86話 ★特大のカミングアウト
ぎょっとする俺と夕莉などお構いなし、雪乃は駆け寄るなり、奪い取るように俺の右腕を思い切り抱き寄せた。
「ゆ、雪乃!?」
突然のことに混乱する俺と夕莉。
けれど雪乃は俺達二人の混乱など全く意にも介さず。
「そのっ、ごめん夕莉っ!夕莉が海石くんのこと好きだって言うのは分かってて、海石くんもきっと夕莉のこと好きなんじゃないかって、それでも、それでも我慢出来なくて!」
「ちょっ、ちょっ、えっ、なに、雫?」
早口で捲し立てる雪乃に、夕莉は何がなんだかと瞬きを繰り返している。俺も瞬きを繰り返していると思う。
「私は生徒会長として恋愛に現を抜かしてる場合じゃないって言うのも分かってる!今はクリパの準備って大変な時なのも分かってる!それを分かっててこんな自分勝手なことをしてるって言うのも分かってる!」
でも、と涙目になりながらも懸命に自分の想いを訴えている。
そして、
「私だって……っ、海石くんのことが好きなんだから!!」
特大のカミングアウトをぶちかましてきた。
……って、え?
「え……」
嘘だろ?
雪乃が、俺のことを好きって?
「いきなりこんなこと言われたらっ、夕莉も海石くんも困ると思う!っていうか困ってるよね!?」
「いやその、困ってるというか……」
カミングアウトがあまりも特大過ぎて、俺ちょっと頭が追い付いていない。
「あ、あのさ、雫?ちょっと、落ち着こ?」
「なっ、なんで夕莉はそんなに落ち着いてるの!?私、夕莉から海石くんを横取りしようとしてるのに!?」
待て待て待て待て待て、なんか話が見えない上にこんがらがって来てないか?
「や、だから、なんであたしが、椿を横取りされることになってんの?」
「………………え?」
不意に、ひゅぅ……と乾いた風が屋上を通過した。寒い。
「雫……今のあたしと椿の会話、聞いてた?」
「き、聞いてました……海石くんの「分かっていたんだな?」って辺りから。だから、きっと夕莉が海石くんに告白するんじゃないかって思ったら、居ても立っても居られなくなっちゃって……」
「……なんで、そこであたしが椿にコクることになってんの?」
夕莉は本気で分からない顔をしている。
俺もそうだ、俺が好きなのは雪乃なのに、どうして夕莉に告白しなければならないんだ?
「ぇ……夕莉の「いつからだったの?」のあとに、海石くんの「自覚したのはつい昨夜。でも、期末テストの勉強期間が始まる前には、もう好きになっていたのかもしれない」って……あ、あれ?もしかして、違ったり……?」
「「違う (わよ)」」
そこは否定だ。夕莉とハモるくらい喰い気味に。
………………
…………
……
「う、うそ、だしょ……?」
うそだしょってなんだ、だしょって。




