光の聖女と運命の経糸
人生で初めての投稿です。
拙いところはあると思いますがよろしくお願いいたします。
ティンタジェル公爵家へ向かう馬車の中。夕日に照らされた稲穂のように輝く金色の髪と瞳の少女、アザレアは公爵が目の前にいるのも含めて酷く緊張した様子で手遊びをしていた。
不安そうに揺れる目には、右の手の甲にある伝説の聖女がかつて持っていたとされた痣と同じ痣が映っていた。アザレアが12歳の誕生日を迎えたあの日、運が良いのか悪いのか神官によって「聖女の紋章」であると認められた瞬間から、平民の孤児だったアザレアの運命は変わることになった。
その噂が広まってすぐに、伝説の聖女を探しているというウォルター公爵が孤児院を訪れてアザレアを引き取ったのだ。
「伝説の聖女の紋章を受け継ぐ者、やっと見つけた。これからお前は我がティンタジェル公爵家の養子だ。何も恐れることはない」
厳格で伝統を重んじる公爵の言葉に導かれ、アザレア1人ではとても開けられないような屋敷の扉が開く。
緊張と同時にこれからの人生に胸を膨らませたアザレアを待っていたのは、温かい歓迎の視線だった。7歳も歳の離れた義兄カステルも、アザレアを聖女としてではなく、1人の女の子、そして家族として、とても温かく受け入れてくれた。
「はじめましてアザレア。僕はカステル。普段はお父様の補佐をしていてね。これから仕事でも関わる機会があるとは思うけれど、君は義理でも立派な妹だし、そんなにかしこまらないで甘えてね!」
「はい!よろしくお願いします!カステル兄さん!」
カステルは兄さんと言われて少し驚いた様子だったが頬を少し赤めて「兄さんか、悪くない、、」と独り言を呟いていた。
公爵夫人は6年前に亡くなっていて、大きな肖像画が飾られている。この国では珍しい白銀の髪をしていた美しい女性だったのだろう。
緊張がほぐれてきたアザレアが1番気になっていたのは、大勢いる使用人や豪華な家財の品々ではなく、温かな家族のその歓迎の輪の少し後ろ、アザレアが見たこともないほど豪華な椅子に腰掛けていた、椅子にも負けない雰囲気をした小さな少女の姿だった。
「初めまして、アザレアお姉様、、?」
どう呼ぶか少し迷っていたのだろう。少し不安そうな可憐で愛らしい声だった。
兄カステルとは歳の離れた実の兄妹であり、歳は一つしか変わらないがアザレアの義妹となる少女リリア。
身体が弱く、病弱だという彼女は、陶器のように白い肌に、この世のものとは思えないほど神聖な長く美しい白銀の髪を不安そうに触っている。
細い肩を心細そうにすくめ、琥珀色の大きな瞳で、じっとアザレアを見つめている姿はまるで、目を逸らした瞬間に消えてしまいそうな程儚く、花畑や泉に住んでいると言われている御伽話の妖精のように美しかった。
(本物の妖精さんみたいな可愛い子が妹になるのね!)
アザレアは神に感謝していた。こんなにも可愛い妖精のような少女が自分の妹になるのだ。
少し具合が悪そうな顔色をしているリリアは必死に笑顔で体調の悪さを隠そうとしていた。
そんな健気な妖精の姿を見て、平民育ちの自分を怖がってしまうかもしれない。拒絶されてしまうかもしれない。そんな不安よりも先に、守ってあげたいという衝動がアザレアを動かしていた。
「リリアちゃん……!」
アザレアは一直線に、リリアの座っている椅子の目の前に駆け寄ると、その華奢な身体を優しく抱きしめた。
「怖がらなくていいからね。これから私があなたのお姉ちゃんだから。神様からもらったこの力が、あなたを守るためにあるなら……私はあなたを守り続けるわ!」
初対面とは思えない愛の告白。アザレアの身体から温かい聖女特有の力が無自覚に漏れ出し、リリアの身体を包み込む。
抱きしめられたリリアの身体が一瞬硬直した。
アザレアの胸の中で、リリアの顔は見えない。ただ、アザレアの肩に回されたリリアの小さな手が、精一杯着飾ったアザレアの質素なドレスを強く握り締めたのを感じた。
「……はい、お姉様。とっても嬉しいです。これからよろしくお願いいたしますね。」
アザレアの耳元で、可愛らしい桃色の唇からゆっくりと言葉が紡がれていく。
「お姉様のような優しい方が、家族になってくれて本当に、本当に光栄ですわ」
アザレアは嬉しくて、妹を抱きしめ続けていた。
だから、気づかなかった。
アザレアの聖女の力に触れたリリアの肌が、まるで拒絶反応を起こすかのように逆立ち、その瞳の奥に深く、そして酷く悲しい未来を見ていることを。
「これからどうか仲良くしてくださいね、お姉様」
アザレアは知らない。すでに運命の経糸は強く張られていることに。




