第二話 舌を切られた雀
今は昔 爺と婆がいました。
二人の間には子供がいませんでした。そのさみしさか、爺は一匹の雀をたいそう可愛がっていました。そんな爺をみると婆は子供を産めなかった自分が責められているようで悲しくなってしまうのでした。雀に何の罪もないとわかっていても、婆は雀につらく当たるのでした。
爺が家にいない、ある日、事件は起こりました。婆は爺にこざっぱりとした糊のきいた着物を着せようと糊を作っていたのですが、あろうことか、その糊を雀が食べてしまったのです。ご飯粒で糊を作っていたのです。この頃の米は大変、貴重なものでした。
腹をたてた婆は雀の舌をはさみでちょん切ってしまいました。そのまま、雀は逃げてしまいましたが、家に帰ってきた爺はことの顛末をきいて呆れました。
「なんと、むごいことを・・」
爺は雀を探しに出かけました。
「おじいさん、私はここです」
雀に招かれて、爺は、雀の宿で大変な歓待を受けました。普段は食べたことのないごちそう、雀のにぎやかな踊り。楽しんでいた爺ですが、ふと、自分の着ている着物をみました。糊のきいた着物です。いつも、貧しいながらも心を込めて作ってくれている食事、せまいながらも片付いた家。
そんなことを考えていると爺は婆への愛おしさがこみあげてくるのでした。
確かに舌を切るというのはやりすぎだ。だが、婆はそのことを隠そうとしなかった。そういう女なのだ。しみじみ、爺は思いました。
爺が帰るというと雀がいいました。
「大きいつづらと小さいつづら、どちらか、おみやげに持って帰ってください」
「いや、わしは、なにもいらん。どうか婆のやったことを許してやってほしい」
「わかりました。私もおばあさんのことを考えていませんでした。長年、お世話になったお礼にどうか、おばあさんにこのかんざしと着物を持って帰ってください」
「ありがとう」
婆は雀にしたことを後悔していました。
「お爺さんは、もう帰ってこないかもしれない」
そう思っていたところに爺は帰ってきました。
「お婆さんや、この着物とかんざしがを雀がくれた。お前によく似合う」
爺は婆さんの髪にかんざしをさそうとしました。
「そんな派手なもの、年寄の私には似合いません」
婆はそっぽをむいてしまいました。
「そんなことはない。お前は今も昔もきれいだ」
婆はそっぽをむいたままでしたが、うれしそうなのがわかりました。
そうだ。この女は若い頃からこういう女だった。
「これからも二人、仲良く暮らしていこうではないか」
爺は婆にかんざしをさしてやりました。
その後、爺と婆はいたわりあいながら、余生を楽しく幸せにくらしました。
次回は不思議な鏡を持つ女です。
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