第174話 『 聖夜のご予定は? 』
近々新作書こうと思ってるので、暫く天メソの更新ペースが遅くなります。でも毎日更新はしたいので、がんばります。
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「へっくしゅ!」
鼻水を垂らせば、朋絵と陸人が「うわ汚い!」と心配よりも机が汚れることへの不満を露わにしていた。
「なんだ風邪か? 移すなよな」
友達への心配皆無な陸人に苛立ちを覚えつつ、颯太はずず、と鼻を啜ると、
「風邪じゃない……これは、誰か俺の噂してるな」
「あたしたち以外で颯太の話をする人ならアーちゃん以外にいないでしょ」
「もっと候補を広げろよ。他にもいるだろ」
「見栄張らなくていいからいいから」
「見栄じゃねぇ」
口を尖らせても取り繕う気はない朋絵は「いただきます」と弁当の卵焼きを箸で掴む。
今日は4人、弁当を持参しているので机を合体させてテーブル状態にしている。
「宮地くん。これ使ってください」
「さんきゅ。……ずず」
聖羅からポケットティッシュを渡されて、お礼を言いながら鼻をかむと、
「……嫁が2人」
「颯太くんや。日本は一夫多妻制禁止ですよ」
朋絵と陸人が見当違いにも程がある妄想を口にして、聖羅が「嫁⁉」と顔を真っ赤にしてしまう。そんな二人の揶揄に颯太はため息を溢しつつ、
「なんで友達からティッシュ受け取っただけで夫婦扱いされなきゃいけないんだ。……あ、陸人の机に水が零れてる」
と言えば、朋絵が嘆息して、
「えー。たくしょうがないなー。ほら、陸人ちょっとトレー上げて……」
と布巾を持って水を拭きとろうとした朋絵の手がぴくりと止まった。それからぷるぷると体を震わせて、顔も少し赤い。
そんな朋絵に、颯太は悪戯小僧のように口角を上げると、
「……嫁」
「「そんなじゃない!」」
颯太の意趣返しに、朋絵と陸人が顔を真っ赤にして叫んだ。
「意地悪ですね、宮地くんは」
「やられたらやり返す。倍返しだ」
「絶対に敵にしたくない人ナンバー1ですね⁉」
きっちり倍返ししてご満悦の颯太は、愛妻弁当――ではなく真心弁当に「いただきます」と手を合わせる。ぱか、とフタを開けると本日はのり弁だった。
お腹を空かせつつ早速おかずを一つ口に運ぶと、
「そういえば、お前らって25日予定あるか?」
今朝アリシアに朋絵たちに聞いて来ると約束したことを思い出して、颯太は3人に質問した。
すると、陸人がエビフライを持った箸が空中で止まった。
「25日って、クリスマスか」
「そう。予定ないなら、俺ん家でパーティーをしようって、アリシアが」
本音でいえば恋人同士だしクリスマスは二人で過ごしたいのが、アリシアのご要望とあれば優先しなければならない。
自分の欲求を堪えつつ3人に訊けば、全員が微妙な顔をした。
「……お前、マジか」
「は?」
なぜか呆気に取られた陸人にドン引きされて、颯太は訳が分からず眉根を寄せる。
それから陸人は朋絵に視線を送ると、息ピッタリに大仰にため息を吐いた。
「お前ってそういうやつだよな」
「この様子だと、アーちゃんは知らずにいるわけだ。あとで教えとかないと」
「何がだよ?」
意味深な事を言う二人に、それを問い質そうとしても「自分で思い出せ」と突っ張り返されてしまう。
本気で分からないから教えて欲しいのに、二人は頑なに教える気はない。
仕方ないとため息を吐けば、颯太はもう一度質問を繰り返す。
「それで、25日は予定あるのかよ?」
すると、朋絵と陸人はまた顔を見合わせて、今度は気まずそうな空気を醸し出す。
はて、と聖羅と揃って小首を傾げると、陸人が頬をぽりぽりと掻いた。
「いや、その日あれじゃん。俺たち、部活オフじゃん」
「そうだな。竹部先生が、流石に家族に過ごさせてくれって嘆いてたもんな」
平日は学校。休日は部活と、実にハードな日々を過ごす颯太たち陸上部の顧問の竹部先生。24日に合同練習が組まれてしまって、25日まで部活をやれば妻に『離婚』を宣告されてしまったらしい。なんとも悲しい先生だ。
そんな竹部の妻の計らいもあって、颯太たち学生はクリスマスというビックイベントを24時間まるまる使えるクリスマスプレゼントを貰ったわけだ。
つまるところ、カップルやそれに近しい関係者達は、必然とその予定が埋まる。
「あたしは元々、今年は颯太、アーちゃんと一緒に過ごすと思ってたのよ」
「俺も思ってた」
「あんたが頷いてどうするの」
思わず本音が零れれば朋絵に呆れられた。
それから、朋絵は言葉にするのを躊躇うような、恥ずかしさが垣間見える表情をすると、
「その日さ……予定埋めちゃったんだよね」
「俺も、その日はもう予定があって」
陸人が朋絵に続くように言って――それがどういう意味か、颯太は瞬時に察した。
なるほど。
「そっかそっかー。それは残念だなー。アリシアに二人は予定があって行けないって伝えておくよー。……よーく、伝えておくな」
と棒読みすれば、
「「うぐっ」」
と分かりやすく狼狽えた。
そんな二人を見て聖羅も「あぁ」と理解したように微笑ましそうに口許を緩めた。
内心では友人にエールを送りつつ、颯太は「そうなると」と聖羅に振り向く。
「神払は予定あるか?」
「えぇ……私、宮地くんとアリシアさんの仲に混ざるって空気読めない奴じゃないですか」
と来ることに躊躇っている聖羅に、颯太は「大丈夫」と継ぐと、
「たぶん、みつ姉と晴彦さんも来るから」
「私、その二人と殆ど面識ありませんよ⁉」
「安心しろ。みつ姉はきっと神払を気に入る。……その後が怖いが」
「何されるんですか⁉」
「悪いようにはされないから心配はいらない」
驚愕に目を見開く聖羅に、颯太は水を飲んで誤魔化す。
まあ、みつ姉の着せ替えに人形されることは確かだろう。などと胸中で思っていると、聖羅が「すいません」と申し訳なさそうな顔をしながら言った。
「宮地くんとアリシアちゃんのお誘いは飛び上がるほど嬉しいんですけど……私、イブかクリスマスは毎年家族と過ごすことになってるんです。私のお父さんが凄く寂しがり屋で、どっちかは必ず家族で過ごすことが家でのルールになっていて。特に私は絶対家にいて欲しいって、五月蠅いんです」
聖羅の父親が過保護なことが実の愛娘から露呈されてしまった。それと、聖羅が反抗期なことも。
「そっか。イブは俺たち、合同練習があるからな」
「はい。なので、せっかくのお誘いでありますが、行けそうにありません」
しゅん、と項垂れる聖羅に、颯太は「気にしなくていいから」と宥めた。
「そうかー。じゃあ、25日は全員予定が埋まってるわけか」
「なーに、颯太。本当はあたしたちが行けなくて寂しいの?」
と挑発的な笑みを浮かべる朋絵に、颯太はハッと鼻で一蹴した。
「むしろアリシアと一緒にいられる時間が増えるから俺としては好都合だ」
「なにさ! 颯太なんかもう知らない!」
ふんっ。と憤慨してしまった朋絵は、その怒りの矛先を昼食に向けた。
そんな朋絵に苦笑していると、陸人と目が合う。
――素直じゃないやつめ。
――うるせっ。
とそんなことを言っているような陸人の目に、颯太は不快げに鼻を鳴らすのだった。
今年のクリスマスは、アリシアと過ごせる反面、少しだけ期待が逸れてちょっぴり寂しいクリスマスになりそうだった――。
―― Fin ――




