『お前はどこのサッカー解説者だよw』
◁
黒湖ナイルのRTAチャレンジはとうとう二桁に達した。
「ちっくしょおぉぉぉぉぉ! あと二十秒なのに! 後二十秒で三分の壁を破壊できたと言うのに! クソがぁぁぁぁぁ!」
「はいはいそーだにゃー。 もっかい挑戦してくるといいにゃー」
まるで感情のこもってないサナの言葉に頷き、すぐさま踵を返してダンジョンの入り口へ駆けていくナイル。
サナと共にダンジョンに行ったのはたったの三回。 三回目にしてナイルは……
「サナさん、もっと早く走れないんですか!」
「無茶言わないで欲しいにゃ、ついて行くだけでもやっとなのにゃ!」
激しく息を切らしながら悲鳴を上げていた。
結局ナイルは三回目以降は単騎でダンジョン攻略に臨むことになり、サナは入り口でタイマー係。
ナイルは今更気がついたようだが、ファイヤーム傭兵団の団員は全員冒険者端末と言う端末を所持している。 その端末ではパーティーメンバーや自分のステータス確認、持ち物の管理や装備の見直し、簡単なマップ検索などができる。
プレイヤーたちはこの端末をスマホと言っていた。 いつもナイルがポケットに入れているあれである。
実はこの端末、それぞれの街にいるNPCから冒険に役立つアプリをダウンロードさせてもらえるのだ。 NPCがお願いする簡単なクエストを達成したり、指定されたモンスターを倒したりと様々な依頼をこなした報酬としてもらえるこの便利アプリ。
中には必要なアイテムを探すためにレーダー機能を発揮するものや、対象モンスターの弱点を教えてくれるアプリ。 攻略予定のダンジョン情報を調べてくれるアプリなどもあるが、いまサナが使っているタイマーアプリは初期段階でダウンロードされているアプリ。
初期アプリだと言うのに以外にも使用率が高いということで話題を呼んだこともある。 ヘリポリプレーヤーたちはストイックなプレーヤーが多かったのかもしれない。
こうしてナイルのRTAチャレンジは回を追うごとにストイックになっていく。
六回目のチャレンジでは五分の壁を突破した。 しかしナイルはと言うと……
「あれで五分か、コーナリングが甘かったし四分行ける気がする!」
そして九回目のチャレンジでは……
「は? 今ので四分切ったんすか? さっきはレッサーヴァンパイアが邪魔してきたからもっと時間短縮できたはず! ダンジョンの配置次第では三分切れるかもしれない!」
こうして十四回目のチャレンジとなったわけだが……
「サナさん! 何分ですか!」
転移陣から帰還したナイルが瞳を輝かせながら問いかけてくる。 すでに呆れを通り越して無心状態になっていたサナは言われるがままに端末を確認。
「三分《《七秒》》にゃ」
「なぁーなー秒!」
『お前はどこのサッカー解説者だよw』
『もうサナたん可愛そうだから諦めろw』
『レベル十八になったんだしそろそろ帰ろうぜw』
どうやら視聴者たちもナイルのガチRTAに飽きてきている様子。 だと言うのにナイルは顔を真赤にさせながら地団駄を踏む。
「あと一回! あと一回だけ! 俺分かったんすよね、ボス戦で一番時間食うけど、あいついつも立ち位置おんなじなんですよ。 さっきまでは直進して経路上の敵を轢き倒してましたが、ジャンプして空中から襲撃すれば時間短縮に……」
「あーあーはいはい、分かったにゃ。 あと一回だけだにゃ」
なげやりなサナの言葉になんの不満も言わず、ナイルは気合の咆哮を上げながらダンジョンの入口に突貫していった。 ナイルは昔からムキになると満足行くまでやり込む質なのだ。
そんなナイルの背中を見送りながら盛大なため息を付くサナ。
「もう、晩御飯の時間過ぎてるにゃ」
カバンに入れていた魚の串焼き(五本目)をかじりながら肩を竦める。 そんな彼女に、背後から声を掛ける人物が現れた。
「ふふ、このダンジョンを三分で攻略するのか。 面白い坊やだ」
「誰にゃ!」
魚の串焼きを咥え、振り返りながら臨戦態勢をとるサナ。
彼女の眼の前に現れたのは二人組の冒険者。
「おいおい、ことを荒立てるつもりはないんだよサナちゃん? さっきの坊やとぜひとも話がしたくてね」
「うん、悪いようにはしないよ」
サナは二人の冒険者を前に、額から玉の汗を滴らせた。
◁
今度こそ手応えアリだ!
レベルはいつの間にか二十になっていた。 今回の周回で二上がったのだろう。
もう二レベル上げれば目標のレベル二十二だ! こんな短時間でこんなにもレベルが上がるとは、さすがはレベリングにオススメなダンジョンなだけある。
本当だったら全速力で駆け抜ける攻略法なんてしないほうがレベルは上がっただろう。 だが、三分の壁を超えることさえできれば俺は満足なのだ!
『今のボス戦は過去一番ひどかったw』
『飛んできた魔法を物理で打ち消す猛者始めてみたぞw』
『ブリンしてバンしてボンしてたなw』
様々な試行錯誤を重ね、最高率でダンジョンを駆け抜けるために思考を尽くした。
今回の挑戦、ボス戦こそ満足のいく立ち回りだったが、懸念されるのは一層目二層目でのタイムロス。
なかなか次階層への階段が出てこなかったせいで、物理的なタイムロスをしてしまった。
運が良ければ大部屋三つ目で階段は出てくるが、運が悪いと五部屋目六部屋目とずるずる伸びてしまう。 今回は後者だ。
緊張の瞬間だ、転移陣に乗ったと同時に叫ぶ俺! タイマーを任せていたサナさんはと言うと……
「は?」
二人組の冒険者に担がれていた。
『一体何がおきた?』
『こんなこともあろうかと俺は時間を計っていたぞ』
『喜べナイル氏。 記録、三分五秒《《〇七》》』
「三分五秒……ゼロなぁーなー秒! って、〇七はいらんわ! なんでコンマまで計ってんだよ! っつーか、クソ! やっぱり配置が悪かったかw」
予想通り、一層目と二層目の配置が悪かった! こうなってくるともはや運ゲー。 って、違う違うそうじゃない。
「ふふ、残念だったね坊や。 サナちゃんのタイマーだと記録は三分四秒だったよ?」
「惜しかったね少年」
「誰すかあんたら」
念の為武器に手を添えながら問いかける。
三角帽子に紺色のローブを纏ったナイスバディな女性と、もう一人はウルフレイヤーのボーイッシュな髪型をした……この場合は襟足だけ伸ばして括ったイケメン?
はて、漆黒のロングコートと黒マスクで口元を隠した方は性別がわからん。
見たところ……まつげは長くて切れ長な目をしてるから女の子? いやいや、男だったら空前絶後のイケメンだ。 体型で性別を区別したいところだがなんとも言えない体つきだし、漆黒のコートはセンス的に男っぽい?
『えっちな視線のナイルくん』
『さっきから胸部と陰部の間をピントがいったりきたりしてるんだよなぁ』
『おれたちの画面でもピントが動くから焦点わかるんだぜ? 変態ナイル』
これは初耳だ、メメジェットさんがシーツ脱いだときとかサナさんと話す時は十分視線に気をつけよう。 って、どうしてこう緊迫した状態だと言うのに緊張感のないコメントが飛ぶのだろうか。
相手の一挙手一投足に最新の注意を払いつつ、慎重に声をかけてみる。
「サナさんはお昼寝でもしてたんすか?」
「いいや? 魚をかじりながら坊やが帰ってくるのを待っていたよ?」
三角帽子のナイスバディさんが返事をしてくる。 ドレス調のローブで大胆にあいた胸元からは溢れんばかりのお姉さん成分が……って、目線は気をつけないと(汗)
「そうっすか、僕はそろそろ帰ろうとしてるんで、サナさんを返してくれませんかね?」
脱力しているサナさんを肩に担いでいた漆黒コートさんへ視線を投げる。 すると、
「取引に応じるなら返してあげるよ。 安心して、サナちゃんは寝ているだけだから」
そう言って、漆黒コートさんは唯一見えている切れ長な目を三日月のように細めた。
ああ嫌だ、面倒なイベントが始まった予感がする。




