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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十二章
1733/1733

背水の決断 Ⅰ

(長期戦を狙ってはいない、はず)

 ティツィアーノがこれまで以上に王妃派との接触を増やしているのはマシディリも把握している。


「えと。隻眼の伯父上は各個撃破をされないように全軍で動いていて、一つずつの陣の形成は防御陣地群の作成にも繋がっていて少しずつ父上を不利にする方向に動いていると思います。あとは、じっくりと動くことでこちら側を焦らせ、攻撃したいと言う者を増やそうとしている、とか」


「後は、私の愚かな行動を見て兄上の統率があまり及んでいないのかと思い、確認に動いているとも思弁いたします」


 セアデラがぶっきらぼうに言う。

 自分で言うんだ、とアルムが素直に口にした。高官の中では歳は近いが、経験値で差がある高官に対してはセアデラも何も言わないようである。


(どうしようかな)


 夏が来る。


 軍団の避暑地としては、二十キロ後方も考えていた。そこまで下がれば、さらに北方には今よりも馬の放牧に向いた平野が広がっている。湖も二つだ。軍団を分断する形にはなるが、間にある高地が少し突き出しており、見張りと初動防衛に使いやすい土地でもある。


 問題点はカナロイアから離れることと、ドーリスとの連絡線が襲われやすくなること。それから、マシディリの方が逃げた形に見られることが交渉にどれだけ影響するか。


 物資の輸送については、さほど変化は無い。

 今の場所に居てもカナロイアに陸揚げした物資を大量に運ぶことは出来ないのだ。陸上での後方基地にしていきたい場所に近づく分、物流が良くなる算段の方が高いのも事実。


「兄上」

 兄上、と言いつつも続柄は従兄弟。

 ヴィルフェットが棒を手に取り、地図にのせる。


「少数戦力でフィノタ・ドロワス・アロワンテまで一気に打通し、北方からカナロイアへと通じる二つの街道を封鎖してしまうのは如何でしょうか」


 長すぎる地名は、各方面への配慮だ。


 フィノタ・ドロワス・アロワンテ。各国、エリポス内でもカナロイアやアフロポリネイオ、ドーリスが個別に名をつけ、さらには東方世界でも別の地名が着けられている地。それだけ古来では要所として係争地となって来た場所だ。


「カナロイアの封鎖は美味しくない」


 否定したのはスペランツァ。

 封鎖にはなりません、とヴィルフェット。


「兄上が途中から私にカナロイアとの表の折衝を任せた理由を考えろ」


 スペランツァの言葉に、ぴょこり、と特別参加のラエテルが反応する。

 目を向ける高官はその時々によって変わるが、ラエテルによる分析、解説はある程度頼りにされているようだ。マシディリとしても、高官達を育てることにも繋がるため嬉しいことである。


「叔母上との血縁を活かして距離の近さを見せるためだと思います!」

「部分点だ。ああ。部分点にございます、ラエテル様」

「むしろ無礼」


 スペランツァの態度に対し、アグニッシモが横槍を入れる。スペランツァもすぐに何時も通りの姿勢に戻った。


「私の小さい頃、父上は基本的に遠征中でした。兄上も幼いながら職責があり、母上は母上。屋根の下からは出てきません。

 結果的に姉上に面倒を見てもらうことも多くありました。誤解を恐れずに言えば、私は姉上に半ば頭が上がりません。そのような関係性をカナロイアに対しても見せることで王妃派へのけん制ともしてきたのです。


 だと言うのに、フィノタ・ドロワス・アロワンテを封鎖してしまえば、どう思われるか。

 兄上が封鎖するならともかく、少数戦力での打通作戦であれば私は賛同いたしません」


「敵にも三つの街道を渡すのは、戦局を不利にしかねないと愚考いたします」

「ティツィアーノがカナロイアの陸路を完全封鎖したと喧伝すれば良い」


「此処で不確定な喧伝に乗り出すことこそ、兄上のこれまでの戦略の邪魔になると愚考いたしますが、如何でしょうか」


 スペランツァの口が開く。

 最初は、反論のためだったのだろう。だが、目が動き、止まった。


「一理ある」


 そして、下がる。

 ヴィルフェットも前に出ていた重心をいそいそと元の位置に戻していた。


(前のめりな姿勢か)


 マシディリが最も検討していた作戦は北方に下がる道。

 しかし、ヴィルフェットの提案は東へ出ての敵の封鎖。再開し始めた論の争点も、基本は戦略に則った場合どのような作戦が良いのかと言う考え。目は東を向いている。


 そして、一種の披露会だ。


(どうするかな)


 第十軍団および第十一軍団の高官の考えは、このまま水源に乏しい地域にティツィアーノを閉じ込め続け、弱らせること。マシディリにはそう聞こえた。少なくとも、マシディリが北方に引くことで、現在マシディリが抑えている河川がティツィアーノの手に渡るのは確実なのだ。


 もう一つの問題点は、戦いの長期化。


 夏に戦闘を控えるためどうしても時間はかかるようになり、その間の動きは兵は分かりにくくなる。その時に軍規が緩まないためにも、士気の高さはある程度維持しておきたいのだ。


「ティバスの丘に、縄張りをはろうか」


 結果、マシディリは現在地より東北東、フィノタ・ドロワス・アロワンテとの中間地点にある丘の確保を作戦行動と決める。


 敵に奪われると後方の街まで狙われかねない場所であり、現在の平野を走る街道を見下ろせる丘だ。


 要地であることに変わりは無い。

 同時に、ティツィアーノがあまり平野に下りずとも近づける地でもある。山地での戦いに引きずり込まれる可能性も否定しきれない場所だ。


「縄張りを張るのはコクウィウムとサッピトルム。セアデラは相談役として随伴するように」

 じ、と。こちらも特別参加の末弟としっかり視線を合わせる。


「クイリッタ死後の混乱期に防衛線の作成を行った実力、今回も期待しているよ」

「お任せください」


 セアデラが慇懃に膝を曲げる。

 味方第四軍団の出発は、すぐに。


 ティツィアーノの反応も早かった。


 ほぼ全軍と成る三万を超える兵を率いて移動。陣構築のための物資や道具も持っての行軍であるとは発覚したが、それ以上は近づけさせない徹底ぶりである。


(ティツィアーノ様もカナロイアへの警戒は解き切ることは出来ていない)


 エリポスの中でも影響力のある都市だ。動員兵力も万はいかないまでも、決して無視はできない。陸軍もそう。そして、今は最前線に兵が集まっている。カナロイアが変貌してマシディリと共にティツィアーノを襲うことも、カナロイアが両軍にとって決定的な機を手に入れることを望んではいないはずだ。


 少なくとも、マシディリは望んでいない。

 ある程度はカナロイアに重要な部分を任せることにはなるが、決定機は絶対に渡すことができないのである。


「スペランツァ。第十軍団と第十一軍団を率いてティツィアーノの行軍に先回りを。イパリオン騎兵とトーハ族騎兵も同行させるよ。それから、クーシフォスも。


 ただし、クーシフォスは後方へ。戦場へ入るのも、開戦してから時間を空けるように。


 第三軍団の影を見せるのは、クーシフォス、貴方の仕事です。

 さほど時間を稼げずに露見しても構いません。そのわずかな時間が勝敗を決するかも知れませんから」


「かしこまりました」

 年上の義弟が頭を下げる。


 高官達の行動も素早かった。真っ先に軽装騎兵であるイパリオン騎兵とトーハ族騎兵が戦場を駆け、東へと急行する。隠れるように遠回りしてクーシフォスもティバスの丘へ。コクウィウムへは急を告げる光と使者も送っている。


 続いて、兵数が減ったことで身軽になった第十一軍団が出立した。後軍として第十軍団も即座に出立する。


 コクウィウムを入れても、兵数は二万程度だ。真正面からぶつかるのは分が悪い。


 ただし、騎兵の質も数もマシディリが上。ティツィアーノが平野に出てきても十分に戦うことは可能だ。ティツィアーノが平野での戦いを嫌い、即座にティバスの丘に登ってくれば、完全ではないが防御陣地で迎え撃つことも可能。ティツィアーノが攻撃を仕掛けてこないのであれば、それもまた作戦として有利。


 そして、第三軍団が行かなかったのは、ティツィアーノに退却の理由を与えないためだけでは無く、全軍で陽動しての本陣奇襲を警戒しての事だけでも無い。


 敵本陣への強襲攻撃。

 ティツィアーノが一万程度の第三軍団を恐れていると言う証拠づくりと、めっきり情報が少なくなった敵陣を詳しく知るため。


 ティバスの丘に陣を作ると決めた時点で、マシディリは「ティツィアーノの防御陣地群を破壊した」と言う実績を作ることを決めていたのだ。

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