第十二話 盗っ人と姫
今は昔、女がいました。
女はさる大名の姫でした。
ある年、大名の領地を飢饉が襲いました。
農民から、これ以上年貢を取り立てることもできす、財政は火の車になりました。大名はある商人に借金を申し込みました。商人は借金には応じたものの、要求したのは姫の身でした。
大名は背に腹は代えらず、姫を差し出しました。
やがて、財政を立て直した大名は姫を手元に引き取りましたが、姫の心はすさんでいました。妹の姫たちがよい縁談に恵まれ、嫁いでいきました。訳ありの姫に縁談がおこることはありません。そんなこともあり、姫の心はますますすさんでゆきました。
ある夜、姫の寝所に盗賊が忍び込みました。騒がしさに目を覚ました姫は目の前にいる盗賊に驚きましたが、自暴自棄になっている姫はこの男に殺されるのもいいと思いました。自分を見ても動じない姫に盗っ人は興味を持ちました。
外も騒がしくなってきたので、姫は部屋の中から、なにかあったのかと尋ねました。外からは盗賊が屋敷に忍び込んだこと、皆が追っていると返事がありました。
姫はこちらからと盗っ人を逃してやりました。
盗っ人はそれから何度も姫のもとにやってきました。そのたびに女の喜びそうな櫛やかんざしをくれました。
ある日、塞ぎ込んでいる姫を心配した父はきばらしにと花見に連れ出しました。
そこで、姫は美しい男に出会いました。男は花見の周辺を見廻っていた町方の与力でした。姫はその与力に恋をしました。初めての恋でした。
盗っ人は何を贈っても喜ばない姫に何がほしいかと尋ねました。姫はあの与力がほしいと言いました。
盗っ人は与力のことを調べました。与力には妻がいました。盗っ人は与力には妻がいること、諦めるように姫に諭しましたが聞き入れません。そして、姫は恐ろしい願いを盗っ人にしました。
姫は町娘に扮すると恐ろしい毒薬を手にして、与力の屋敷に向かいました。衣装と毒薬は盗っ人が用意してくれました。与力の屋敷に着くと、与力に懇意にしている医師からの子宝を授かる薬と偽って、妻に渡しました。すぐに飲むように促すと、妻は薬を口に含んだ途端、倒れました。姫はそのまま、逃げようとしましたが、与力が帰ってきました。びっくりした与力が妻を抱き寄せると妻が言いました。
「身も知らぬ女に渡された薬を誰が飲むものか」
姫は唇をかみました。
その時です。姫は突然、斬られました。斬ったのは大名の父でした。
姫には監視がつけられていました。盗っ人のことも知っていましたが、姫の慰めになればと見ぬふりをしていました。監視の者から姫の恐ろしい企みを聞いた大名は急いで姫を止めようと駆けつけましたが、姫の犯そうとした罪を許すことはできませんでした。
虫の息になった姫は盗っ人の名前をよびました。
「私を思ってくれたのはあなただけでした・・・」




