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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十二章
1737/1750

策動

 第十一軍団によるフィノタ・ドロワス・アロワンテ周辺での陣地構築と、ケーランとミラブルムを中心としたティツィアーノ側勢力による妨害。ティバスの丘の要塞化を進めながら続ける小競り合いは、しかしマシディリの狙い通りに大規模会戦に繋がることは無かった。


 されど、外からの動きは活発化する。


 戦いから僅か一週間。ユクルセーダを始めとする東方諸部族からカナロイアへ抗議文が届けられたのだ。内容は、東方諸部族への攻撃意思とみなすと言う警告文。その対象となったのはティツィアーノ側によるスペランツァへの攻撃。東方諸部族の旗を掲げている陣地に対して本格攻撃を行ったと言う事実に対して。


 その上で、カナロイアとの洋上に浮かぶ二つの島の内、より東方諸部族に近いエレスポント島にユクルセーダがナウムカンダ・テランを大将とする七百の兵を入れている。マシディリに対する封鎖を試みている一部のエリポス諸都市との小競り合いも起こった。そして、ユクルセーダの船も被害を受け、報復を実行。エリポスへの糾弾も、カナロイアに向けて発したようだ。


 狙いは、良く分かる。


 エリポスと東方諸部族の間に浮かぶ、エレスポント島やリントヘノス島を中心とした島々は長い間両地域の係争地としてあり続けている諸島群だ。


 リントヘノス島をカナロイアが手中に収めている以上、もう片方は失う訳にはいかない。できれば取り返したい。ただし、単独でカナロイアに勝てる訳では無い。


 だからこそ、マシディリの威信を借りる。


 ティツィアーノに味方するカナロイアを糾弾し、自分達が攻撃を受けたとしてまずはマシディリに軍団の派遣を提案。断られれば物資を提供。むしろ、断られた結果物資を提供し、ウェラテヌス海軍がいない状態の東方海域にてマシディリ側としての実権を握る。


 マフソレイオの海軍もいないのであれば、一番実効支配しやすい時勢なのだ。カナロイアの軍船も脅威だが、彼らが他のエリポス諸都市の軍船とも睨み合っているのはユクルセーダも知っている。


 もちろん、カナロイアへの敵対姿勢だけでは無い。カナロイアと関係の薄いエリポス諸都市による攻撃への非難をカナロイアに向けると言うことは、エリポスの盟主はカナロイアであると認めたようなモノでもある。


 少なくとも、ユクルセーダ伝手に東方諸部族全体に伝播させることは可能だ。


 カナロイアとユクルセーダで戦い合って欲しくないのがマシディリの本音ではあるが、ナウムカンダの派遣はマシディリに対して配慮もしていると言う態度。カナロイアがその気になれば排斥される程度の実力の部隊だけを配置し、これ以上こちらから行く気は無いですよ、と示している。国内には強烈な怒りと勇敢な指導者としての姿を見せつつ、アレッシアに対しては恭順の意を示す一手だ。


 無論、戦闘結果を知ってからだとは思えないほど、素早い行動である。


「スペランツァの叔父上をカナロイアに派遣していたのは、これを見越してでもあるのですか?」

 ラエテルが聞いてくる。


「ユリアンナには説明しておかないとね」

「なるほど」

 ふむふむ、と言いながら、ラエテルが手紙づくりに戻る。


「母上へ。お元気ですか?」

 どうやら、諸都市への手紙はある程度書き終わっていたらしい。


「父上は元気です」

「私かい」

 べルティーナはラエテルのことも心配していると思うよ、と思いつつ。


「父上に女性の影は一切無いので、安心してください。少人数で会うことがあるのも、ユリアンナの叔母上だけですが、ユリアンナの叔母上とも最近は手紙だけになっています」


「べルティーナはユリアンナのことも案じていそうだね」

「叔母上は、敵対派閥や障害となる人達を栄転させることで表立った行動をできなくさせていました。父上は、順調に叔母上派閥以外の財布を抜き取っています」


「敵方に見られても困らない内容にしてね」

「父上と叔母上が本気を出してカナロイア政権を獲りに行っているので、派閥対立が解消するのも時間の問題だと思います」


 全く違う内容を書いている気すらしながら、マシディリは小さくため息を吐いた。楽しいと言う感情を隠せていない息である。


「東方諸部族が戦闘の意思を見せれば見せるほど、王妃派への風当たりも強くなるからね」


 ただし、カクラティスも東方諸部族を抑えたいと思っていれば、王妃派自体はしばらく残り続けるはずだ。


 難しいかじ取りは続くのである。

 調整と調停で平和をもたらせると信じさせなければ、どちらかを、あるいは両方を失うかも知れない。


(なるほど)

 そう考えた時、ウェラテヌスの次期当主として最もふさわしいのは、今、目の前で手紙を書いている愛息だ。軍事に関しては優秀な者が揃っている。さらなる幸運は、彼らが『武力こそが一番』と考える者達では無いことだ。


 アグニッシモ、スペランツァ、ヴィルフェット、フィロラード、セアデラ。父の薫陶を受け継ぐ親類で固めることだってできる。


(血縁よりも能力でいきたいけど)


 名門には根付いた力がある。

 例えばアビィティロのような能力の高い平民を抜擢し、一気に権力を持たせるには名門が傍にいた方が良いのだ。結果的に高い能力を持つ人を国家の運営に多く関わらせようと思えば、アレッシアの頭は建国五門の誰かである方が都合が良いだろう。


「リャトリーチ」

「は」


 父のエリポス遠征にも従軍していた被庇護者が即座に現れる。

 それはどうやっているの? とラエテルが無邪気に質問し、秘密です、とリャトリーチが答えた。食い下がろうとする愛息を、マシディリは手を向けることで制止する。


「ソルプレーサの所に行って、ユリアンナの守りをより固めるように言っておいてくれるかい? ユリアンナにも、ネプトフィリアを傍から離さないように、と」


 甥は、順調に母親っ子になっていると思いきや、好奇心旺盛で母親から離れることも多くなっているらしいのだ。


「王妃派が暴走する可能性は、高くなっているからね」

「かしこまりました」


 無論、カナロイア王太子であるフォマルハウトにも手紙を書いておく。ついでに、フォマルハウトの弟には偽書を送りつける予定だ。王妃派による意思確認。その内容。返答如何によっては、取り扱いも大きく変わってくる。


(アフロポリネイオの治安維持は、まあ、良いか)


 荒れればフォマルハウトの部隊が必要だったと言うこと。

 カナロイアの力が増すことにはなるが、必要な投資だ。


 続く手筈は、フィノタ・ドロワス・アロワンテからカナロイアへと通じる道の安全確保。


 王妃派の暴走が起こった場合、ティツィアーノがカナロイアに介入する可能性は高いはずだ。その場合は、もちろんマシディリが率いている武力が必要となってくる。


 その時の最大の問題は、どこを突破するか。


 フィノタ・ドロワス・アロワンテが隣接する街道を使っても、隘路を通らざるを得ない場所がある。そこで襲撃されれば流石に厳しいのだ。


 あるいは、先の地点、マタリヤクラドスまで戻って突破を狙うか。


 いずれにせよ、ティツィアーノ優勢の状態で戦わざるを得ない。


 一方で、ティツィアーノとしても王妃派の暴走は美味しくない展開のはずだ。今は手を組んでいるが、王妃派はティツィアーノと手を組み続けたい訳では無い。カナロイアを占拠した際に利益は減り、そして調整と言う概念が欠け、エリポス中心主義の王妃派では東方諸部族による攻勢を招く。


 王妃派がカナロイアを握った瞬間が、最大の栄光。


 その後に待ち受けるのは全方位の敵化。その時にティツィアーノに支援要請が来て、ティツィアーノが上手く答えられなければ、どうなるか。簡単だ。王妃派を支援しながら見捨てたと言われ、エリポスからの信を失ってしまう。


(大変ですね)

 元老院を持ち出しても、半島を捨てたのはやはり失策でしたよ。


 そう思いながら、マシディリはユリアンナからの手紙に目を通す。


 ティバスの丘に築かれた防御陣地を突破した。エスピラ様から教えを授かっているフィロラードが作った防御陣地も同日の内に破壊している。短期間で、防御陣地群を二つ破壊したのだ。


 そう、ティツィアーノが喧伝しているとの内容。


「大変ですね」


 声に、出す。


 そのティバスの丘は既にマシディリが再占拠。

 フィノタ・ドロワス・アロワンテにはそのフィロラードを主導として新たな防御陣地。

 何よりも、メガロバシラスとドーリスの部隊への大打撃。


 実情に合わない威勢の良い報告になりつつあることを感じ取っている人は、増えているだろう。


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