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『落ち着けナイル氏、ピーケーの基本は奇襲だ』

 ◁

 こっそりサラーマさん達に助けを呼ぼうとしたのだが、連絡手段がない。 冒険者端末に連絡機能があったのなら教えてくれればよかったのに。


 とは言ってもこの連絡機能、プレイヤー達はほぼ使わないらしい。 理由は単純明快、現実世界のトークアプリで連絡するからだ。


 そのせいでNPCのほとんどが連絡用に使用しないらしい。


 まあ俺もゲーマー用のトークアプリで友達と連絡とってたから気持ちはわかる。 だが今となってはその性質のせいで、苦渋を飲むハメになったのだが。


「坊や、君は総プレー時間はどのくらいかな?」


「あ、やっぱりもしかしなくてもあんたら転移者?」


「あぁ、あのダンジョンを三分近くで攻略したと言うことは、相当やりこんでいたんだろう?」


 町外れに案内されている最中に話しかけられた。 ダンジョンの出口で待ち伏せされていたし、相手は二人。


 逃げようかとも迷ったがサナさん人質にされてるし、プレーヤーキラー特有の敵意を感じなかったのでなんとなくついてきたわけなのだが……


「俺、このゲーム始めてすぐ転移したからそんなやりこんでないっす」


「冗談でしょ?」


 黒コートさんが目を見開きながら返答してくる。


「冗談じゃないっすけど?」


「ふふ、それなら尚更だ。 坊やに興味が湧いた」


 三角帽子のお姉さんが柔和な笑みを浮かべながら振り返る。


「それなら私達のことも知らないかな? トト兄妹と呼ばれているのだけど」


「トト《《兄妹》》? 《《姉妹》》じゃなくて?」


「ふむ、それもそうか。 今日からはトト姉妹と名乗ろうかな?」


 兄妹と名乗ったと言うことは、どうやら俺の予想通り黒コートさんは男だったようだ。

 

 『トト兄妹……だと?』

 『おいおいマジかよw』

 『え、ご本人様なの?』

 

 コメント欄がざわついている、ヘリポリ界隈では有名な人なのだろうか?


 少し気になったので小声で視聴者たちに確認を取ってみる。


「この人たち有名人なんですか?」

 

 『ヘリポリのボスをノーダメージ撃破する動画が有名』

 『しかも高難易度のやつ』

 『ダメ押しにステータス制限するアイテム使ってな』

 

「は? つまりこいつらクッソ強いってこと?」


 俺はこのゲームをやりこんでないからその凄さは毛ほどもわからないだろうが、それでも高難易度とノーダメージの組み合わせはパワーワードすぎる。 しかもステータス制限アイテム使ってると言っていた。


 しばらくコメント欄を目で追っていると改めて明らかになる事実。


 ステータス制限アイテムはこいつらのために実装されたと言っても過言ではない説があるらしい。 その話が本当なら運営からも一目置かれていると言うことになる。

 

 『ウィザードとアサシンの組み合わせな時点で怪しいとは思ったw』

 『こいつらも転移してたかw』

 『戦い挑まれたら逃げろよナイル氏』

 

「どどどどうしよう、サナさんは諦めて脱兎のごとく逃げた方がいいっすか?」


 酷な話だがこの世界でのゲームオーバーはリスクが高い。 ゲームの設定だと生き返ることは可能だが、転移したこのリアルな世界でそれを実験する度胸はない。


 それでなくてもフルダイブゲームが実装されてすぐの頃は、ゲームとわかっててもゲームオーバーになるのは怖かったくらいだ。

 

 『馬鹿野郎、サナたんを見捨てるのは俺が許さん!』

 『そもそもこいつら結構礼儀正しいやつだからそんなゲスいことしないだろ』

 『特に兄のトト・ホープは気遣い上手でコミュ力高いからな』

 

 ほほう、どうやらこのまま命を狙われる心配はしなくてよさそうだ。 俺は視聴者を信じる。


 それにしても妙なコメントが見えた。 兄のトト・ホープという人はコミュ力が高いという話だが、兄の方はあまり喋ってないぞ?


 訝しむような視線を黒コートの人に向けると、視線に気づいたのだろうか、もじもじしながら顔を逸らされた。


「何でボクを見てるのかな」


「ああ、すみません」


 どこがコミュ力高いのだろうか? あれかな、配信ではぺちゃくちゃ喋れるくせに、実際に会うとモジモジしちゃうウブなやつなのかな?


 なーんてことを考えていたら、シーナイから数キロほど離れた岩場に到着する。


 見晴らしはそこそこだが、所々に巨大な岩があるため隙をつけば潜伏もできそうだ。 何が言いたいかというと、待ち伏せするにはもってこいな感じの場所だ。


「さて坊や、早速だが一対一で勝負しないかい?」


 三角帽子のお姉さんが微笑みかけてくる。 俺はすぐに回れ右して、しゃがみ込んだ。


「ちょっと! ピーケー挑まれたんですけどどうなってんすか!」

 

 『落ち着けナイル氏、ピーケーの基本は奇襲だ』

 『身代わりマントを使った力比べだろ』

 『そういえば兄の方は強そうなやつ見つけると対人戦仕掛ける戦闘狂だったなw』

 

 ピーケーとはプレイヤーキラーという悪質なプレイヤーを称した言葉で、こういったゲームでレアアイテムや金銭目当てで通り魔のごとく一般プレーヤーをキルするゲス野郎のことを指す。


 しかしコメント欄の雰囲気からしてピーケーの可能性は薄そうで、プレーヤー同士の力試しのために実装された身代わりマントなるものがあるのだとか? ってか、そんなことよりももっと気になる事がある。


「えっと、兄とは?」


「坊や? さっきからなにをブツブツ言ってるのかな?」


 丸くなっていた俺に大判の布切れを放り投げながら、不思議そうに首を傾げる三角帽子のお姉さん。 に、見えるナニカ。


「あの、これは?」


「身代わりマントだよ? 坊やは本当に初心者なんだね?」


「ごめんね少年。 《《お兄》》は強そうなプレーヤーを見かけると、こうして一対一の力試しをしたがる性分なんだ」


 黒コートの人が縮こまっていた俺の肩にポンと手をおいた。


「あの、確認ですけど、あの人って女の人ですよね?」


「うーんと、お兄はアバター作る時女の子にするタイプの人で……」


「つまりネカマってこと?」


「うん、そうかもしれない」


 ネカマとは、インターネット上では女の人のふりをする人物を呼称する。 つまりこの三角帽子のお姉さん、このゲームのアバターを可愛いお姉さんに設定しているだけで、現実世界では男。


 つまり魂は男なのだ! 俺は心底がっかりだよ!


「言っておくけどねぇ! 私は今、見ての通り女の子になったんだよ? ネカマって単語は今までの話。 今はこうして完全体な美女になったんだから、次ネカマって言ったら炙るからね?」


 どうやら俺たちの小声が聞こえていたようだ。 三角帽子のネカマさんは瞳に影を刺しながら豪奢な装飾が施された杖を虚空から出現させていた。


 金の持ち手に宇宙を彷彿とさせる模様の巨大な宝珠、その周囲を金の装飾が囲うように展開されており、一言で言えばあのアイテムは間違いなく激レアアイテム。


 おそらく視聴者たちが言っていた情報は本当なのだろう、杖を見ただけでとんでもない相手だということが分かった。


「少年、言っておくけどお兄は手加減の仕方わからないから、気をつけて」


「えーっと、俺ってもしかしなくてもこのままだと死ぬ?」


「それはない、身代わりマントは過重ダメージを食らっても破壊されるだけで装備者にダメージはいかないから。 ちなみに対策方法は……」


「対策されたら俺死ぬよね」


 黒コートの人が急に饒舌になりそうな雰囲気だったので慌てて止める。 俺は心底気乗りしないまま立ち上がり、おずおずとトト・ホープさんに問いかける。


「あの、この世界だと死んでしまったら復活できない恐れがあるので、せっかくの申し出ですがお断りを……」


「安心して頂戴。 そう怖がること無いよ。 身代わりマントをつけていれば、過重ダメージを受けても死なないから」


「いやいや、ゲームではそうだったかもしれないですけど、こっちでもそうと限ったわけでは……」


「妹で試したから、大丈夫だよ?」


「えっと、妹……いもうと……イモウト?」


 トト・ホープさんは俺の隣を指さしている。 錆びた歯車のような挙動で首を回転させ、まさかそんなはずないよな、なんて思いながらトト・ホープさんの指先を視線で追いかけた。


「うん。 この前お兄に、実験って言って隕石メテオ落とされた。 だけど、ボクはこうして生きてるよ」


「あの、えーっと、あなたは女の子なんですか?」


 恐る恐るそう問いかけてみると、黒コートさんが送ってくる視線に棘が垣間見えた。


「少年、もしかしてボクのこと、男の娘だと思ってた?」


「あれ? 男の娘って女の子に見える男キャラのことだったよな。 あれ、ってことはこの人は元から女の子だから……あれ?」

 

 『混乱しとるw』

 『男に見える女の子だからボクっ娘が正解』

 『一人称もボクだしなw』

 『トト・ホープの魂はオス、トト・ハートがメス』

 『妹は博識だからヘリポリ博士と呼ばれているぞ』

 『ナイルくんデリカシーがないなw』

 

「なるほど、ボクっ娘か!」


「少年、あとでボクとも一戦()ろうか?」


 なぜだろう、心なしか漢字にルビが振ってありそうな宣戦布告を受けて、命の危機を感じてしまった。

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