第一話 須弥山を持つ男
今は昔 あるところに一人の武将がいました。
その武将は幼い頃から同じ夢をみました。
須弥山を片手で持ち上げているのですが、どういうわけか、沙弥山の影に隠れて光はその武将にはあたらないのです。たびたびみるその夢を気になってはいましたが、戦や政務に追われ、普段は忘れているのでした。
ある日、武将は馬責めの帰り、歩き巫女に声をかけられました。
「なんという貴相でしょうか。あなたの子孫はこの国を統べていくでしょう」
不思議に思った武将はたびたび見る夢を、その巫女に話しました。
巫女はしばらく考えていましたが、ややあって、口を開きました。
「美しい女の姿が見えます。美しいだけではなく、賢さも備えている女です。その女はあなたを虜にするでしょう。そして、その女はあなたを栄光にも破滅にも導きます。出会わない方がよいかもしれません」
「私がわかるのはここまでです。どうかお気をつけなさいませ」
そう言って、巫女は去っていきました。
数年後、武将は政略により、妻をめとりました。妻は美しく賢い女でした。二人の仲は大変、睦まじく、何人もの子供にめぐまれました。
だが、幸せは長く続きませんでした。武将の家と妻の実家とが争う状況になってしまったのです。武将は深く妻を愛していましたが、父や家臣を抑えきれず、妻の兄との戦いに身を投じていきました。
三年半もの戦いの結果、武運つたなく、武将は破れ滅んでしまいます。
ただ、妻や子を道連れにするにはしのびなく、実家に返しました。
姫たちはいずれも美しく、成長して、それぞれ、名家に嫁ぎました。中でも末の姫はいくどかの政略結婚ののち、天下人の家に嫁ぎました。天下人の家に嫁いだ彼女の長男は将軍となりました。また、天下人の家に嫁ぐ前にもうけた姫は公家に嫁ぎ、その血筋は、今の天皇家にも流れているということです。
武運つたなく、世を去った武将ですが、孫が将軍となった縁で、従二位という高い位がおくられました。
武将が須弥山を持ち上げている夢も巫女の予言も、武将の血筋が脈々と続いて、高い位につくということだったのかもしれません。
次回は舌を切られた雀の話です。