言葉は
最高軍事命令権保有者 マシディリ・ウェラテヌス
副官 パラティゾ・アスピデアウス
シニストラ・アルグレヒト
騎兵隊長 アグニッシモ・ウェラテヌス
ただし、副官は海を渡らない。パラティゾは半島に残り、軍団に様々な支援をする予定だ。シニストラは半島の防衛責任者である。
続いて、各軍団編成。此処からは、名前だけで記す。
第三軍団 軍団長補佐筆頭 アビィティロ
軍団長補佐 グロブス、マンティンディ、アピス、ルカンダニエ
ウルティムスとクーシフォスの二人の二人の騎兵部隊隊長も此処に含まれる。アレッシア最強の精鋭部隊だ。
第四軍団 軍団長補佐筆頭 コクウィウム
軍団長補佐 サッピトルム
兵は二千。高官はディアクロス兄弟のみ。第四軍団の多くは敵方と言う認識の元で組まれた軍団である。
第十軍団 軍団長 スペランツァ
軍団長補佐筆頭 バゲータ
軍団長補佐 ヘグリイス、ペディタ、エキュス、ルベルクス
フロン・ティリド遠征の兵と先のフィルノルド戦の兵を中心にしつつも再編成した軍団である。スペランツァ、ヘグリイス、ペディタはビュザノンテンに籠っているため、実際に連れて行くのは四千の兵だ。
第十一軍団 軍団長 ヴィルフェット
軍団長補佐筆頭 リベラリス
軍団長補佐 フィロラード、ソリエンス、パライナ、アルム
パライナ以外、第二次ハフモニ戦争の高官の二世三世である。最も若い軍団だが、実力を証明する場にてしっかりと証明してきた六人だ。
他には、半島防衛部隊がある。
防衛部隊の軍団長格は副官でもあるシニストラ。他、元老院と民会の有力者であるファリチェ。武勇に名高いヴィエレ。経験豊富な騎兵隊長としてカウヴァッロ。
明確に軍団に組み込んではいないが、ジャンパオロ、ノルドロのナレティクス父子、ルカッチャーノ、アナストのタルキウスの者もいる。
そして、船団の責任者はビユーディだ。
此処に配置されているのは、歴戦の猛者。
主力をエリポスに渡る軍団としながら、ティツィアーノが半島に攻め寄せてきた時に対処してもらうための配置である。
無論、半島に攻め込んでくる可能性は低いとマシディリも考えていた。しかし、零では無い。故に、思いとどまらせるだけの布陣が必要なのである。
それは、防衛に於いてもそうであるが、攻撃に於いても。ティツィアーノにとって嫌なところに手を打てる面子を。
「『炎は私の意思を伝え、炎は生活を豊かにし、過ぎたる炎は地上を焼き尽くす。されど、如何なる炎も大海の前では泳げぬ稚児と同じ』
と、神は、仰せになっております」
神殿の最奥で、申し訳なさそうにフォンスが言う。
マシディリの手元にあるのは、これまた優秀な巫女であるラウラからの手紙だ。無論、マシディリに直接宛てたものでは無い。マシディリがパラティゾを介して頼むと見越してフォンスに宛てていた手紙だ。
『炎は地上を巡り、風に乗って広がる。多くの恵みと破壊をもたらす聖なる物である。されど、炎が大海を越えることは出来ない。海はあらゆる炎を消してきた』
似た神託。
加えて、マシディリのプラントゥムでの成果は驚くべき速さで、それこそ風のような速さで全土に広がった、と。恵みを得た者も多く、失った者も多かったでしょう、とも。
左手に持つ手紙に再度目を落とし、音をたてずに鼻から息を吐いた。
手紙から視線も切り、机の上に置く。薄暗い部屋だが、静けさの中に温かさのある部屋でもあった。
「私の勝利の女神は、私が勝ち、生きて帰ってくると言っていますから」
「それは」
フォンスが声を閉じていく。
「威勢の良いモノを頼みます。軍団の士気を上げる神託を」
それだけ言い残し、マシディリは堂々と紫のペリースを翻した。
階段を上がり、薄暗い大部屋を出て、廊下を行く。中庭では、ラエテルが処女神の神殿の守り手たちと打ち解けているようであった。
(そうか)
守り手の若い者達はラエテルと同じような歳。年上の者の方が圧倒的に多いが、軍団なんかよりもよっぽど同年代の集まりである。
「父上!」
邪魔しないでおこう。
そう思った直後に、愛息に見つかってしまう。マシディリが鷹揚に手を挙げるよりも先に、守り手たちが一斉に頭を垂れて来た。
「楽にして良いですよ」
「みんなの格好良い顔が見えないのがもったいないって」
ラエテルの言葉に、微笑みに似た小さな笑い声がこぼれる。守り手たちの顔も上がってきた。その中で、ラエテルが近づいてくる。立派な青年の歩みだ。だが、どうしても幼いころのような『とたとた』と言った歩きを思い出してしまう。
「できうる限りの人達に、父上の意思と言葉を伝えてきました!」
ずびし、とラエテルが胸を張る。
マシディリも、ご苦労、と尤もらしく言い、すぐに雰囲気をやわらげた。
「助かるよ、ラエテル」
言葉は贈り物。
ラエテルの行動はまさにそう言うモノであり、大袈裟なこともあれども決して嫌な気にさせるモノでも無いのだ。軍団をまとめ上げ、士気を上げる、さらには苦境に於いて思いとどまるのにこれ以上ない才能である。
したがって、出陣前の調整段階に於いてマシディリが最も重用する存在となるのは必然であった。贔屓などでは無く、純粋な能力評価である。
物資管理はパラティゾやボルビリ、ファリチェなどとも話し合う。
戦略はアビィティロとやり取りをしつつ、ヴィルフェットやフィロラードとも共有した。
政策はアルモニアやシニストラであり、外交にはそこにアグニッシモも混ぜている。
だが、最も言葉を交わしたのはラエテルであった。
マシディリの意図を伝え、ラエテルが言葉にして相手に手渡す。能力評価と共に政治的なことも考えた配置もあるのだが、その意図を正確に、間違った方向に行くことなく伝え、ウェラテヌスからの信頼を伝えてくれているのだ。
だからこそ、神殿からの帰りなどのちょっとした時間にもさらに思いを共有しておく。誰に対してどう思っているのか。どう考えているからこのような配置になったのか。何を思って控えさせているのか。
なるほど。
確かにマシディリの意思をくみ取るのはソルディアンナが頭一つ抜けているかも知れない。
しかし、想いを伝え、相手を心地良くさせて尽くしてもらえるのはラエテル以上の適任はいなかった。
(後は功績か)
ただし、焦るモノでも無い。
マシディリに対しても焦る必要は無いと伝えるためか、愛妻に駒遊びに誘われたのはラエテルと共に帰宅した少し後の事であった。
愛妻と対局するからと言って特別な決まりはない。
メガロバシラス王子エキシポンスやユクルセーダから来たカチャムと打った駒遊びである。
クイリッタとも遊んだし、ティツィアーノやパラティゾと打ったこともある。
そのような並みいる猛者と対局したことのあるマシディリであったが、愛妻の腕も、彼らと遜色のない素晴らしい腕であった。
「ぅうむ」
思わずうなる。
「真剣に考えているマシディリさんも素敵よ」
マシディリは、思わず視線を動かしてしまった。
愛妻の声は真摯なモノ。そもそも、盤外戦術で勝とうとするような人では無い。
「素直な気持ちなのだけど」
愛妻が、今度はむくれたように頬を膨らませる。
「いえ。それは、嬉しいのですが」
「私がいつも思っていることよ」
「……ありがとう、ございます」
「それだけ?」
「私も、べルティーナのことを愛していますよ。この世界の海を全て私の愛に変えても足りないくらい、とても大きく、深く。愛しています」
「知っているわ」
そう言って、愛妻が前に出て来た。




