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ハズレ勇者のリトルブレイブ  作者: ま行


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片鱗

 旅立ち、それも異世界、となれば自らの足で大地踏みしめ腕を振り上げ、世界を歩いて回るなんて事を想像してしまう。


 だから正直これには驚いた。プシュップシュッと音を立てて、俺の目の前にあるそれはどこからどう見ても蒸気機関車だった。


「これは…」

「蒸気機関車よ?知らない?」

「いや知ってる知ってる。何でこの世界にあるのかなって不思議なだけ」


 エレリはさも当たり前かのように言うので俺は驚いてそう返した。


「こちらは勇者様の遺産、と言って差し支えないと思います。持ち込まれた技術をエタナラニアにて再現し、この世界に合わせて効率化を図ったものです」

「こんな物まで持ち込まれていたのか…」

「神獣様によって選ばれた勇者様は、それは多様な知識や力を持っていたとされています。こうした叡智は人々の生活の支えとなって生き続けているのです」


 はあと思わず口に出してしまった。何というか、改めて自分との差について考えさせられてしまう。勇者は魔王との戦いだけでなく、こうして平和を支える基盤を作っていたのか、それは世界中から支持を集める訳だ。


「これでアステルまで行けるの?」

「ええ、そんなに時間もかからないわ」


 またしても肩透かしを食らった気分だった。望んで苦労したい訳でもなかったが、こうして便利な物があるのなら知っておきたかった。


「あっ、また自分のやった事が空回りだったなんて思ってるでしょ?」

「な、何故それを…」

「優真は顔に出やすいのよ、まったくもう。ずっとこの調子で行ける訳じゃないのよ?アステルに向かう分にはこうして交通手段があるけれど、なければ他の方法を取らないと行けないんだからね?」


 確かに言われてみればその通りだ。この線路がずっと続いているとは限らない、というか繋がってないだろう、駅は要所要所に置かれるものじゃないか。


「ごめんごめん、まさかこんな物があるだなんて思わなかったからさ」

「ふふっ、大丈夫ですよ優真様。エレリちゃんは、優真様の努力が決して無駄ではないと言いたいだけですから」

「ちょっ!」


 抗議しようとしたエレリの口をリヴィアが手のひらで押さえて止めた。


「エレリちゃんもう一度言っておくけれど、私はまだ優真様に対しての言葉遣いを許した訳じゃないからね?巫女として、勇者様に敬意を…」

「ま、まあまあリヴィア、その辺で。俺が良いって言ったんだからさ、リヴィアだって何時までも堅苦しくなくていいんだよ?」


 エレリに詰め寄るリヴィアを止めて俺はそう言うが、リヴィアは納得いかないように頬を膨らませた。


「そうやって優真様が甘やかすとエレリちゃんの為になりませんよ?」

「でも、エレリはこっちの方が自然だし、俺も気を使わなくて楽だからさ」

「ぷはっ!そうだよお姉ちゃん!優真がこう言ってるんだからいいでしょ?」


 手を強引に離してエレリも負けじと反論した。姉妹喧嘩がこれ以上ヒートアップする前に、俺は話題を切り替える為に二人を機関車の方まで引っ張っていくのだった。




 目的があれば案外考え方の切り替えは早いものだ、勝手が分からない俺への説明の為、二人はあっという間に喧嘩を止めて、色々と説明や解説をしてくれた後、無事機関車の客車に乗ることが出来た。


 異世界だろうと車窓から眺める景色のよさというのは心地いいもので、外を眺めているだけで楽しい。がたがたと鳴る音も、体に感じる揺れも、日常に根付いた非日常感があって俺は好きだった。


「列車の旅が出来るなんてねえ…」

「優真様の世界でもこういった物は?」

「あるよ、と言っても蒸気機関車は減って、主に電気で走るんだけどね」


 そういった意味でもこの経験は中々貴重だ。観光用に走っているとか聞いた事はあっても、興味がない限りそうそう乗る機会もないものだから。


「そう言えばアステルは電車の実験もしてたよね?」

「ええそうよ。ただ、魔法との親和性が悪くて難航して、今は凍結中らしいわ」

「あれ、そうなんだ?てことは電車について伝える勇者もいたって事?」

「恐らくそうでしょう。ただ、私達も歴代の勇者様すべての情報を把握している訳ではありません。アステルでその辺りの話が聞けたらいいのですが…」


 それも勇者の意志かまたは足跡の一つか、神獣が語った世界を巡れという話の中にあった目的と合致する。意図はまだ分からないけれど、気に留めておいた方がいいだろう。


「ん?」

「どしたの優真?」

「あ、うん、いいや二人はここに居て。ちょっと行ってくる」

「あっちょっと!」


 俺はエレリが止めるのも聞かずに、席を立った。そしてキョロキョロと周りを見渡して、困った表情で泣きそうな男の子の前でしゃがんだ。


「こんにちは、どうかしたの?」

「えっ?あっ、あの…」

「いきなり話しかけてごめんね、大丈夫怪しくないよ。俺優真って言うんだ。君の名前は?」

「シェ、シェド…」

「シェドか、よろしく。何か困ってたんじゃない?」


 客車には沢山の人が乗っている、大人から子供まで満遍なくだ。だけど、子供一人でいる姿を今のところこの子しか見ていない、そしてあの様子からすると恐らく。


「じ、実は、ママと一緒にいたんだけど、ママが寝ちゃって、それでつまんなくなって、だからちょっとだけ探検してみたくなってそれで…」

「ママといた所が分かんなくなっちゃった?」

「う、うん…」


 迷子だろうなと思った。心細かったのか、ようやく大粒の涙をぽろぽろと流し始めた。俺はそんなシェドの背中をぽんぽんと優しく叩くと、励ますように言った。


「大丈夫!ママを探すの手伝うからさ、だからもう安心していいよ」


 小さい頃じっとしてられなくて勝手に親の手を離して動いてしまい、結果迷子になってわんわんと泣いた経験が俺にもある。退屈は子供にとって一番の厄介事だ、シェドがこうなるのも無理はない。


「優真!一人で勝手に行動しないでよ!」

「エレリ、それにリヴィアも。二人も協力してくれない?シェド、お母さんと一緒にいた所が分からなくなっちゃったんだって」


 俺は泣いているシェドに代わって、先程聞いた事情を二人に説明した。


「リヴィアは乗務員さんがいるならその人に聞いてみてくれる?エレリはシェドと一緒にここにいて、もしかしたら探しに来て入れ違いになっちゃうかもしれないから」

「優真様は?」

「俺は客車に行って声をかけてくる、寝てるって言ってたからそれで気がつくかもしれない。じゃ、任せた」


 それだけ言うと俺はひらひらと手を振って車両を移る扉を開けた。後ろでまたエレリが声を上げていたが、まずはシェド優先と思って、悪いとは思ったけれど無視した。




 客車を移ると、俺はすうっと息を吸ってから声を張り上げた。


「すみません!この車両にシェド君のお母さんはいらっしゃいますか?」


 座って思い思いのことをしていた乗客達の目が、一斉に俺の方へと向けられる。名のりを上げてきそうな様子もない、俺は失礼しましたと言って、次の車両に移ろうとした。


「おい!兄ちゃんよ、何だってんだ突然うるせえな」


 見るからにガラの悪そうなおじさんに絡まれた。どんな世界にも、この手の人って必ずいるんだなとちょっと感動してしまう。


「すみません、迷子の子供がいるので早く見つけてあげたくて。ここの車両にはいないようなので失礼しますね」

「おめえよお、俺は気持ちよく昼寝してたってのによお、それを邪魔しておいてはいそうですかとはいかねえよなあ?」

「それはごめんなさい、でも、子供の事が最優先ですから」

「んだとこの野郎!」


 逆上してきたおじさんに顔を殴られた。痛いは痛かったが、所詮痛いだけだ。俺は彼の目を真っ直ぐ見据えて言った。


「もういいですか?」

「ああ?」

「気の済むまで殴ってもらっていいですけど、俺は早くシェドのお母さんを見つけてあげたいんです。あと何発で気が済みますか?」

「な、何なんだてめえ」


 返事がないので俺は背を向けて歩き始めた。しかしまだ諦めないのか、おじさんは「待て」と叫んで後頭部を殴ってきた。でも、俺に待つ理由もないので、何発か殴られながらも先に進んで次の車両に移った。


 もう一度すうと息を吸い込み、大きな声で聞いた。


「すみません!この車両にシェド君のお母さんはいらっしゃいますか?」




「シェド!ああ、ごめんね!ママが眠っちゃったばかりに!」

「ママ!!」


 三両目でやっと、見つけた時のシェドと同じように辺りをキョロキョロと見回す女性を発見できた。事情を説明して一緒に来てもらうと、二人は再会を果たせた。


「よかったなシェド、今度はママにちゃんと言ってから行動するんだぞ?」

「うん!ありがとう優真兄ちゃん!」

「本当にありがとうございます。ごめんなさい」

「いいんですよ。お母さんが見つかって何よりです」


 そうして二人が自分の席に戻るのを見送ると、エレリにガッと腕を掴まれて、席まで引きずられて強引に座らされた。


「ちっともよくない!優真、何で怪我してるのよ!?」


 エレリは怒った顔で俺に回復魔法をかけた。殴られて、ちょっと口の中と後頭部を切って血が出たくらいだ。


「寝てた人起こしちゃって殴られた。まあでも大した事ないからいいって」

「はあ!?そいつは何処!?」

「また寝てるんじゃない?殴って満足したでしょ」


 そう言うと、二人とも絶句して俺の顔を見た。


「あの優真様、素人のパンチくらい避けられますよね?」

「うん。でも殴って気が済むなら殴られておこうかなって」

「やり返さなかったの?」

「とんでもない、大事になっちゃうだろ?それにシェドのお母さんを探さないといけなかったし」


 二人は顔を見合わせて、また絶句して俺の顔を呆然と見た。二人が何にそこまで驚いているのか分からなかったが、俺は窓から見えた景色に目を奪われた。


「ねえ!あそこがアステル?」


 巨大な尖塔が数多く立ち並ぶ大都市が目に入ってきた。何だか如何にもって感じがする。俺が聞いた事にリヴィアが頷いたので、ここが目的地のアステルなのだと知ることが出来た。


 どんな出会いが待っているかワクワクとして、俺は早く到着しないかなと気を逸らせた。リヴィアとエレリの様子がおかしかったけれど、理由は後で聞けばいいかと俺は窓の外を見ていた。

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