22話 絵里香と鈴蘭、過去を知る二人
※今回は他者視点のみのお話です。
椿、雫、夕莉の三人が下校している、その一方で。
津辻絵里香は足早に、自宅ではないある場所へと向かっていた。
その行先は、駅前のバーガーショップ。
これから夕食をそこで食べるのではなく、友人との待ち合わせだ。
道行く先で男性を振り向かせていることには気付いているのか気付いていないのか、本人は特にそれを気にした様子も無く入店。
スマートフォンのモバイルオーダーで、オレンジジュースのSサイズだけ注文してから、待ち合わせ相手の姿を探し、
「絵里香、こっちこっち」
その声に気付いて、絵里香はそちらへ向かう。
「ごめんなさい鈴蘭、待たせましたか?」
鈴蘭――先程に椿に怪我の手当をしていた、大松鈴蘭こそが、絵里香の待ち合わせ相手だった。
「うぅん。それほど待ったわけじゃないよ」
鈴蘭の手元には、半分ほど飲み進めたホットカフェラテ。
互いに向かい合うように絵里香は席に着いたところで、労いの言葉もそこそこにして、鈴蘭は話を持ってくる。
「今日もお疲れ様。それで、新生徒会の進捗は?」
「そうですね……新会長の雪乃さんはちょっと、かなり……いえ、とんでもなく天然ですが、人柄や能力そのものに問題はありませんし、まぁ大丈夫ではないかと」
「うん。あとは、慌てん坊さんかな」
「あら、お会いしたことがあるのですか?」
「ついさっきね。なんか、モンスターハウスとか言ってた部屋に、生き埋めになってたから」
「モンスターハウス……あぁ、第二生徒会室のことですね?」
「そうそう、確かそんな感じの名前。通り掛かった時に、手伝ってくださいってお願いされてね。何が起こったのかと思ったら、部屋の片付けをしてたら人が生き埋めになったって」
「それで、雪乃さんが?」
「と、もう一人男子がいたかな。その子は、頭怪我しちゃってたから、私が保健室に連れていってあげたけど」
「怪我……海石くんが?」
「うん。まぁその海石くんの怪我は大したことなかったから、軽く手当てだけしたってところ」
鈴蘭は、自分が夕莉に声をかけられてヘルプを要請されてからのことを話した。
「大方、雪乃さんが迂闊なことをして、それを庇うために海石くんが身代わりになったと……海石くんも災難でしたね」
「むしろ幸運だと思うよ、あんな危険地帯で会長さんを庇いながら自力で脱出して、かすり傷程度で済んだんだから」
事の状況を間近で見ていた鈴蘭から見ても、第二生徒会室の惨状はひどいものだったのだから。
「まぁ……クリパに向けた準備はちゃんとスタート出来た、といったところでしょうか」
微妙に不安ですが、と絵里香は小さく溜息をこぼす。
「クリパねぇ……正直、リア充ハゲろーって発狂してどんちゃん騒ぎするだけのイベントに、何の意味があるんだか」
「あら、ひどい言い草。……ですがまぁ、気持ちは分かります。猩々学園のクリパは、元々はそんなイベントでは無かったというのに」
「だよねぇ。世も末だ」
鈴蘭も溜息をこぼす。
美少女二人の物憂いげな様子は大変絵になるものだったが、その会話の内容は、どう捉えても僻み根性そのものだった。
「それで、"そちら"の調子は如何ですか?」
ふと、絵里香の視線が下方を向く。
彼女の視線の先に何を見たのかを理解した鈴蘭は、
「あぁ………………正直、まだ辛いね」
とだけ零した。
その短い、弱音とも言える返事を聞いて、絵里香は「そうですか」と応えた。
それ以上の話題は続かず、また他愛もない話へと移り変わる。




