのお陰で勇者の戦技についての理解も深まり、戦う力もしっかりと身についてきた。友情を確かめ合うように強く手を握った。


「リヴィア、エレリ、そなたらもしっかりとな。心配はしておらぬが、これから先にも困難は次々と待ち受ける。勇者と一緒に、支え合って助け合うのじゃぞ」

「アヤメ様、本当にありがとうございました。またお会いしましょう」


 アヤメ様とリヴィア達も別れ際に言葉を交わしていた。ここで得た経験は二人にとって何かを掴むきっかけになったみたいだ。


「ランさん、ありがとうございました。私、回復魔法についての知見がもっと深まりました。そして、覚悟が足りていなかった事も実感しました」

「そんな事はありませんよ、あなたは最後の時まで真摯に向き合いました。痛みや苦しみを和らげてくれたのもあなたです。その優しい力がきっと旅の支えとなるでしょう。頑張ってくださいエレリ様」


 それぞれに別れを惜しむが、そろそろ行かなければならない。このままでは何時までもここにいてしまいそうになる。


「そろそろ行こうか」

「ええ、分かりました」

「行きましょう優真」


 俺たちは手を振って皆と別れた。名残惜しいけれど、次の目的地大港湾都市マルトアに向かわなければならない。シンラの森の木々達も、風がそよいでざわざわと鳴る、まるで一緒になって手を振ってくれているように思えた。




 三人と一体?の旅に戻る。シンラから少し離れただけなのに、何故かすごく静かになった気がした。


 そんな感傷に浸っていると腰に下げたマグメが、勝手に外れて宙に浮いた。


「ではではでは、ここからの旅路の案内はこのマグメにお任せください。いえいえ何も仰らないで、ワテクシにかかれば何処へだってあっという間でございますよ。さっ、元気良くいってみましょー!」


 前言撤回、全然静かではなかった。マグメの案内で、静かな旅路になる訳がなかった。


「あんた本当に元気ね」

「ワテクシ疲れ知らずですから、魔力切れもほぼありませんし。エレリ様はもうおへばりあそばせですか?」

「うるさいって言ってんの」


 これくらい騒がしい方が寂しくなくていいか、あまりエレリをからかい過ぎないようにと、俺は別の話題を振ることにした。


「マグメ、これから向かうマルトアってどんな所なんだ?」

「よくぞお聞きくださいました!ワテクシそういうの得意ですよ!どんどん活用していってくださいよ」

「そういうのいいから、ほら早く」


 マグメは不満なのか体を紫色に変えたが、気を取り直して説明を始めた。


「大港湾都市の名の通り、マルトアは大きな港が多く大小様々な船が多く出入りします。目的は様々なれど主は商売です。エタナラニア中の国すべての品が出入りして金も多く動きます。商人町でもあり、金を転がす為に富豪が居を構える場所でもあります」

「だからこそ結界が強固なのですよね?」

「その通りでございますリヴィア様、しかし結界だけにございません。マルトアには富豪が雇い入れた傭兵達も多くいて、それぞれに厳重な警備体勢を敷いています」


 それはそうか、自分の身は自分で守る。基本中の基本だ。しかも自分の金を守る為ならば、それこそ富豪は金に糸目をつけないだろう。身の安全が金の安全だ。


「ただそれも善し悪しですがね」

「どういう意味よ?」

「警備体制が一本化されていないというのは、情報の横のつながりが弱いという事です。それぞれが、それぞれの方法で警備に当たりますからね、危機感の統一が難しいのです」

「命の危機なのに?」


 俺がそう聞くとマグメは疑問符の形になって言った。


「命の危機だからこそという事もあります。自分の身は安全で、商売敵の身が危うかったらお得ではありませんか?」

「そんな無茶苦茶な…」

「そう思えるならユウマ様はまだまともな感性をしているという事です。金の取り合いが命の取り合いの商人達は、また違った感覚を持っているとお思いください」

「一度お父様から聞いた事があります。商家富豪にとって金は血肉と同じと、それぞれ自分自身が小さな国のような心構えでいると言っていました」


 その国が脅かされているというのに一致団結出来ないものだろうか、ダンガウェでもシンラでも皆一丸となって戦ったというのに。


 そんな懸念もあったが、実際にその空気感に触れてみないと分からないか。そう気持ちを切り替えて、また別の疑問をぶつける。


「しかしそんなに魔物に対しての守護に気を割いているマルトアに、どうして魔物が入り込めたんだろう」

「そこは創造主様も疑問に思われておりました。入り込む事自体が本来は不可能なのです。ですから本当に異常事態なのですよ」

「不可能って?」

「マルトアの対魔物用の結界は魔物の侵入を絶対に防ぎます。街道に設置された道守の塔や、シンラの木々が作るような結界より、技術も材料も金も段違いで注がれていますから。アステルの技術もふんだんに盛り込まれていますので、ワテクシとしても何故侵入出来たのかがさっぱり分かりません」


 ますますマルトアの現状が不可解に思えてきた。魔物が入り込めない街に、どう考えても魔物の被害に遭ったとしか思えない死体。


 そしてソテツのような実力者を抱えるハンターギルドや、金で雇われた傭兵達が尻尾も掴めない魔物、何だか存在すら疑いたくなる程に不気味だ。


 一体マルトアで今何が起きているのだろうか、不安は拭えないが行くしかない。被害をこれ以上出さない為にも、助けを求める人の声に応える為にも、俺たちは歩みを止めることはないのだから。

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