ただいま、私の大好きな人たち
甘いイチゴの香りがする煙が風に流れていくと、ベランダには元の姿に戻った三人が立っていました。
「ああ、戻った……私、元の体に戻れたわ!」
エレナは、大人の自分の手を見て、ボロボロと涙をこぼしました。
「エレナ……? どうしたんだ、急に泣き出して」
入れ替わりの魔法のことなど何も知らないレオンは、妻が急に泣き出したことに驚き、心配そうに顔をのぞき込みました。
エレナは、大人の自分の体で、思いっきりレオンの広い胸に飛び込みました。
「レオン……ごめんなさい。私こそ、あなたの頑張りに気づけなくて。
あなたが毎日、街のみんなを守るために神経をすり減らしていたこと……私たちのために、夜中まで無理をして働いてくれていたこと、全然わかっていなかったの」
「えっ? なぜ君が、俺の仕事のことや夜中のパトロールのことを……」
不思議そうにするレオンに、エレナは涙で顔をくしゃくしゃにしながら笑いかけました。
「ふふっ、それは女の子のヒミツよ。でもね、これからは一人で抱え込まないで、何でも話し合いましょう。私も、あなたを心から愛しているわ」
レオンは一瞬目を丸くした後、安心したようにふっと微笑み、今までで一番優しく、そして力強くエレナを抱きしめ返しました。
「ああ。約束する。これからは、言葉にしてちゃんと伝えるよ。ありがとう、エレナ」
二人が笑い合っていると、足元から「えへへ~」と可愛らしい笑い声が聞こえました。
元の小さな体に戻ったリリィが、二人の足に両手でぎゅっとしがみついていました。
「パパとママ、世界一の仲良しに戻ったね! 大成功だぁ!」
「ええ、リリィのおかげよ。ありがとうね」
「これからは、家族三人でずっと笑って過ごそうな」
パパのゴツゴツした温かい手と、ママの優しい手が、リリィの頭を撫でてくれました。
それから、数週間後の日曜日。
「エレナ、目をつぶって手を伸ばしてくれないか」
リビングで、レオンが少し照れくさそうに言いました。
エレナがそっと目を開けると、彼女の薬指には、あのショーウィンドウに飾られていた青い石のついた銀色の指輪が光っていました。
「レオン……ありがとう。一生、大切にするわ」
指輪を胸に当てて喜ぶエレナは、氷河期だった頃とは違う、太陽のように明るい笑顔を見せました。
「よし! お弁当できたよー! みんなで出発だー!」
エプロン姿のリリィが、元気よくピクニックのバスケットを持ち上げました。
中には、ママに手伝ってもらいながらリリィが作った、焦げていない、とっても美味しそうなオムライスが入っています。
三人が手をつないで向かったのは、街はずれにある見晴らしの良い緑の丘。
あの『秘密の書類』に描かれていた、新しいお家が建つ予定の場所です。
「ここがリリィのお部屋でしょー、ここがママのお薬を作るお部屋! パパはここでお昼寝するの!」
何もない草っぱらの上を走り回りながら、嬉しそうに想像をふくらませるリリィ。
その姿を見つめながら、レオンとエレナはしっかりと手をつなぎました。
もう、ふしぎなキャンディの魔法は必要ありません。
二人の間には、温かくて優しい、本当の家族の魔法がかかっていたからです。
(おわり)




