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俺だけ生配信中なんだが? 〜生配信中に異世界転移してしまった結果、配信切れなくなった件〜  作者: 【星願大聖】永福
第二回・レベリングツアースタート!

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『ナイル氏ガチギレ』

 ◁

 許せない。


 仲間に庇ってもらったのに、何もできずにただただ気絶していた自分が。


 許さない。


 大切な仲間たちが命を賭して戦っていたのに、呑気に寝ていた自分が。


 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!


「許っさねェェェェェ!」

 

 『ナイル氏ガチギレ』

 『語彙が喪失するレベルでキレてるとこ初めて見た』

 『そのままぶっ飛ばしてしまえ!』

 

 セフメトの攻撃は早すぎて見えない。


 関係ない、避けなければただ痛いだけなのだから。


 セフメトはどんなに殴っても山のように動かない。


 ぶっ倒すまで殴ればいいだけの話。


 セフメトはこのゲーム最強の刺客。


 だったら俺が倒せば、俺が最強になる。


「化け物ですか? セフメトの攻撃をあんなにも喰らっているのに、なぜ倒れないのです?」


「メメジェットさんのリジェネでなんとかHPを保っているし、ヒールのクールタイムも充分間に合ってる。 でも、痛みは間違いなく坊やの精神を摩耗させてる以上! 長くは持たないかもしれない」


 ホープさんの言う通り、ぶっちゃけた話めちゃくちゃ痛い、苦しい、辛い。


 けれど、この程度の痛みや苦しみで、俺の罪が清算されるだなんて、微塵も思ってはいない。


 もう二度と、こんな惨めな思いはしたくない。


 もう二度と、仲間に悲しい表情はさせたくない。


 金輪際、俺の仲間を危険な目に合わせない。


 強くならないとならない、今ここで。


 絶対に挫けてはならない、相手が例え理不尽な神だろうと!


 何があろうと、俺は絶対にこいつを倒す。


「ぬりぃ! そんなへなちょこ打撃で俺がくたばるとでも思ってんのかよクソ女神!」


 右ストレートをセフメトの頬に捩じ込ませ、そのまま顔面ごと地面に叩きつける。


 セフメトは体勢を崩しながらも俺の側頭部を蹴るが、飛びかけた意識を無理やり引き戻す。 そして、俺はすぐに馬乗りになってひたすらに殴る。


 モンクは格闘でもその火力を活かせる、殴り合いでも対等に戦える。


 咄嗟に飛び出したせいで武器を装備し忘れたとしても、大ダメージを難なく与えられる!


「坊や、無茶しすぎだ! 少しはガードしないとHPより先に精神が……」


「黒湖さんは! 絶対に折れません!」


 メメジェットさんの力強い叫び声で、ホープさんは思わず押し黙ってしまう。


「だって黒湖さんは、私の中の……ヒーローなんですから!」


 いつもはツンケンした態度しかとらないメメジェットさんの、飾り気のない素直な言葉。


 それは後々思い出せば恥ずかしくなってしまうような愚直な言葉だったかもしれない。 けれど今この瞬間は、その恥ずかしすぎる愚直な言葉が、俺の精神力だけでなく気合いすらも上昇させる。


「暴力こそ、最強の正義っ!」


 ノーガードの殴り合いが続く。


 マジで殴って、マジで殴られて。 マジで蹴ってマジで蹴られる。


 マジとマジのぶつかり合い、それはおよそ戦略も技術も皆無な、頭が悪すぎる底辺の取っ組み合い。 泥臭すぎて、見るも無惨で陳腐な乱闘。


 それでも俺は止まらない。 相手の戦意が失せるまで、殴って殴って殴り続ける。


「押されてる? セフメトが? 冗談ですよね?」


「坊や……」


 やがて、セフメトの反撃の手が弱まり始めた。 完全にその姿が塵になるまで、手を止める気はないが!


「まずいまずいまずい! 恐竜種共、あのイカれ野郎を止めて下さい!」


 焦り始めるクソ野郎の声が鼓膜を揺らす。


 上等だ。 何体来ようと俺はこの拳を止めたりしない。


「させると思ったかい? 坊やのおかげで目が覚めた。 恐竜種が何体襲いかかってこようと、私のプライドに賭けて打ち破って見せる」


 ホープさんの覇気が戻ってきた気がした。 精鋭選抜の際俺が戦慄した殺気を放ち、心強い声を響かせる。


「私はもう二度と、絶望したりしない!」

 

 ◀︎

 今のホープは固有スキルをもたないただのウィザード。 【希望の簒奪者】によって二つの固有スキルを得たルタカ相手に、まともな戦いなどできるとは思えない。


 元最強プレーヤーという肩書は、固有スキルの強力な力と比べればなんの意味も成さないのだから。


「ルタカ、君はいつまでゲーム気分でいるつもりだ」


「負け犬の遠吠えですか! 固有スキルもない、全職業レベルマックスにもなっていない、ありきたりなステータスしかもたない今のお前に、僕が召喚した恐竜種たちに立ち向かうすべは無いんですよ!」


 まったくもってルタカの言うとおりだった。 ハートと重ね掛けした【精霊の恩恵】によるクールタイム無視も使用することはできない。


 決められたクールタイムの中で、理不尽に増殖し続ける恐竜種たちを倒す手段など皆無なのだ。 ……このゲームの設定上は。


「ゲームだった時は、オブジェクトを破壊して利用するなんて現象は起こせなかった」


「は? 何の話をしているんです?」


「私の爆発魔法エクスプの雨を、オブジェクトを利用して防いだ猛者がいてね。 ずっとゲーム気分だった私にはできない芸当だと思ってね。 あの時は度肝を抜かれたよ」


 それは、初めてホープとナイルが矛を交えた数日前の経験談。


「ここはゲーム内設定を模倣した現実の異世界であり、私達はゲームの中という仮想空間に転移したわけではないということだ。 君はね、この違いが分かっていないって言ってるんだよ」


 おかしそうに鼻を鳴らしながら、ホープの言葉を戯言と取ったルタカは構わず恐竜種たちに突撃命令を下す。


「意味のわからないことを言って時間を稼ごうとしても無駄ですよ。 あの化け物を殺したら、お前も冥界へ送ってあげますからね! 指を咥えてみているといい!」


「まったく、君は心底短絡的な男だよ。 こんなやつに、苦汁を飲まされたなんて人生最大の恥だ。 自分が情けないね」


 やれやれと、肩をすくめながら恐竜種達の真っ只中へ歩いていくホープ。


 目にも止まらぬ速さで殴り合うセフメトとナイルに群がる恐竜種達は、歩み寄ってくるホープなど視野にも入れていなかった。


「さあ、新たな境地へと至る実験台になってもらおうか! 水魔法アクア!」


「水魔法だって? そんな下級魔法が、恐竜種相手に通じるとでも思ってるんですか!」


 ホープが掲げた杖から噴水のように水が吹き出し、恐竜種たちに降り注ぐ。 しかし、たかが下級魔法程度ではビクともしない。


 けれどその様子を遠巻きから見ていたメメジェットは、まさかと驚き目を見開いた。


「確かに、耐久力に優れる恐竜種相手に下級魔法なんて、馬鹿がやることかもしれないよ」


「だったらお前は、自分が馬鹿だと主張したいだけですか?」


「黙って見てなよ無能。 雷魔法ボルト!」


 またしても下級魔法。 しかし、ホープが放った雷魔法は次の瞬間、ナイルたちに飛びかかろうとしていた恐竜種達の動きをピタリと止めた。


 電撃で麻痺してしまった恐竜種を目の当たりにし、まさかの事態に目を丸くするルタカ。


「たかが下級魔法でダメージを負ったのか? なぜそんな現象が? なぜ動かなくなった? なぜ麻痺している? クソホープ、貴様どんなバフを……」


「至って普通のバフさ。 ウィザード特有の【威力補正】と【魔法理解】の二つだけ」


「だったら、なぜ恐竜種達は動けなくなった!」


 動揺を表すように叫びだすルタカだったが、馬鹿にしたような笑みを浮かべるホープは次いで魔法を放つ。


風魔法ウィンド


 ホープが向けた杖先から突風がまき起こり、風で冷やされた水は表面温度を下げていき、やがて水は凍っていく。


「なんだ? なんで氷結魔法グレイシヤが?」


「まさか、科学反応?」


 瞠目しながら声を漏らすメメジェットの回答に、満足そうに頷くホープ。


「さすがメメジェットさんだ。 賢いね」


「水と雷による感電の後、残留した水の温度を風で冷やし、氷を作成した」


「何を言っている? このゲームにそんな仕様はなかったはずだ! 水と雷の下級魔法を同時に起こせば、ウィザードの【魔法融合】で雷雨魔法ストームになるだけだ!」


 ウィザードの職業スキル【魔法融合】は、特定の魔法を同時に詠唱することでワンランク上の魔法を発動させられるという効果を持つ。


 本来なら覚えられない中級魔法の雷雨魔法や溶岩魔法インフェルノがこれに当たり、通常の中級魔法と比べると威力は劣る代わりにクールタイムが短くなるという利点がある。


「この世界はゲーム内設定を元に作成された現実世界なんだ。 だから現実世界で起こり得る現象は当たり前のように発生する。 けれどクールタイムやステータスと言った制約は、この世のことわりのようになっているんだよね」


「つまり、同時に発動させれば制約によって【魔法融合】を起こす下級魔法同士でも、発動するタイミングを少しずらしてしまえば、ゲームでは起こり得なかった現象を発生させられる」


「例えば、濡れた体に電流を流すことで発生する感電現象や、水の温度を限りなく下げることで発生する凍結現象」


「この現象は物理的なものであり、ゲーム内設定とは関係ないから、どんなに強力な効果を発揮してもクールタイムは一律で六秒」


「さらにはこの現象に魔力のステータスは反映されない。 つまり、低いステータスでも圧倒的なダメージを発生させられる!」


 下級魔法は中級魔法と違い、クールタイムは一律で六秒。 つまり、先程ホープが放った魔法コンボは、六秒毎に際限なく起こすことが可能。


 その上科学反応で起こした現象には術者の魔力数値は関係ない。 融合魔法で発生させた魔法は魔力の高さに依存して威力が上がるが、科学反応でおきた現象は現象を起こす物質の体積や質量でどこまでも威力が高くなる。


「き、聞いてない! そんなの聞いていない! 誰がそんな魔法の使い方を考えたと言うんだ」


 動揺のあまり頭を抱え始めたルタカへ、ニッコリと邪悪な笑みを向けるホープ。


「たった今、私が考えた」


 その言葉の突飛さに、ルタカは呆気にとられていた。


「先程、坊やの戦う姿に感化された。 彼と戦った時の記憶がフラッシュバックした。 私はどうも、この世界をまだゲームだと思い込んでる節があってね。 オブジェクトで攻撃をかわしたり、物理攻撃で魔法を叩き潰すなんて乱暴な作戦には思考が回らなかったんだよ」


 当時の戦いを思い出したのだろうか、ホープは誇らしげにほくそ笑む。


「だから、坊やのお陰で私は……前よりもっと強く立ち回る方法を思いついたわけさ! 恐竜種がわんさか出てくるクソイベントすら打ち破る、悪魔のような考えがね!」

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