36話 早朝の学園
そのまま大松先輩と並んで校門を潜り、玄関ロッカーで別れる。
とはいえ俺は真っ直ぐ教室に向かうのではなく、そのまま食堂近くまで行く。
この時間から食堂は開いていない。
では何をしに行くのかと言えば、単に飲み物を買いに来ただけだ。
今朝が少し肌寒く感じたので、数カ月ぶりにホットドリンクが欲しくなったから。
しかし自販機の品揃えは、夏か冬にでもならないと買い手のニーズに沿っているとは言えないケースが多いのだ。
時期的にはそろそろ『つめた〜い』ドリンクが品を減らし、『あったか〜い』ドリンクが自己主張をし始める頃だが、さてさて我が校の自販機の品揃えはいかがなものか。
複数ある自販機をざっと見てみれば、赤色の『あったか〜い』表示のものはまだ少ない。
長年定番の缶コーヒーぐらいしかまだ並んでないと思ったが、
「お?」
ふと、それに目が止まった。
それは、ホットレモンだ。
本来ならもうすこし冷え込むようになってからラインナップに追加されるはずだが、何故か並んでいるではないか。先行販売だろうか。
よし、せっかく目に止まったことだし、これにするか。
小銭を入れて、点灯するボタンを押せば、ゴトゴコンと雑な音を立てて取出口にペットボトル飲料が転がり落ちてくる。
「あら……海石くんですか?」
暖かいボトルを手に取ると名字を呼ばれたのでその方に向き直ってみれば、
「そういうあなたは津辻会長ではありませんか。おはようございます」
津辻会長が意外そうな顔をして見ていたではないか。
「えぇ、おはようございます。海石くん、登校は早い方ですか?」
「いや、今日はたまたま早く出れただけです。ついでにちょっと寒く感じたので、ここでホットレモンでも飲もうと」
俺がそう返すと、津辻会長は俺の手元にあるホットレモンを見て「そうでしたか」と頷く。
「そういう津辻会長はどうしたんです?」
「私は雪乃さんに、クリパの予算の都合や催し物の相談を受けていて、それも一段落したところです」
雪乃もこの時間には登校してるのか、早いな。
「授業の前に一息つこうと思っていましたし、ここは私もホットレモンを……あら?」
俺と同じホットレモンを購入しようと自販機に近付く津辻会長だったが、何故が目を丸くして足を止めた。
ホットレモンの下にある押しボタンには赤文字で『売切』と表示されている。
「あー、すいません。俺が買ったのがラスイチだったみたいですね」
「んー、それは残念です。では、ミルクティーにでもしましょうか」
そう言いつつ、津辻会長はアフタヌーンなミルクティーを購入した。
近くのベンチに腰掛けて、ちょっとだけお話。
「クリパの準備の進捗は如何ですか?」
「力仕事担当なので、筋肉痛続きで発狂しかけてます」
「それだけ頼りにされているということですね」
ニコニコしながらそう言われてもな。
「海石くんの周りに、体力のある友人はいないのですか?」
「二人くらいいるんですが、そいつら二人とも運動部で忙しいんで、俺の都合で手伝わせるのもなんだかなと」
その二人と言うのは当然、誠二と昌磨のことだ。特に力仕事関係に誠二がいてくれれば、と何度思ったことか。
「体力があって手の空いている方というのは、なかなかいませんね」
仕方ないとは思うが、体力自慢な連中は大体運動部に入って精と汗を流しているものだしな。
……まぁ本当はもう一人心当たりがあるんだが、彼女は彼女で多分運動部に入ってるだろうなぁ。
ここでタイトル回収です。




