~17~
廃墟と化した町に月の光が降り注ぎ、彼らの武器に反射して激しい軌跡を描いて行く。
「てぇりゃあ!!!!」
タカミヤが『シールドスマッシュ』でクィーンマンティスのシックルを弾き、右手の剣でもう片方のシックルを受け止める、そのクィーンの後ろからオルソンが剣で斬り付けるが緑色の障壁によって弾かれてしまい決定打となるダメージを与えられないで居た、クィーンマンティス自体はLv40程の中堅モンスターでありLv90ならギリギリでソロ討伐可能なモンスターであるのだが、『黒い病』に感染した事により脅威的な破壊力をもったシックルと此方の攻撃を弾き返す障壁による防御力、そして異常な回復力を備えた化物となってしまっているのであった、タカミヤとオルソンはワントップ陣形でタカミヤが自身にマンティスのヘイトを徹底的に集め、オルソンには背後から攻撃を加えて貰っている、カノンは自分が仕掛けたトラップの場所へと二人を合図で誘導し戦闘を何とか有利に働かせようと町中を動き回っていた。
何とか距離を取りカノンが閃光弾を使って出来た隙を付いて装備を整える為にオルソンと共に場を離れマンティスと距離を取る、目視ギリギリの距離まで下がると物陰に素早く隠れて気配を消し、マンティスに見つからないようにヘイトを下げる。
「ちっ!、そろそろ盾の耐久値がヤバくなってきたわね」
「俺の剣も限界だ、くそっ!!、奴に一撃すら与えられないとは・・・」
「ん~、やっぱ妙ね」
「何がだ?」
タカミヤはエリア情報ウィンドウを表示したままずっと戦闘を続けていたのだがマンティスの行動の中に『エリア内での武器使用禁止』を起こす行動が無かったのである、あれば武器が使え無くなるので直ぐに分かるし、エリア情報にバグが起きる行動さえ見極めることが出来れば相手の行動阻害を行う事で『エリア内での武器使用禁止』という状況を封じる事が出来るようになる。
「マンティスはまだ『エリアデータ改変』と『デスシックル』を出してきてないわ、この二つがある以上奴の優位は崩せないわ」
「そうであったな、ぬう・・・どうすれば」
「奴の障壁を壊せないことには攻撃も・・・・・っとそう言えばアレがあったっけ」
「アレ?」
オルソンの問いには答えずポケットをゴソゴソと漁ると一本の蒼く耀く剣を取りだしてオルソンに渡した
「試作品だから耐久度は保証出来ないけど試してみる価値はある剣よ」
「見事な剣だがコレは一体?」
「ある剣の複製なのだけれど『黒い病』に効くかもしれない剣とだけ言っておくわ」
「成る程、これが冒険者達が隠し持っているという『奥の手』という奴だな!、気を付けて使わせて頂こう」
「ん~、『奥の手』って言っていいのかどうかは分からないけど」
タカミヤは盾を新しいものと交換すると建物の上に隠れているカノンに合図を送りトラップの位置を聞くと、再び剣を構えマンティスへと単身斬りかかりに行く、剣を振り障壁を何度も反応させる事で隠れたままのオルソンへとマンティスの位置を知らせつつトラップの位置まで少しずつ移動していく、頃合いを見計らってトラップを手動で起動させるために剣でトラップを弾き捕縛用のロープがマンティスの体を締め上げる、そのチャンスを何としても活かそうとタカミヤは相手のヘイトを自身に釘付けにするためにめいいっぱい『挑発』する。
~【挑発】~
戦士職のタウンティングの1つ、リキャスト0秒で連発可能な初期技だが
効果は回数で補うしかないのがネック、『挑発伝説』なる愉快な技もあるとかないとか。
~~~~~~
マンティスがタカミヤへ威嚇の奇声を発しながらも毒液を吐き出して攻撃を繰り出してくるが素早く避け、オルソンが斬りかかる位置がマンティスの死角となるように視線を何とか誘導し、完璧とも言えるタイミングでオルソンの一撃がマンティスの左側のシックルを切り落とす事に成功する。
「通った!!」
「危ないオルソン!!」
シックルを切り落としたことで、ヘイトが一気に高まってしまいマンティスの攻撃対象がオルソンへ変更される、死角を作る為にマンティスを挟んで反対側に居るタカミヤはオルソンのカバーへ入る事が出来ない距離だった、マンティスの放つ『デスシックル』による高威力で即死判定の入るこの攻撃がオルソンに致命的なダメージを与えるであろう事は明確だった、何とか少しでも威力を軽減させようとマンティスの右のシックル側へと急いで駆け出して剣を振り上げるが微かに間に合いそうにない、タカミヤはそれでもオルソンがその攻撃で命を落とさないように全力で剣を振り上げる中、マンティスの頭部へ炸裂弾が直撃しマンティスが一瞬止まった事によりタカミヤが振り上げた剣はデスシックルがオルソンへと届く前に弾き返す事に成功した。
オルソンと共にマンティスから距離を取り、援護が飛んできた建物の上へと視線を移すとそこには
「間一髪だったな、お礼は要らないぜ」
「遅くなってゴメンナサイ」
ビルの屋上に立つ人影に眼を凝らしてみると蝙蝠の意匠の黒いバトルスーツに身を包んだ男女がいた、タカミヤはその二人の姿に現実世界でのある物を連想し思わず声に出す。
「バッ○マン?」
「そう!、俺らの故郷で亀と青スーツのオッサンと共に愛されているヒーローさ!!」
「避難民達はもう次の町のたどり着いたわ、私達はせめて少しでも援護が出来ればと思ってパーティーを抜けさせて貰ってきたの」
「忝ない、御助力感謝致す」
ビルの屋上から飛び降りてきたバッ○マン&バッ○レディと一旦合流し、二人の職業を聞いた上で作戦配置を決定し装備を整えて再びマンティスへと立ち向かう、切り落としたシックルは再生されておらず例の剣が効果ありだと示していた、だが、マンティスが背中の羽を羽ばたかせ始めると。
「なんだコレは、また武器が使えねぇ」
「くそ、あれが奴の切り札か」
「素手じゃなにも出来ないぞ!?」
「あなた達は一度下がりなさい作戦を練り直すわ、撤退準備を」
タカミヤはそのままマンティスに立ち向かいシックルを盾で防いでマンティスの注意を引く、オルソン達が撤退準備をするなか、カノンと共にいたアルンがフラフラとタカミヤに近づいてきた、タカミヤはそれに気付くと慌ててアルンを抱えるとアルンは。
「ワギャァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「!!!!!!」
タカミヤが抱えたままのアルンが放った鳴き声でエリア情報表示がバチバチと表示変更されているのに気付いたタカミヤは慌ててオルソン達へと作戦変更を告げ、タカミヤはカノンに合流するためにビルを駆け上がる、カノンに合流したタカミヤは疲れて鳴き止んだアルンをカノンへ渡すとカノンからワイヤーロープを受け取りビルを飛び降りて行く。
「奴の羽から発せられている音波を止めればこのエリア情報改変を止められる筈よ、手伝って!!!」
「了解した」
「任せろ!」「任せて!」
タカミヤはワイヤーロープの端をオルソンに投げ渡しオルソンはマンティスの背後へ向けて走り抜ける、もう一組のワイヤーロープを暗殺者(バッ○マン)達に投げ渡し、二人はマンティスを挟むようにビルを飛び越えて進んでいく、マンティスのヘイトを煽り振り下ろされたシックルを盾で受け止めるとタカミヤは直ぐ様盾を捨てシックルをキツく抱えて取っ組み合う形でマンティスの行動を何とか封じる、その僅かな隙にバッ○マン達が背中の羽を封じるべくロープをマンティスの胴体へと巻き付けるべく素早く駆け回る、羽を封じ込める事に成功しエリア情報がバチバチと表示の変更を起こして居るのを確認するとオルソンがマンティスの足やシックルへとロープを巻き付け、タカミヤはそれを確認した後にマンティスから離れオルソンと共にロープを引っ張りマンティスの身動きを封じた、足や胴体やシックルをロープで封じたられたクィーンマンティスはゆるりと地面へ倒れ、その背中へとオルソンは剣を突き立てた。
「これで終わりだ!!」
「やったか!!」
「さあ?」
オルソンはマンティスから離れタカミヤ達に合流しもがき暴れるクィーンマンティスが昇散するのを見届けていると、突如クィーンマンティスの頭がもげソコからデカイ牙を持ったB·O·Wぽい寄生虫が這い出てきた事でその場に居た全員は。
「「「「「ギャァァァァァァッァアァァ!!!!!!!!!!!」」」」」
余りの気持ち悪さに絶叫しその場から一目散に逃げ出す、話は脱線するがバイオ4のUー3というクリーチャーをご存知だろうか?、あれの背中のアレがマンティスの頭をもいで飛び出てきた訳で(マンティスの頭部も千切れ落ちず未だにブラブラと揺れているので尚キモい)、逃げるのも無理はないのではないのだろうか?
「キモい!!!、何んだぁよあれ超キモいっつうの!!!!」
「うわぁ!!!!追いかけて来てる!!!」
「ちょ姐さん!!!!なんか武器!!!マグナムとかロケランとか!!シカゴタイプライターとか!!」
「エルダーテイルにそんなもんあるかぁ!!、とにかく走りなさい!!」
「うぇぇぇん!!!」
5人は必死に走ってバグモンスターから距離をとり角を曲がった所でビルの屋上へと駆け上ると気配を消してバグモンスターの様子を伺う。
「うぇ、気持ち悪い」
「何か無いの姐さん?、こうシークレット武器のレーザーガンみたいなのは」
「今上司が鋭意開発中らしいわよ?、あるのはこれくらいね」
そう言ってポケットから取り出したある物を4人の前に置いた、普通の矢に見えるのだが鏃の部分の形状が火薬矢の様になっているのと青白く耀いている所が普通ではなかった。
「コレは?」
「プロトタイプのアンチウィルス弾」
「未完成ってことじゃねぇか、行けんのか?」
「同じプロトタイプのアンチウィルスソードは効果あったからギリギリって所でしょうね」
「じゃあ、コレを私達がボウガンで撃ち込めば倒せるの?」
タカミヤはその問には答えず、町を這いずり回っているバグモンスターを一度眺めると。
「効くと思う?」
「「「「無理だと思う(思います)」」」」
「でしょうねぇ、あのバグの口の中に撃ち込めれば話は別何だけど」
「・・・・・・母国にあるハリ○ッドに失礼だけどそんな映画みたいなのはあり得ないぜ?」
とはいえ、あのバグモンスターを放置したままには出来ないし、放って置けばもっと面倒な事態に発展するのは分かりきっているので皆は息を飲んだ。
「私が奴の正面を担当するわ、防御力で言えば私がダントツだし」
「んー、では俺は奴の首?に絡まっているロープを担当しましょう、アレで少しでも動きを封じれれば成功率も上がるでしょう」
「んじゃ俺とレディが狙撃か、5本あるわけだし2:2で預かって残りは姐さんが」
「私が投げると《たわし》に刺さるわよ?」
「何の話だ!?」
二人は矢を二本ずつ受け取るとバッグからボウガンを取り出して装備変更を行い、オルソンはツギハギの鎧を脱いで盾のみを手に少しでも身軽に動けるように装備を変更していく、タカミヤは心配そうな表情で見詰めてくるカノンの頭を軽く撫でると。
「チャチャと倒して直ぐに戻るわ」
「ん、待ってる」
「姐さんそれ多分ヤバいフラグ」
「失敗したらアンタのせいね」
「ひっでぇ!」
「では、参りましょう!!」
オルソンの掛け声を合図にタカミヤとオルソンは屋上から飛び降り、二人も狙撃ポイントを選びにビルの上を飛び回り始めていく、正面から特効したタカミヤはバグモンスターの牙を盾で受けると空いた手で未だにマンティスに引っ掛かているワイヤーロープを掴みオルソンへとその片方を投げ渡す、オルソンと共にどうにか再びワイヤーロープでモンスターの動きを封じる事には成功したのだが。
「こいつ、なんてパワーだ」
「二人とも早く!!ワイヤーが持たないわ!!!」
「今狙ってる!!、奴の動きをもう少し止められないのか!!」
「これじゃあ口が狙えない!!」
バグモンスターの首が振り回されその牙を何とか避けたタカミヤとオルソンは、カノンから預かっていた予備のワイヤーロープを取り出してモンスターに引っ掛かけていく、そして首にロープを括りつけ思い切り締め上げると、その瞬間に二人のボウガンに装填されていたアンチウィルス弾がアサシネイトで放たれモンスターの巨大な口内へと襲いかかり。
「ゴアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
「わっ!たっ!っと!、一旦下がって、コレが聞かなかったら流石に色々ヤバいわ」
「戦姫殿、奴の体が!!」
バグモンスターの体は見る見る萎れていき、やがて黒い気味の悪い体液を流しながら泡になり消えて行く、残されたマンティスの胴体もバグモンスターとは違う、本来のモンスターの死にかたである消滅現象によって消えて行く、それを見届けた面々はやっと一息付きその場へ座り込んだ。
「あ~、終わった~」
「これで皆の無念が晴らせました、感謝します」
「別に気にしないでいいわよ、さて」
タカミヤは一息付いて立ち上がるとビルから降りてきた二人から返却されたアンチウィルス弾を黒い体液溜まりへと投げ入れる、勿体ないと声を上げていた二人だったが黒い体液溜まりが矢の効果によって消えて行く光景を見ると。
「うへぇ、あれ感染してたって事なのかな?」
「さぁ?、まあウィルスの液体なのは確か何じゃない?」
「触んなくて良かった・・・」
黒い液体が全て晴れ、液体溜まりがあった場所にはオルソンに貸した剣と、何度か遭遇したウィルスモンスター達が持っていたものと色違いのコアが転がっていた、それを専用の密封ケースで回収し、タカミヤは思い切り背伸びをするとその場にいた面々に声を掛ける。
「お腹すいたわね、何食べたい?」
「私はミヤの故郷料理!!」
「私は・・・ビーフスープを」
「俺、ジャンボバーガーとポテト山盛り」
「私はBLTサンド」
「ん、じゃあ料理してる間にオルソンが用意してくれた地下の簡易避難場所にテントやら設置しておいて」
「あいよ~、じゃオルソンの旦那案内頼むな」
「ああ」
タカミヤは簡易キャンプセットの調理器具を取り出すとギルド会館近くの広場にそれらを広げて早速料理をし始める、数十分程したところで皆が戻り、料理も出来たので設置しておいてテーブルへと並べていく、皆は料理にガッツいて食べると直ぐ様またギルド会館地下に設置したキャンプテントへ戻っていきバタリと倒れ込むように敷毛布へと寝転んでいく、片付けを終えたタカミヤがようやくテントへやって来ると。
「アラアラ、私の寝る場所無いんじゃない」
カノンはアルンを抱いて隅っこで寝ている、オルソンは反対側で胸に手を置くように寝ていた、あちらこちら走り回って疲れたせいか大の字で寝るブラック(バッ○マン)とブラックの腕を枕に寝るイザベラ(バッ○レディ)、空いているスペースは一応あるがかなり無理な体制になりそうな場所だった、タカミヤは苦笑いしつつも皆に「お疲れ様、良い夢を」と一言声をかけると壁にもたれ掛かり毛布を纏って静かに眠りに付いたのだった。
《ブラック&イザベラ》
バッ○マン&バッ○レディの格好で戦うアメリカ出身の冒険者、明るい性格のヒーロー好き。




