第138話 『 ゆっくりと、二人のペースで 』
第3部は第2部に比べてほんわかした話が多いはずなのに数字の伸びが半端ないです。どうなってんだ⁉
なにはともあれ、本日も天メソ劇場の開幕だぁぁ!!
【 side颯太 】
―― 7 ――
「それじゃあ、水曜日、学校でな」
「はい」
「今度は、是非お家に遊びに来てください」
「ふふ。喜んで」
入院中の聖羅の負担になるわけにもいかず、名残惜しくも颯太とアリシアは聖羅に別れを告げた。
最後まで律儀に手を振ってくれる聖羅に、アリシアもまた扉が閉じるまで手を振り続けていた。
そして、二人きりになる。
「ふぅー」
「お疲れ、アリシア」
「いえ、カンバラさんとお話するのはとても楽しかったですから」
肩で息を吐くアリシアを労えば、そう言って微笑みを浮かべた。
流石のコミュ力だけあってか、終盤はもう颯太が話に入る隙もなく、女子トークが繰り広げられていた。初めはイザベラの面影が残る聖羅に緊張していたアリシアも、今ではすっかり聖羅に心を許しているように思えた。
「アリシアなら、きっと、もっと神払とも仲良くなるよ」
「はい。私も、もっとカンバラさんと仲良くなりたいです」
彼女と手を繋ぎながら、廊下を歩いていく。
「これで、やっと、イザベラの件は片付いたかなー」
「そうですね。カンバラさんの体調も順調に回復しているようですし、私たちも、不本意ではありますがもっと絆が深まりましたし」
きゅっ、とアリシアが僅かに握る手に力を入れた。
あの漆黒の天使は、颯太とアリシアたちに絶望だけを振りまいていたわけではない。雨もいつかは上がって、鮮やかな虹を彩るように、希望の芽もちゃんと育っていた。
そういう意味では、イザベラにはほんの少しだけ、本当に少しだけ、感謝してもいいかもしれない。けれどそんなことを言えばアリシアに叱られかねないので、颯太は胸中に留めて置いた。
「俺も、今回の件でもっとアリシアが好きになったしね」
「またそんなこと言って」
にしし、と笑いながらいえば、アリシアはほんのりと頬を朱らめながらも困った風に吐息した。
それからは病院の外に出るまでは、互いに無言のまま、ただ手の温もりを確かめあった。
「うぅ。院内が温かったせいか、外に出ると余計に寒く感じてしまいますね」
「だね。どうする? 自販機で何か温かい飲み物でも買ってから帰る?」
「いえ。すぐに慣れると思いますので大丈夫です。それに、節約は大事ですよ?」
「ごもっともで」
すっかり主婦になってしまったアリシアに颯太は苦笑した。実は颯太が温かい飲み物を欲しかっただけなのだが、アリシアが飲まないなら我慢する。代わりに、握りあう手の温もりをもっと強くした。
「……温かいです」
「ん。俺もだよ」
アリシアが照れたように呟いて、颯太も同調する。寒さには、人肌の温もりが丁度いい。
「さ、駅までいこっか」
「はい」
周りの目線なんて気にも留めず、二人は道路を歩いていく。
「今年は雪降るかなー」
「ゆき?」
「そっか。アリシアは雪って知らないか。雪っていうのはね、氷の結晶のこと」
「氷の結晶、ですか……」
「そう。降り積もると、一面が真っ白な世界になるんだ」
「ほぉ! それは見てみたくなりますね!」
「はは。なら、今年は雪が降ってくれるように神様にお祈りしないとだね」
「はいっ。雪よ~、降りたまえ~」
空に祈るアリシアに、颯太は微笑ましくなって口角を上げた。
「ま、潮風町で雪が降ったことなんて7年も前だけどね。それきりこの町でみたことない」
「じゃあなんでお願いさせたんですか⁉」
「いや、今年はアリシアと一緒だからさ、見れたら最高だろうなと思って」
「うっ。また嬉しいことをさらりと言って……」
とアリシアが顔を赤くした。
そんなアリシアに、颯太は語りかける。
「もし雪が降らなかったら、雪が見れる場所まで出かけようか。電車でもバスでも。二人で」
「いいですねそれ。ソウタさんと一緒なら、どこまでも行けますから」
「じゃあ、決まりだね」
アリシアと、そんな未来の約束をする。アリシアの言う通り、二人でなら何処へでも行ける気がした。
だからこそ、
「ねぇ、アリシア」
「? なんですか」
声音を落とせば、アリシアは小首を傾げた。
不思議そうな顔をするアリシアを一瞥してから、颯太は言った。
「俺さ、朋絵と陸人に、ちゃんと話そうと思ってる。アリシアが、天使だってこと」
「――――」
そう言えば、アリシアは言葉を噤んだ。
懊悩としている彼女に、颯太は続けた。
「神払のことも含めて、二人には天使や天界のことを話しておきたいんだ。二人は俺の親友で、アリシアにとっても大事な友達だろうから。そんな友達に、いつまでも秘密を抱えたままは、アリシアだって嫌だろ?」
「はい」
アリシアは、こくりと頷く。
天使としての過去を乗り越えて、人間として成長したといっても、やはりまだ怖いのだろう。当然だ。自分がこれまでずっと隠し続けていた、信じられるはずがない事実、それを明かすのだから。
でも、
「大丈夫。あの二人ならきっと、アリシアが天使だってこと、信じてくれるよ」
真っ直ぐで真面目で優しい朋絵だ。
快活で素直な陸人だ。
颯太とアリシアの友達は、友達を信じてくれる人だ。
アリシアもそれは知っているから。
アリシアは、厳然と頷いた。
「分かりました。トモエさんとリクトさんに、私のことを話します」
自分たちの未来の為にも、と覚悟を決めてくれたアリシア。その勇気に、颯太は「ありがとう」と返した。
いつまでも、誤魔化しが効くとは思っていない。打ち明けなければならない時期がきた。それだけだ。
「少しずつ、俺たちのペースで進んでいこうよ。これからは、ずっと一緒なんだからさ」
「はい。私のペースで、ゆっくり、でもちゃんと進んでいきましょう」
微笑み合いながら、二人はゆっくりと前に進んでいくのだった――。
―― Fin ――
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次回は朋絵と陸人のお話でござる。
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